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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その名を叫ぶ
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アイドル素人

「しかし……、これから話す内容はあなたを苦しませることになるでしょう……」


 自分のかつて愛した、そして、ムー国の精神的支柱となっているラ・ムーの話したミクヨだったが、その彼女が真剣な顔になったので、シアムは鼓動が早くなるのを感じた。


「大丈夫です……。私はどんなことでも受け止めます」


 シアムはそう言うと、合掌してミクヨに一礼した。ミクヨは優しくうんと頷くと淡々と天使達の調査報告をシアムとそして部員達に話した。


 天使達は、ロウアがクーデターを企てた人々によって、酷い目に遭ったことを知らせた。その彼を救おうとしたエメの乱入は、失敗した。そして、エメを救おうとしたロウアは自らの手足を犠牲にし、何処かに消えてしまった。


「……カ、カミ君が……ッ?!」

「う、うそだよぉ……」

「やだやだやだ……」


 アマミル、イツキナ、アルは、ロウアの状態と失踪を聞いて心穏やかではなかった。

 ケセロと戦った彼は元気な姿だった。部員達は、彼がすぐに元気な姿を見せるのだと思っていた。彼の帰還は自分達の希望だった。しかし、それが突然絶望に変わってしまった。


「消えてしまった?消えてしまったというのは?どういう事でしょうか?」


「申し訳ございません。分からないのです……。ロネントに攻められ続けていた彼は何かを叫ぶと消えてしまったと言いました……。天使達も追えなくなったのです……」


 シアムの質問にミクヨは、冷静に説明した。


 この話を聞いてアルも絶望の淵に落とされたが、ハッとしてシアムの顔を見つめた。彼女は、シアムがどうにかなってしまうのではないかと恐れを抱いた。落ちてゆく戦艦の時のシアムの混乱状態を思い出したのだった。


「シ、シアムゥ……。だ、だいじょうぶぅ……?」


 アルはシアムに声をかけたのだが、彼女は何も言わず何処かに走り去ってしまった。


「……え、えぇっ?!やだやだやだっ!シアムゥッ?!ど、何処に行くの?!」


 アルはシアムが何かをするのではないかと恐れ、慌てて彼女を追った。


-----


 しばらくして、アルがシアムに追いつくと、そこは聖域にあった武器庫だった。


「ちょ、ここってっ?!」


 アルは、シアムがやっぱり何かをするのだと思って狼狽した。案の定、シアムは武器庫にある武器を手にして装備を調えていた。


「お、おいおい……。武器なんて持って……。シアムゥ、まさかあいつのところに……行く……、つもり……だよねぇ……」


 アルは、シアムが武装する意味は、それしか無いと思った。しかし、それは彼女を危険にさらすことを意味していた。


「あ、危ないって……って。う、うぅ、言っても無駄だよねぇ……」


 自分は彼女を止める権利があるのだろうかとアルは思っていた。

 かつて、あとちょっとでロウアに出会うことが出来そうだったシアムを止めてしまったことがあった。それは、ロウアの乗った戦艦が爆発して落ちていくため、シアムをそんな危険な場所に行かせてはならないという彼女の判断だった。

 アルとシアムは、ムー国に無事戻れたが、シアムは聖域に引きこもってしまった。彼女は元気になったとはいえ、アルはその時の判断を今でも後悔していた。


「シ、シアムゥ?あ、あのさ……」


 アルは、心臓が今にも口から飛び出しそうだった。止める権利が無いとはいえ、自分が今引き留めなければ彼女の命の保証は無いと思ったからだった。


「……や、止めた方が……い、良いかもよ……?」


 自然、声も小さくなってしまった。

 シアムは武器をスカートのポケットにしまうとアルの方を向いた。


「アルちゃんっ!」


「ひぃっ!やだやだやだぁ……」


 アルは突然、名前を呼ばれてビックリして意味も無く両手を上げてしまった。しかし、言わなければならないことは言わねばと口ごもりながら話した。


「あ、あの時は、ごめんよぉ……。でも、き、君がやばかったからさ……」


 ゴクリと唾を飲むと更に続けた。


「こここ、今度もどうなるか……わ、分からないし……その……不味いというか、やばいというか……」


「アルちゃん何を言っているの?」


「えぇ?!しかし、その君、あのシアム君?つ、つまりだなぁ……、い、行ったら駄目だぞぉ~、なんて……、へ、へへへ……ね?」


「アルちゃんっ!さっきから意味が分からない、にゃっ!」


「あうぅぅ、な、なになにぃ?」


 シアムはそう言うと、突然、アルのそばにやって来て、その頬を思いっ切り両手で引っ張った。


「ぐぐ、ぐにゃにゃ……にゃ、にゃにをするぅぅぅっ?!……ふぇぇぇ、ぎょ、ぎょめんよぉぉ」


 アルは涙目でシアムに謝った。


「もうっ!私達にしか出来ない事があるでしょっ!!!」


「えっ!えぇっ?!それってナンジャ?」


 シアムはそう言うと目を逸らそうとするアルの顔を自分の方に向けた。


「こっち向いてっ!」


 アルはシアムが何を言っているのか理解出来ず、恐る恐る聞いた。


「はうぅぅ、きぃみ(君)はカミィのところに行くんでひょ?あいちゅがしゅんぱい(心配)だから……」


「もちろん、心配だけど……」


 シアムはそう言うと、両手をアルの頬から外し、真剣な眼差しでアルを見つめた。


「私はカミだったらやると思うことをするのっ!」


「だ、だから、それって?イテテ……」


 アルは頬を押さえながらそう聞いた。


「もうっ!!!アルちゃんのアイドル素人っ!」


 アルは思わぬ事を言われて、一瞬キョトンとした。それは、かつて、シアムに言われた言葉だった。


「あ、あぁ……」


 彼女はすぐにその意味が分かって、痛みも忘れて笑みがこぼれてしまった。


「へ、へへへ~~っ!また、それ言っちゃうっ?」


「言っちゃいますっ!」


 二人の笑顔は、自分達がやることを決めた瞬間だった。


「んじゃ、私も準備するかぁ……。って、武器いらなくない?」


「護身用ですっ!」


「戦う気まんまんでさぁ……。また、ロネント相手に戦うのかと思ったじゃん。心配したじゃん……」


「護身用で~~すっ!」


「あ~~、はいはい」


 彼女達に追いついたアマミル達は、部屋の入口でそれらを聞いていて、ホッと胸をなで下ろし、そして、誰もが笑顔になっていた。


「こんな時でも部活動かあ……?ほらぁ~、部長、どうするのさっ!」


 イツキナに促されてアマミルはそう言うとニヤリとした。


「なあに?これって無茶苦茶じゃない?」


 ふふんとアマミルは、いつもの強気を取り戻していた。しかし、そう言いながらも笑いそうになっていた。


「でも良いわっ!それでこそナーカル校のご迷惑部よっ!!」


 アマミルはそう言うと右手でシアムとアルを指差していた。


「ア、アマミル先輩……?み、みんな、いつの間にっ!!」


「そうですっ!私達はナーカル校のご迷惑部ですっ!……あれ、そんな名前でしたっけ?まぁ、良いかっ!」


 シアムもアルもいつの間にか集まっていた部員達に驚いていた。


「ツ、ツクは、ア、アルしゃまとシアムしゃまに従うだけですっ!!」

「ハァ~、未だに部の名前を覚えていないのですか?」


 ツクは、両手をぐっと握るとフンと鼻息を荒くしていた。マフメノは相変わらず部活の名前を覚えていないアマミルに呆れた。しかし、彼も無論、後押しをするつもりだった。


「あうんっ!がんばりましょ~~っ!」


 そして、いつの間にかやって来たホスヰがそう言ったのでイツキナは驚いてしまった。


「えぇ?!いやいや、ホスヰちゃんは女王様としての仕事があるっしょ?」


「私も行くでっすっ!あうんっ!あうんっ!」


 するとアマミルがホスヰの手を握った。


「いいえっ!ホスヰちゃんも参加しないとダメだわっ!だって部員の一人だものっ!」


「はぁっ!アマミルのくせに、んなことを言うなんてっ!いつもと逆じゃんっ!」


「そうでっすっ!ゴー、ファイト、ウィンッ!でっすっ!」


 ホスヰの意識に戻った女王は、クルクルと回りながらそう言った。女王の荘厳な衣装で踊るように言ったので、少し滑稽な姿ではあったが、他の部員達は、その言葉を聞いてあの時を思い出した。


「あはっ!そうだ、そうだ。ゴー、ファイトッ!ウィンだねっ!」


 イツキナが乗り始めると、他の部員達もそれに加わった。


「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!にゃ~っ!」

「ゴー、ファイトッ!ウィンッ!やだだ~っ!」


 アマミルは、モヤモヤとしていたものが完全に吹っ切れていた。部員達も同じだった。彼女らは自然と円陣を組んで部長の号令を待った。


「それじゃあ、みんな行くわよっ!!!」


「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!」

「ゴー、ファイト、ウィンッ!!!あうんっ!」


「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」

「おぉ~~~~っ!」


 コトダマの後には中心に集めた右手が一つになっていた。


「あはははっ!」

「うぇ~~いっ!」

「やだやだやだっ!」

「にゃにゃにゃッ!」

「あはははっ!」

「アルしゃまぁぁぁぁっ!!シアムしゃまぁぁぁぁっ!!」

「あうんあうんっ!」


 そのコトダマの輝きは部員達だけでなく、この聖域の神官達の心をも温めていた。


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