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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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ロネント部

 ロウアはいつものように学校に登校していたが、昨日の巻き込まれた"お助け部"の猫探しで疲れ果てていた。


(はぁ~、疲れた。身体中が筋肉痛だよ……)


(おっさんかよ、お前は)


(元は君の身体なんだけど……)


(運動不足だったかもな、わははっ!)


(……全く)


 ロウアは隣人の話は、ほっといて放課後どうするかを考えていた。放課後、またアマミルに捕まってはなるまいと策を考えていた。授業が終わり、放課後になると、ロウアはそそくさと図書室に向かった。図書室の個室に入ってしまえば容易には見つからないだろうと思ったからだった。

 ロウアは慎重に周りを警戒しながら移動し、何とか図書室にたどり着いてホッとした。だが、自動ドアが閉まるのを確認して後ろを向いた瞬間、アマミルが腕を組んでこちらを見つめていたので心臓が止まるかと思った。


「ぎゃっ!」


 その瞬間、ロウアは腰を抜かした転んでしまった。顔を上げるとアマミルが目を細めてこちらを睨んでいて、指先が上下に揺れていてイライラしているのが分かった。


「ロウア君、どこ行こうとしているのかしら?」


「え、いや……、ちょ、ちょっと図書室で、し、調べ物を……しようかな~……と」


「そんなのは、あとあとっ!さっ、行くわよっ!」


「あぁ……」


 ロウアは、図書室ではなく他の場所で勉強すれば良かったと後悔した。アマミルにしっかりと袖を捕まえられて、逃げられなくなってしまった。だが、彼はとっさに逃げる方法を一つ思いついた。


(ロ、ロウア君、君は部活をやっていなかったの?)


(やってたよ)


(おぉ、それだっ!てか、何で言わないんだよ……)


(聞かれなかったからなっ!)


(またそれか……。はぁ……)


 魂のロウアが説明しなったのは、ロウアが困るのを見て楽しみたかったからだった。彼はそれが分かってため息が出た。


(まぁ、それはイイや……。それで、どこの部活?)


(お、丁度そこの教室だぜ)


 魂のロウアが、すぐそこだと指を指したので、ロウアは、しめたと思い、アマミルの手を離すとさっとその部屋に飛び込んだ。


「ちょ、ちょっと部活に挨拶に、い、行きますっ!」


「えっ!ロウア君、部活に所属していたの?」


「そ、そうなんです。昨日は、説明できず……すいません」


「う~ん、じゃぁ、今日は良いけど、また呼びに行くからねっ!」


「は、はい……」


 ロウアは、またアマミルが呼びに来るのかと思ってうんざりとしたが、取りあえず今日のところは何とか逃げることが出来たので胸をなで下ろした。


(明日も何か対策しなければ……)


(まぁ、せいぜい頑張れよっ!)


(協力的じゃ無いなぁ……)


 魂のロウアは愉しそうにこっちを見ているだけだった。


 ロウアは、アマミル達の相性、"ご迷惑少女組"というのは、文字通りの意味だと感じた。アマミルは、奇抜な行動というより、強い思い込みと活動的な行動力で色々な人を巻き込んでしまうのだろうと思った。だが、それが"正解"であるからこそ許されている、そんな気もしていた。だが、自分は巻き込まないでと密かに祈った。


 ロウアは勢いで部室に逃げ込んだ事を思いだした。教室を見回すと、そこには一人の男子生徒が何があったのかと、後ろを振り返りながら、こちらを見つめていた。


「あ、あの、私は、ロ、ロウアと申します……」


 ロウアは何か言わないといけないと思ったが何も思いつかず、結局出てきた言葉がえらく丁寧な自己紹介だった。


(ぷっ!そんなのは分かっているって~のっ!)


 それを魂のロウアはすかさず突っ込んだ。


(お、思わず自己紹介してしまった……)


 彼は、ロウアが入る前に何かいじっていたようで、彼の目の前には電子機器のようなものが沢山転がっていた。そして、その太った身体を何とか立ち上がらせると、元部員の方に向かってきてその肩をポンと叩いて喜んだ。


「ロ、ロウアッ!

しばらく来ないから心配したじゃないかぁっ!

海で溺れたりとか、右腕を無くしちゃったりとか、シアムちゃんを助けたりとか、そんなレア体験しているのに、こっちに来てくれないからぁ~。

全くどうしちゃったんだよぉ~」


「あ、あはは、ご、ごめん……なさい」


 ロウアにしてみれは、この部活のことを誰も教えてくれなかったのだからどうしようもなかった。

 それにしてもこの部室は、お助け部とは違い、とても広い。20名ぐらいが入れそうな広さだった。だが、目の前にはこの男性生徒一人しかいない。


「ちょ、ちょっ~と……。お待ちを……」


 ロウアは、取りあえずアマミルから逃げるため入ったため、この部活が何なのか知らなかった。仕方なく、魂のロウアにヒアリングしようと彼から少し距離を置いた。


(ロ、ロウア君、ここは何の部活なの?)


(ここはロネントを研究する部活だぜ?)


(えっ?!ロネント?)


(そうだぜ?)


 ついこの前、ロネントの誘拐事件が起こったというのに、なんと自分はロネントを扱う部の部員だったということだった。それにしても、この部は彼一人しかいないのが気になった。


(というか部員は、彼一人?)


(そうだよ。俺とこいつだけ。みんなつまらなくなって止めていっちまうんだ。すげー面白いのになぁ)


 ロウアは、二日連続で人の少ない部に所属したような気がして、何故か悲しい気持ちになった。それを察したのか分からないが、部員はロウアに話しかけてきた。


「どうしたのさぁ。ロウア?」


「い、いやぁ、何でも無いよ……。あはは……」


「あの誘拐事件だけどさぁ。ロネントが自発的に動いたというじゃないか~っ!」


 ロネント部の部員らしい質問だった。


「そ、そうなんだよね……」


「それはすごいと思うんだけどさぁ。ロネントが人間を襲うなんてことあり得ないよぉ~……。僕は悲しくて……。君もそうだろ?」


 彼は自分の大好きなロネントが人を襲うなんて信じられないと話し、悲しそうな顔をした。


「う、うん、そ、そうだよね……」


 ロウアは適当に口を合わせた。


「僕の嫁もとても悲しんでいるんだぁ~っ!」


「よ、嫁?」


 彼が嫁と言った意味はロウアには理解出来なかったが、その言葉と共に床に居た"もの"がむくりと立ち上がった。


「ロウア……、サミシカッタ、クルノオソカッタな」


「うわっ!」


 目の前に立ち上がったのは、まさにロネントだったのでロウアはマジマジと見つめた。このロネントは、今まで見てきた人間に近いロネントとは違い、いかにもロボットといった身体をしていた。


 身長は1メートルぐらいしか無く、身体は真っ白なカバーが鎧のように覆われていて、顔にはまん丸の目が2つ付いていた。その後頭部から背中に垂れているアンテナは長髪の女性のように見えた。ロウアは、どうやらこの生徒が"嫁"と呼ぶのはこの女性型(?)ロネントのことなのだと理解した。


「あれぇ、ぼくの嫁を見て何で驚くんだよぉ」


「い、いや……、その……、この前の事件でちょっとロネントが怖いというか、何というか……」


「散々自分でも作ってたくせに何を言っているんだよぉ~。僕の嫁も君が手伝ってくれたから、ここまで出来たんじゃ無いかぁ」


 彼は、そう言って部室の奥を見せるように腕を広げて見せた。ロウアが教室の奥をよく見ると、確かに何体ものロネントが転がっているのが見えた。ロウアとこの男子生徒の二人で作っていた試作機はもちろん、今までのこの部の歴代の先輩達が作ったと思えるロネントの部品が沢山転がっているようだった。


(な、なるほど……。確かにロネントの部室みたいだね……)


(だろ。てか、歴史的にも古い部活だから、部室は立派なんだぜ。賞も何回か取ってるしな)


(そうなのか)


 そう言われてみると、確かに壁には賞状らしきものが、何枚も飾ってある。良く読めないが、ロネント青年部優勝とかロネント改造大会準優勝とか、ロネント救助部門優勝など今までの活動成果が飾られていた。


(この時代でも賞状ってあるんだな)


(ショウジョウ?あぁ、あれね。お前たちの時代ではそう呼ぶのか。今時、紙で印刷とかあり得ないわ。あんなもんくれるなら、金よこせって言いたぜ)


(少しは喜びなよ……)


 電子化の進んだこの時代で紙媒体を使っているのは確かに珍しかった。だが、魂のロウアは、そんな成果を大したことの無いような口調で話した。


「ロウア、何か変だなぁ……。色々忘れちゃったみたいだよぉ?」


「あ、あの、ごめんね。え、えっと、僕は海の事故で記憶がなくなってしまって……」


 ロウアは、未来から来たと話すことも出来ず、今まで通り、自分が記憶は無くなっているという説明をした。


「えっ、記憶喪失なのっ!すごいっ!レア体験じゃないっ!!ウラヤマ~ッ!」


「え、あ、喜んじゃうのね……。ウラヤマって、うらやましいってことかな……」


(こいつは変わっているからな)


(君が言うなよ……)


 ロウアが隣人のツッコミに呆れていると、部員はまた悲しそうな顔をした。


「はぁ~、記憶喪失ってのは大変だよねぇ」


「思い出すのに時間が掛かるかも……」


 ロウアは、そう話すしかなかった。


「うん、そうだねぇ……。レア体験だねぇ……。

だけど、自分のツナクトノを調べれば色々な事が思い出す事が出来るんじゃないかなぁ」


「えっ?」


 彼がツナクトノを使えば色々な事を調べることが出来るのではないかと提案してくれたので、ロウアは、そんな方法があるのかと驚いてしまった。またしても、魂のロウアは、教えてくれなかったわけで、ロウアは魂のロウアをにらみつけた。当の魂のロウアは、知らぬ存ぜぬといった風情であらぬ方向を見ていた。


「そ、そうなの?やり方を教えてくれるかい?」


「はぁ~、ツナクトノの使い方を忘れちゃってるのかぁ~。仕方ないなぁ~」


 ロウアは、取りあえずツナクトノの内部データへのアクセス方法を教えてもらった。どうやら、個人の色々な活動記録も保存されているようだった。移動した場所、そこに居た時間は、おろか、話した内容、眠った時間まで残っていて、ロウアは、これはすごいぞと感動した。


「す、すごいよっ!こんなに情報が保存されているなんてっ!」


「そんなに驚くなんてっ!僕の方がビックリだよぅ。まるで別世界からやって来たみたいなことを言うなぁ。今流行の異世界転生みたいじゃない?あはははっ!」


「えぇ、は、流行?異世界転生って流行ってるの?」


「そうだよぉ。"なろう"で有名だろ?主人公はさぁ、すっごい能力持ってて敵をビシバシとやっつけて、女の子にモテモテでさぁ。もはやテンプレじゃないかぁ」


「はぁ、そ、そうなんだ。また、"なろう"かぁ……」


(お前はどれにも当てはまらないな。あっ!変な魔法は使えるか?)


 ロウアは、隣人のツッコミは無視した。


「異世界転生は置いとくとして……。教えてくれて、ありがとうね、え、え~っと……」


 ツナクトノの使い方を教えてくれた彼にお礼を言おうとしたが、彼の名前を知らないことにロウアは気づいてしまった。


「あれ、もしかして、僕の名前も忘れちゃったぁ?」


 彼は、太った身体のせいか、言葉の歯切れが悪いが、頭は良いらしくすぐに察してくれた。


「うん、ごめん……」


「仕方ないよぉ~。レア体験中だもんね。僕の名前は、"マフメノ"だよぉ、覚えておいてねぇ」


「う、うん。マフメノ、改めてよろしく」


「うははっ!挨拶とかして変なのぉ~っ!」


 ロウアは、先ほどからマフメノと話していると知り合いとと話しているような錯覚を覚えていた。


(しかし、マフメノも……21世紀でも会ったような……。う~ん)


(なんだ?こいつもか?)


(誰かに似ているんだけどなぁ……)


(また死んでいた奴か?)


(う~ん、分からない……)


 ロウアはマフメノをどこかで見たような気がするが、21世紀ではここまで太った人に出会っていなかったので分からなかった。


(ともかく、ツナクトノを調べたいなぁっ!君のことを知らないとこの先、困った事になりそうだからね)


(……俺のことを調べられるのは気持ち悪いが……、ちっ、しゃ~ないか)


 ロウアは、マフメノが誰の過去世なのか分からなかったが、彼から教わった方法で自分の記憶にアクセス出来そうだと分かったので早く確認したいという気持ちがわいてきた。魂のロウアは自分の事を知られるのを嫌がって教えなかったようだったが、遂に諦めたようだった。


「マフメノ、僕はそろそろ帰るね。色々教えてくれてありがとう」


「えぇ、早いよぉ~。ま、また来てくれるよねぇ?一人じゃ、色々と手が回らないんだよぉ」


「おっ!来る、来るよっ!ぜ~ったい、また来るっ!!」


 ロウアはアマミルから逃げる口実が出来たと思い、内心助かったと思った。そして、今日のところは、ロネント部を後にして帰宅するのだった。


「絶対だよぉ~」


「うん、それじゃっ!!」


マ 神の光を身に受けて流れ

フ 一つになり新しい力となる

メ それは次の流れとなり

ノ 固まり、何を生み出す

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2022/10/30 文体の訂正、文章の校正


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