一年後①
それから一年ほどが経過した。
ムー国の国民達は、降臨したムーの導きで行ったコトダマを使って大地の揺れを止めた。無論、その前にロウアのハッキングによって悪魔の宿ったロネント達が大地の隙間を埋めたのも大きかった。これらのロネントは、演算装置が破壊されないままで身動きが取れないままだった。よって、実質、悪魔の活動を封印された形になった。
ムー大陸の陥没で自分の演算装置が破壊されることを前提にしていたケセロはそれがかなわず、修復しつつあった神殿の地下で厳重に封印された。
他にも未来からタイムスリップしてやって来た彼らもこの時代のロネントに宿ってしまっている問題が残っていた。
この問題に対しては、ムー国女王ホスヰの勅命で霊界お助けロネント部が、未来人の宿ったロネントを探し出す仕事を担うようになっていた。つまり、部員達は、奇しくもその名の通りの活動をすることになっていたのだった。そのためか、ナーカル校の部活動でもあったが神官組織の一部として働くようになっていたため、ご迷惑な部活からは"卒業"し、学生はもちろん先生からも一目置かれるようになっていた。
とはいえ、今日も霊界お助けロネント部の部室は相変わらずの大騒ぎぶりだった。
「イツキナ、なあに?その報告は。今日は一人も未来人を見つからなかったって言ったの?」
「……そう言ったさ」
「今週は一人も見つけてないわよね?ちょっとたるんでんじゃない?もしかして霊力が落ちたのかしら?役立たずね」
「むぅっ!むっかぁぁぁっ!今、アマミルは酷いことを言ったっ!何もしないくせに酷いことを言った~っ!」
「はぁっ?!」
「こっちはロネントツナク(ネットワーク)とコトダマを使って未来人達を一生懸命、探しているんだぞっ!見つからない日だってあるっしょっ!んったく、一言多いんだよっ!あ~、なんか腹の虫が治まらないぃっ!!」
「バカねっ!部長は部員への指示と部の方針を決めるのが仕事なのよっ!ふざけないでよっ!」
「うそつけぇ、この役立たず部長っ!さっき、神官になるための試験対策してたろっ!珍しく勉強なんかしてんなよぉっ!」
「ぷち……、なあに?今、役立たずとか、珍しくとかって言った?あんたこそ一言多いんじゃないのっ!こっちだって神官になるために一生懸命なのよっ!」
「今更、勉強したって無理なんだって~のっ!べぇ~~っ!」
「プチプチ……、あなたねぇ……。あぁ、もうっ!コトダマ使えるからってバカにしてっ!!」
「んだよ~っ!やるかぁ~っ!」
「良いわよっ!少し調子に乗っているからお仕置きするわっ!」
こんな調子の二人をアルは今日もかと呆れて見ていたが、さすがに殴り合いになりそうになったので慌てて止めた。
「ちょちょちょっ!やだやだやだ~、もうやめてくださいよ~。ハァ~、ほら、マフメノ君とツクも何か言ってよ~っ!」
アルは助けを求めてマフメノとツクを呼んだが二人は何かに夢中になっていた。
「え?何ですか?アル様」
「ツク、そこは赤のケーブルをつなげないとロネントツナクにつながらないよ」
「あ、そうだね。ありがとう、マフメノッ!優しいっ!キュンキュン」
ツクはそう言うと、マフメノにべたりと頭を乗せた。
「あぁ~、また二人してイチャイチャとロネントいじりしてる……」
「アル様、すいませんっ!」
「何ですかぁ、アルちゃん?」
マフメノは、厳しい教官もいなくなったためか、すっかり元の太った姿に戻っていた。
「まったくマフメノ君は、もっと動かないと運動不足になっちゃうぞ。ツクにも嫌われちゃうんだから」
「は、はぁ、まあ……」
しかし、困り顔をのマフメノを見たツクは、ちょっと怒り口調でアルに反論した。
「アル様、そこは間違っているのですっ!マフメノは、太ってても、筋肉隆々でもどっちでも格好いいのですっ!」
そう言うと二人で見つめ合った。
「ハァ~ッ!ツクも反抗期かぁ……」
アルは思わずため息が出てしまった。
「マフメノ君とツクはあっつあつで、先輩達は喧嘩してあっつあつで、この部屋はあっつあつだらけだなぁ……。私は外に出て涼んできますよ……」
肩を落としたアルはそう言うと部室を出て行った。すると、シアムが廊下でグラウンドを見つめていた。
「……シアム?どした?」
「あ、アルちゃん……」
「こっちはこっちで黄昏少女かぁ」
アルは、シアムもこんな調子で部活動は大丈夫だろうかと思った。
「教室にいると元気だった頃のカミを思い出しちゃうの……」
「……そっか」
アルはシアムに同情の目を向けた。
「今日もあんにゃろめのところに行くの?」
「うん」
シアムの返事を聞いたアルは、部活動について考えていることを愚痴り始めた。
「私思うんだけど、私らの仕事ってさぁ。あんにゃろめのためになっているのかなぁ。集めた未来の人達の魂を演算装置から解放しているでしょ?彼らの行き先って天国じゃないんでしょ……?カミィは嬉しいのかなぁ……」
「アルちゃん、それは言わないっ!」
それに対しては、シアムがぴしりと否定した。
「……そうだね。そのままでも可哀想だもんね」
「そうだよ」
シアムはそう言うとニコリとしてアルを見つめた。
「分かったよ~」
「それじゃ、行ってくるね」
「おう、いってら~」
シアムはアルに手を振り終わると、急ぎ足で廊下を走っていった。
「廊下は走っちゃ駄目だぞ~って、まぁ、楽しみだし、無理かぁ……」
アルが注意する頃にはシアムは廊下の角を曲がって下に降りていくところだった。シアムへの注意が空振りに終わると彼女は部室に戻ることにした。
「ふぅ~、アマミル先輩もイツキナ先輩もカミィの事が気になってプンスカしているのかねぇ……」
アルは、愚痴るようにそう言うと派手な看板を横目に、先輩二人の喧嘩を止めるため部室に入っていった。




