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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
その名を叫ぶ
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かつてのあなた

 アマミルの決意で部員達が一致団結したときだった。


「私もです、にゃっ!私も皆さんと同じ意見ですっ!!」


 そう言ったのは、シアムだった。今まで身体を壊して眠っていたシアムが目を覚ましてこの場に現れたので部員達は歓喜し、彼女の元に集まった。


「シアムゥゥッ!起きたんだねっ!!良かったぁぁっ!」

「シアムしゃまぁぁぁぁっ!!」


 アルはシアムを思い切り抱きしめ、ツクもそれに続いた。


「みなさん、ご心配をおかけいたしました。私ももちろん残りますっ!ここから居なくなるなんて私は嫌っ!私はカミを助けなければっ!カミだってこっちに向かってるはずですっ!!」


「そうだよねぇっ!カミィが来れば、こんな状況はコトダマでぐいぃぃんって何とかしちゃうさ~っ!」


「うんうん、アルちゃんの言う通りっ!」


 アルはそう言うとシアムと両手を繋いで互いにうんうんと頷いた。しかし、その姿を見てセソとモヱが苦しい顔をした。


「か、彼は……あっ……」


「ラ・セソッ?!」


 モヱは、セソがロウアについて話してしまいそうなのを制止するように首を振った。


「え?ラ・セソ?カミについて何かご存じですか?教えて下さい!カミに何があったのかのですかっ!!!!」


 シアムは、セソに近づくと彼女の手を取って懇願した。その掴む手があまりにも強かったのでセソは困り果てていた。他の部員達も不安そうな顔をしていた。


「そ、それは……」


 鬼気迫るシアムに責められてセソは、口が滑ってしまった自分を後悔していた。


「ラ・セソッ!教えて下さいっ!!」


「……だ、駄目なのです……。あなたにだけは……言えません、言えません……。ご、ごめんなさい……」


 困り果てて後ずさりしたセソをモヱは見つめて、彼女の嘘をつけない性格が出てしまったなとため息が出た。しかし、もう口にしてしまったため、シアムも後に引かず、セソを責め続けた。


「お、お願いですっ!ラ・セソ……。か、彼は私……いえ、私達にとって大事な人なのですっ!」


「あ、あの……」


 セソは困り果てて逃げ出しそうになってしまったが、彼女の後ろからホスヰとサクルが現れた。


「……それは私からお話しします」


 ミクヨの意識でホスヰは、そう言った。サクルはまだホスヰを心配していたようだったが、少し休んだホスヰは顔色が少し良くなっていた。


「ラ・エネケル……、その申し訳ございません……。私が……」


「ラ・セソ、良いのです。いつか話さなければならなかったのですから……」


 ホスヰは、静かだったが覚悟を決めた顔をしていた。シアムや部員達にいつか話さなければならない事実だったが、それが今なのだと思っていた。


「ホスヰちゃ……ではなくて、ラ・エネケル。お、教えて下さい。カミに何かあったのですかっ?!」


 シアムの矛先がホスヰに向いた。しかし、彼女が駆け寄るとミクヨの意識となったホスヰは、シアムを優しい眼差しで見つめていた。その優しい瞳の奥に真剣さも見え、シアムはその矛盾した瞳に困惑した。


「シアムさん、そして、部員の皆さん。今まで黙っていてごめんなさい……。あなた達のことを心配して報告しなかったのです……。それは私が決めたこと……私の責任です」


 ミクヨは、そう言うと部員達の前で頭を下げた。


「そ、そんな……」


 一国の女王が自分に頭を下げたのでシアム達は恐縮してしまった。しかし、ミクヨは顔を上げるとシアムに微笑みかけた。その笑顔が無邪気だったのでシアムは、ちょっと驚いてしまった。


「……笑ってしまってごめんなさいね。あなたを見ていると昔の私を思い出してしまいますので……」


「えっ?かつてのあなたを……?それはラ・ムー様とご一緒の時の……」


「そうです。あなたは、あの人を待っている時の私のようなので……」


 シアムは思わぬ事を言われて驚いてしまった。かつての自分とはラ・ムーと一緒に過ごした頃のミクヨの事だった。


「今でこそ、信仰の対象になっているけど、もうね、あの人ったらとっても無謀で無邪気な人だったのよ。私達がいくら止めても一人でどんどん危ないところに行ってしまうんですから」


 ミクヨはそう言うと、ラ・ムーの妻だった頃のことを話した。


-----


= それはまだ小さな頃の彼の城で昼の一時を過ごしていたときです。私は彼の膝枕をしていただけなの。そしたら、突然、彼が立ち上がって私にこんな事を言ったのよ =


「おい、ミクヨッ!ちょっと、隣の国に行ってくる」


「は、はい?今なんて?」


「隣国に行ってくるって言ったんだ。民衆の圧政が酷いから何とかしろってガイアが言ってきた」


「えぇ、今からっ!?嘘ですよね?」


「嘘なものか」


「はぁ?準備は?相手の戦闘部隊はどれぐらいあるか分かっているのですか?あなた一人でいくつもりじゃありませんよね?部隊長のヒトツとフムロには話したのですか?」


「今、啓示を受けたんだから言ってる訳がないだろう。変なことを言う奴だな」


「はいぃぃ?えっと、何をあなたは冷静に話しているの?私がおかしいの?」


「んじゃ、行ってくる」


「行ってくるじゃないわよっ!!あぁぁぁ、もうっ!信じられないっ!ムーッ!!待ちなさいっ!……ヒトツッ!、フムロッ!ちょっと来てっ!!!」


= ムーは一人で馬に乗って隣国に攻めにしまったわ……。大体、ガイアって誰なのか分からないままね =


-----


「ラ・ムー様が……?そ、そうでしたか……」


「結局、彼は見つからず仕舞い。その後は、彼についての噂ばかりが流れ来るだけだから、私達は不安で不安で仕方が無くて。でも彼ったら何事も無かったようにパッとお城に戻って来たのよ。話し合いで何とかしたって。そんなのあり得るの?彼は殺されても仕方なかったのよ?」


 ミクヨは、そう言うと起こりつつも、困り笑いになっていた。それはムーの妻としての言葉だった。サクル達は、当時のこと話す彼女に驚いていた。それは、もはや伝承でしか聞いたことのない素顔のラ・ムーの話だった。


「ラ・サクル……。確か、ラ・ムー様が高度な交渉によって隣国を自国と合併させたというお話しがありましたよね……?」


「そ、その時のお話しですね……」


 モヱもサクルも伝承の話の実態を聞いて目を丸くしていた。アマミル達も授業で習った話を思い出して訳が分からなくなりそうになった。


「シアムゥ、もしかしてすごいお話しだったのでは……」


「そ、そうだね……。でも、私と同じような気持ちだって知ってちょっと嬉しい……」


「えへへ、そうだね」


「あ……っ!」


「どした?」


 アルとそんな話をしていたシアムだったが、ふと、ホスヰを見ると、ミクヨの姿が彼女と重なって見えた。まさか彼女の霊体が見えるとは思ってもいなかったので、驚きつつ、しかし、その彼女の美しい姿と自分を見つめて笑顔に心が癒やされた。


「しかし……、これから話す内容はあなたを苦しませることになるでしょう……」


 やがて、ミクヨが真剣な顔になったので、シアムは鼓動が早くなるのを感じた。


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