その名を叫ぶ
荒れ狂う人々を見て、部員達、そして、神官達は、まさに地獄絵図を見ているようだった。この時代は、ラ・ムーの思想によって現在ほどは地獄界は大きくない。しかし、未来からやって来た地獄界の霊体達は、数千体もかれらは現在の魑魅魍魎世界を体現していた。
皆さんは、どのような世界が地獄だと思うだろうか?普段の生活で地獄のような生活を送っている人を見かけるのでは無いだろうか。それは貧困だからそうだという訳でも無く、富裕層の中や、政府、官僚の人々ですら人々から搾取を繰り返せば地獄と言える。
つまり、何気なく考えた憎しみ、怒り、性欲、深い悲しみといったマイナスの考えに心が止まれば、その世界が地上にも現れる。その思いは、いずれ地獄界の霊体達を呼び寄せることになる。例えば、殺人を繰り返した者が自分は何も覚えていないということがあろう。それは自分の意識が悪魔に乗っ取られたためだろう。この世の法律でそんなことを判定できるわけが無い。
最終的には、善と悪が存在しないと考え、悪行、悪の思いを悪だと思わぬ人々が多くなれば、その世界その者が地獄となる。
この未来の地獄界の人々は、抑えられた欲望と、天国にすら行けなくなったため、行き場を失っていた。それらの人々が人間に宿ったため、その思いのまま果て始めた。人を殺す者、怯え続ける者、性欲を果たす者、暴れ回り破壊を続ける者、それらを統率しようとする者など、際限の無い悪の世界となった。
「やだやだやだ……洗脳されてしまているよぉ、昔の私みたいに……」
「いえ、それ以上……。もはや手が付けられない……」
アルとアマミルは、この現状に絶望した。
「あわわわわ……。あれって……ど、動物?見たこと無い動物が沢山……」
「だ、だめ……見ていられない……」
霊視のできるイツキナとシアム、そして、神官達は、配下に広がる人々と重なるように悪の思いに取り憑かれた人々が行き着く姿に震え続けた。
「ゲゲゲェェ、ヒェヒェヒェ、楽しいっ!楽しいっ!これこそが我の望む世界ぃぃっ!神の世界な不要なんだよぉぉぉっ!ヒャヒャヒャッ!」
ケセロはその中心で馬鹿笑いし、彼の周りに居る人々を一刀両断で切り捨て、神殿に前進した。
「フェェェェッ!あんな象徴は不要ぅぅぅっ!」
ケセロはそう言うと口から銃口を出した。すると、一瞬、何かが光った。
「え?」
ミクヨは、何か一瞬光って、そのあと風が吹いて自分の髪がなびいたのを感じた。その瞬間、後ろ建っている神殿がもろくも崩れているのが見えて驚愕した。
「あ、あぁぁぁっ!!」
ケセロの放った閃光は、数センチほどの太さの光りだったが、全てをえぐるような強力なビーム兵器だった。それは、地上の人々を一瞬で切り裂いた後、神殿を中心から真っ二つに切り裂いた。ケセロは、その後、真横にも放ったため、巨大な支柱も切り裂かれて神殿は両側に倒れ始めた。
「ヒェヒェヒェ……。こんな巨大な塔を建てるからだ!はぁぁぁぁっ!!愚かな愚かな愚かなぁぁぁっ!バベルの塔は神の手で朽ちたぞぉぉぉ、ゲラゲラゲラッ!この、この、この新たな神によってなぁぁぁぁっ!神、神、神、我は神ぃぃぃッ!!!」
神殿からは人々の悲鳴が聞こえた。それは中に入った国民達もだったが、それらに怯えて待機していた神官達もだった。
この信じられない光景を目の当たりにした部員達と神官達は、絶望に打ちひしがれた。
「あぁ、あぁ……、ムーの塔が……、神殿が……、みなさん……、あぁ……」
ミクヨは、その場に泣き崩れた。
「止めて止めてぇぇ……人が人の叫び声がきこえるぅぅぅ。あぁぁぁっ!」
イツキナも神殿の中の人々の苦しみを感じて叫び続けた。
「もういやぁぁっ!いやぁぁぁっ!カミッ!カミィィィィッ!来てぇぇぇっ!みんなを助けてぇぇぇっ!カミィィィィッ!!!」
シアムは、その名を呼び続けた。消え去った者を心のままに。その声は、マイクがつながったままだったので巨大な声となって、この地に響いた。
「シアム、あいつはもう……」
アルはそう言って慰めようとしたとき、泣き崩れていたシアムは急に顔を上げた。
「あ、あぁ……、カミがカミがやって来たっ!船に乗ってきたっ!ロウアの船っ!ロウアの船っ!」
「ロウア?ロウアの船っ?!」
アルは、シアムがロウアと言ったので理解出来ず混乱した。しかし、彼女も上空を見て、驚きの声を上げた。
「えぇっ?!やだやだやだっ!な、なによ、あの船は……」
それは天空からやって来た。白く輝く船は、人々には神の船に見えたことだろう。その船の先頭に、その男は立っていた。




