ご迷惑少女組
ロウアが引っ張って来られた場所は、四階生のフロアの更に上の廊下の隅っこにある小さな教室だった。外から見えるこの教室は授業で使われるような教室とは違い、数名しか入れないような小さな部屋だった。つまり誰も使っていないような空き部屋を使って活動をしているのだとロウアは思った。
アマミルは到着するなり勢いよく扉を開けた。
「連れて来たよっ!!!イツキナッ!」
「おおっ!さっすが~、アマミル、やるねっ!」
アマミルを褒め称えた女生徒は、部屋の椅子に座っていたが、こちらを見るなり立ち上がり、大喜びで手を叩いていた。ロウアはその顔を見てまたあきれ返ってしまった。21世紀に霊体として自分を助けてくれた愛那と同じ顔だったからだ。
(あ、愛那か……。はぁ~、縁ってすごいな……)
(こいつもか?)
魂のロウアが、またかという顔をしながら聞いてきた。
(うん、この子は僕を色々助けてくれた愛那の過去世だと思う。未来では君の妹だったよ)
(そうなのかっ!?)
(ただ、霊体だったけど……)
(なんと、そうか。こいつとも縁があるのか。つまり、こいつは未来では俺とも縁があったということか……。てか、お前の知り合い達ってみんな霊体だったわけ?)
(そ、そんなこと……。か、香織さんは生きていたよ……)
(お前ってさ、もしかして生きてる人間と関わり合いが少なかった?寂しい奴だな~っ!)
(……い、言い返せない。何か悔しい……)
「ロウア君、さっきから何かボーッとしているけど大丈夫?」
「えっ!あ、あぁ、だ、大丈夫です」
「えっと、説明するね」
「……説明ですか?部活に入るとは言っていませんが……」
「まあ、良いじゃないっ!話だけでも聞いてよっ!」
アマミルは、ロウアの言葉も聞かず、部活の説明しようとするのだが、彼はあることに気づいた。
「というか……」
「なぁに?ロウア君」
「部員は二人だけですか……?」
「な~~っ!よ、よく分かったわね……」
アマミルは、早くも言い当てられたと言った顔をして驚いていた。
「そうなのよ。君ったらボーッとしているから大丈夫かと思ったけど、さすがに鋭いわね」
イツキナは腕を組んで感心していた。
「み、見れば分かりますよ……」
「そんなことよりもっ!さっ!さっ!」
アマミルは、そう言うと、椅子をさぁどうぞと言わんばかりに引っ張ってきて、手を差し伸べていた。ロウアは気が乗らなかったが、彼女にはどうしても逆らえなくて、仕方なく椅子に座った。
ロウアが椅子に座るのを確認するとアマミルは彼の前に立って自己紹介した。
「え~っと、改めましてっ!私の名前はアマミル。四階生よ。年齢は内緒っ!」
ロウアは四階生なら年齢はある程度分かりそうだと思ったが、アマミルが胸を張りながら、どうだと言わんばかりにしていたので、何も言わなかった。
すると今度はイツキナが立ち上がってロウアに自己紹介をした。
「私は、イツキナというの。同じく四階生よ。年齢なんて別に隠さなくても良いじゃない。私とアマミルは20歳よ」
「イ、イツキナッ!何でバラしちゃうのよっ!!!」
「もう、何をかっこつけているんだかなぁ」
愛那の過去世であるイツキナも、四階生のようだった。二人ともロウアより少し年上だった。
「ロウア君は、15歳だっけ?妙に落ち着いているんだね」
アマミルは急にロウアを褒めたので彼は慌てた。
「えっ!?そうですか?!」
「それに、私の顔をじっと見て……。何か付いてる?バカねっ!もしかして、惚れちゃった?」
「い、いや、そんな……。あ、えっと……、ち、ちがいます……」
ロウアは、池上だった時に出会った香織ともう一度会えたような気がして、とても嬉しくて、見とれてしまっていた。
「アマミルったら何を言っているよっ!からかっていないで、ちゃんと説明しようよっ!」
ロウアは、イツキナを見ていると愛那を思い出さざるを得なかった。肉体を持った姿の愛那は初めて見た。未来では霊体だったが、高校生ぐらいに見えた。しかし、今目の前に居る彼女は大人の女性だった。幼くして亡くなった愛那が大人になったように思えてロウアは嬉しくなった。
「そうだねっ!え~っとね……」
二人の説明では、ある事件をきっかけに意気投合した二人は、この部活を立ち上げたとのことだった。活動内容は、学校中から集まってくる色々な問題を解決させるという、文字通り人助けをする部活だった。部員は増えたり減ったりしているが、今のところ二人のみとのことだった。一応学校では名の知れた部活になっているとのことだったが、ロウアは知るよしも無かった。
「な、なるほど。(要するに何でも屋さんかな……)えっと、何故、僕を誘ったのでしょうか……?」
「バカねっ!さっきも言ったじゃないっ!
この前、シアムちゃんの誘拐事件を解決したでしょ?ロウア君は絶対に正義の味方だと思ったの。
ね、イツキナッ!」
「そうそうっ!二人でロウア君は絶対にこの部活に入れるって決めたの。君は、この部にぴったりよっ!」
「え……、あ、あの……、勝手に決められても……」
(うはははっ!クククッ!ゲラゲラゲラッ!)
魂のロウアは横で大笑いしていた。
「そうよ、ぴったりなんだから是非うちの部に入ってほしいのっ!ねっ?ねっ?ねっ?」
アマミルはこれでもかというぐらい、ロウアを部活に誘ってきた。
「うんうん、私たち女じゃ色々と出来ない事もあるから男手も必要なのよっ!君、良く見ると格好いいねっ!」
「うんっ!格好いいよねっ!」
二人はロウアを褒め称えて何とか引き込もうと画策していた。そんなのはロウアは百も承知だったが、勉強もしたいのでどうにか抜け出す方法を考えていた。
「せ、正義の味方というか、たまたまだったわけで……」
ロウアが何を言おうがお構いなしで、二人はロウアにどんどん迫ってきた。
「だから、ね。ここに手を置くだけでいいからっ!仮入部って事でいいからっ!」
「そうそう、手を置くだけよっ!」
彼女らが手を置けば良いと言った先には、机があってそこには電子的な紙が広がっていた。そこには思い切り「入部届」と書いてあったのだが、二人の顔が思いっきりロウアに迫ってきていて、その文字を読ませないようにしていた。
「こ、ここに手を置いたら承認したって事ですよね……。それって本入部なんじゃ……。そ、それに、僕は勉強も忙しいですし……。
てか、顔近い……」
「大丈夫っ!勉強はお姉さん達が教えてあげるからっ!ねっ?」
「そうそうっ!お姉さん達、成績良いんだよ~~っ!」
後々、この成績が良いというのは嘘だったと分かったのだが、この時点では分からなかった。
「と、取りあえず活動を見てからということで……」
代わる代わる顔を入替ながら迫ってくる年上の女性に、ロウアはそう言ってこの場から逃げようとした。
「おぉっ!前向きな意見っ!」
「さすが、正義の味方ねっ!格好いいっ!!」
(んだよ、入りますって言ったようなもんじゃないかよ。弱いなぁ、お前……、あの魔法を使った奴とは思えん……)
魂のロウアが、流されるままのロウアに向かって嫌みを言った。
(この二人にはどうも逆らいにくい……)
「ということでっ!」
アマミルが、もうこの話は終わったと言わんばかりに、パチッと手を叩いた。
「早速だけど、この案件について調べようじゃないっ!!」
「案件?」
この時代の先生達は黒板の代わりに壁いっぱいに表示された電子的な画面に文字を表示したり、入力したりしながら教えていた。この小さな部屋の壁にもそれはあったが、よく見るとそこには小さな付箋紙のようなウインドウが多数表示されていて、どうやらそれらはこの部への依頼だった。
「す、すごい依頼の量ですね……」
「でしょ~~っ!!!」
アマミルが自慢げにそう言ったので、有名な部活というのは嘘ではないことがロウアに分かった。
「え~っと……」
イツキナがその一つを指さして、付箋紙を剥がすように小さなウインドウ画面を空中を漂わせながらこちらに持ってきた。それをピッチアウトして広げてみせると、依頼の詳細が表示された。
(依頼の数が半端じゃないね……)
(有名だからな、この二人は。"ご迷惑少女組"とか言われてるしな)
「えっ?!ご迷惑少女組?!」
ロウアはその言葉を聞いて思わず口に出してしまった。
「……なあに?私達の通称をよく知っているじゃない……」
「なあんだ、私達を知っていたんじゃないのっ!」
「あ、いや、すいません……。し、知らなかったのですが、何とも……えぇ……」
ロウアは説明出来ずに口をつぐんだ。
(有名なのか……。何で言わないんだよっ!)
(聞かれなかったからなっ!ぷぷぷっ)
(というか、ご迷惑って何なの?)
(学校の問題解決をしているが、その行動が奇抜すぎてこんな通称がついているんだ)
(はぁ?!)
魂のロウアと話していたが、その声は聞こえないため、イツキナは依頼内容を説明し始めた。
「え~っと、家で飼っていたペットがいなくなったと」
「ありがち~っ!」
「そうだね~。さっ!ロウア君、一緒に依頼主のところに向かおうっ!」
「……え、えっと、は、はい……」
こうして、ロウアはお姉様二人になされるがままとなり、部活動に巻き込まれてしまった。ちなみに、ペット探しは学校周辺を三人でクタクタになるまで歩き回って何とか見つけて解決された。
イ 様々な時間を
ツ 集めて
キ 大きく流れとなり
ナ 何かを生み出す者
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2022/10/27 文体の訂正、文章の校正




