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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
引きこもり少女 メメルト
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少女の旅立ち

 ある日、ナーカル校の女子寮の一室で突然大きな声が聞こえてきた。


「もうっ!何よっ!!うるさいわねっ!!」


 それは、寮の住人である一人の女子生徒の声だった。


「わ、分かったわ……。そんなに怒らないで……。わ、私はあなたが朝食を食べに食堂に来なかったから心配なだけなの……」


「もういいってっ!!後で食べに行くから出て行ってっ!」


 この女子寮は一部屋につき、二人ずつ住んでいた。

 大きな声を張り上げた少女と同室のルームメイトは、心配で聞いただけだったが酷く怒りだした彼女に何も言えなくなってしまって肩を落とした。


「が、学校に……、一緒に行かない……?」


 それでも、顔を上げると、勇気を振り絞って学校に一緒に行こうと誘ってみた。


「い、行くわけ……。行くわけないでしょっ!!!早く出て行ってっ!!!」


 その少女、メメルトは最も言われたくないことを言われたと感じ、さらに憤慨して大声を上げた。


「ご、ごめんね……。わ、私、行くからね……」


 ルームメイトの女生徒は、最後の勇気もメメルトの怒りで踏みにじられてしまい、一人で学校に向かうのだった。


 部屋に一人残ったメメルトは、学校に通うことを頑なに拒否した自分に嫌気が指していた。更にこんな自分を気遣ってくれたルームメイトに対して怒りをぶつけてしまい、感情をコントロールできない自分は駄目な人間だと思った。


「……いつも心配してくれるのに……。私はどうしてこんなにもイライラしてしまうのかしら……。学校にもいかなくなってしまったし……私は駄目な人間……あぁ~~~っ!!!」


 メメルトは、ナーカル校を数年前から欠席していた。それは、とてもシンプルな理由からだった。学力に追いつけなくなったからだった。


-----


 ムー大陸屈指のナーカル校は、ムー大陸全土から優秀な生徒であればどんな人種であっても入学することが出来た。それは大陸の南東国マウアにある貧しい村、モウイ村の住民でも学業が優秀であれば入学できることを意味していた。


 モウイの住民は、石切を生業として生活していたが、首都ラ・ムーと比べると収入は10分の1程度であり、貧困生活を余儀なくされていた。そんなモウイ村に唯一存在する学校に通うメメルトは数年前、その学力の高さと先生達から推薦もあり、ナーカル校を受験した。

 その数日後、ナーカル校から二階生として合格という通知が届いた。このことは村中で大騒ぎとなり、盛大な祝賀会が開かれた。


 祝賀会の主役であるメメルトは、今まで着たことがないような綺麗な服を着て、会場の真ん中に親子共々座っていた。彼女らのところには、同じ村の村民が次々とやって来てお祝いの言葉を述べていった。


「メメルト頑張れよっ!」

「ナーカル校でもトップを狙えよっ!」

「お前がナーカル校に通うとはな。君の友達で僕は誇らしいよっ!」

「メメルトちゃん、やったねっ!!」

「良いお子さんをお持ちになりましたね。うらやましい限りです」


 メメルトの服は、母親が自分の結婚衣装を作り替えたものだった。この地域の人種に特有の茶色の髪を後ろに束ねてキラキラに輝く髪飾りを付けていた。


「メメルトッ!、お前は私たちの誇りだっ!」


 自分の娘を誇らしく思うメメルトの父親は、そう言うと彼女の背中を叩いて喜んだ。


「やだ……、お父さん……。恥ずかしいじゃない……」


「良いんだ、良いんだ。わはははっ!!」


「本当にがんばっていたもんね、メメルト……。私たちの生活を助けながら勉強をよく続けて……」


 メメルトの母親は、夜な夜な一生懸命勉強する娘を見ていたため、そんな娘の成功を涙を流して喜んでいた。


「お、お母さん……、ありがとう……。お父さんも……。二人が応援してくれたからここまでこれたのっ!」


「お前は良い子だっ!愛しているぞっ!!」


 メメルトの父親はそう言うといつものように自分の娘の髪をくしゃくしゃにしてしまうのだった。


「あ、あなた、メメルトがせっかくおしゃれしているのにっ!」


「あぁ、しまったっ!すまんなっ!」


「もうっ!お父さんったらっ!!」


 そんな村人総出の祝賀会は笑顔のうちに終わった。


-----


 メメルトが首都ラ・ムーに出発する日が来た。メメルトは大きな鞄を持って、首都へ向かうための小さな駅に両親と共に来ていた。両親の後ろには、村の代表者やら、友人らが数十名、大きな応援の段幕を持ってメメルトの出発を祝っていた。


「……くっそ、涙が止まんねぇっ!!!」

「頑張るんだよ……。うぅぅ……」


 メメルトの両親は娘を応援したい気持ちと別れたくないという矛盾した気持ちでいたが、出発の時間が遂に来てしまったため、娘の背中を押して彼女を駅の中に送った。


「お父さん……、お母さん……。私、頑張りますっ!」


 メメルトは、別れを惜しむようにそう言うと、首都にむかって旅立つのだった。窓から見える村民達は涙を流す者や、何かを叫ぶ者やらで大騒ぎとなっていて、メメルトはその姿を見つめながら、これからの未来に決意を新たにするため涙を拭った。


メ 偉大な

メ 神の光を流し、

ル 大きく広げて

ト 受け入れた人を幸福にする者

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2022/10/22 文体の訂正、文章の校正



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