アマミルの思い
監視カメラから見える映像を部員達は、引き続き食い入るように見ていた。そこには群衆が大声を上げながら攻撃になっているのが散見された。神殿中心部にあったラ・ムーの像や十二使徒の像、そして、各部署への窓口は破壊されて、巨大な支柱すら何とか破壊しようとしている人々も見られた。十三階以上はエレベーターが止まっているため登ってこれなかったが、それすらも封鎖された階段を破壊して上ってくる人々も現れ始めた。
「うわ~~……。このままだと神殿が占拠されちゃうよ……」
イツキナは嘆くようにそう言うと、リーダーであったアマミルの顔を見た。
「……」
「うぉ~い……アマミル?……あぁ、駄目か。あんたもアイデア無しかい……」
うんともすんとも言わないアマミルを見てイツキナもこれは不味いと思った。アマミルのことだからあらゆる事を想定しているのだとイツキナは思った。しかし、その思慮した全ての先で行き詰まっているのだと分かった。
「ハァ~、どうするかねぇ……」
するとツクが涙を流しながら叫びだした。
「み、みんなで逃げましょう!ど、どこか別の場所にっ!あの車でビュ~って、どこかに行くんですよっ!」
「ツク……それは……」
マフメノは、その言葉を聞いて言葉に詰まった。誰もがその気持ちに流されてしまいそうな状況だった。しかし、ここに居る者達は、その言葉だけは口にしないようにしていた。
「え~っ!ツクちゃん……。逃げちゃう?このまま?……う~ん」
「イツキナ先輩……。は、はい……。だって、シアム様も女王様もおねんねしていますし……。私達だけじゃ何も出来ないですっ!!逃げるしかないですっ!」
ツクの言葉を誰もが否定しきれなかったところで、アマミルがぽろっと口を開いた。
「……それもありね」
「おえっ?!な、なんだってっ?!アマミルの結論も"逃げる"かい?」
あれだけ強気だったアマミルが弱気な面を見せたのでイツキナは驚いてしまった。
「彼らは、さすがにこの聖域までは上がってこれないけど、神殿にいらっしゃる数千人の神官達が危ない……。いいえ……、ここですら神殿の一番上からならやって来れる……。いずれ全員がこの暴徒達にやられてしまうわ……」
「アマミル……」
イツキナがアマミルを見つめると、彼女は下を向いてなおも頭を悩ませていた。
「だけど、逃げる……?逃げる方法なんてあるのかしら……?これだけの人数よ?運ぶ方法があるの?」
彼女は、逃げるという手段はとっくに考えていた。しかし、すぐに詰まってしまっていたのだった。下を向いたまま黙々と自問自答を繰り返すアマミルにイツキナは何も言えなくなってしまった。
すると、王室部のラ・セソは、彼女達の話を聞いていたのかそばに寄ってきてアマミル達が思ってもいないことを言った。
「そうですね……。皆さんはここから離れてください」
「な、なにをおっしゃるのですか、ラ・セソ」
セソの申し出にイツキナは恐縮してしまった。
「学生にも関わらずここまで皆さんよくやって頂きました。カフテネ・ミル・フラスラのお陰で、多くの人が洗脳から解かれましたから。」
セソの同僚だったモヱも話に加わった。
「……ですね。イツキナさんのコトダマは私達が授かった宝ですよ。この力で何とか出来るかもしれません。ラ・エネケルもラ・サクルも同意見でしょう」
モヱはそう言うと、二人で部員達にお礼の頭を下げた。そして、セソはニコリとするとみんなを奥に案内した。
「さぁ、こちらへ。皆さんの人数なら脱出は可能です。車の準備をさせますから、奥でちょっと待ってて下さいね」
「いやいや、お、お二人とも……。や、止めて下さい……。ア、アマミル、あんたも何か言いなよぉ、あんたが弱気な事を言うから気遣ってもらってんでしょぉ……」
イツキナに促されてアマミルは、申し訳なさそうな顔をした。
「ラ・セソ、ラ・モヱ、失礼しました……」
「……しかし、学生であるあなた達をこれ以上は……」
セソはそれでも彼女らを逃がそうとしたが、アマミルは顔を上げ、自分の思いを告げた。
「この頃、分かってきたんです」
「えっ?」
「何をですか?」
セソとモヱは、その言葉の意味が分からなかった。
「私達は、カミ君のために集まったんだって」
「あの少年の……?」
「お助け部も、ロネント部も、カフテネ・ミルも……。そうなんです。全てがそうだったんです。私達全員が彼を助けるために集まったのです」
「アマミル……」
イツキナはアマミルの言葉を驚いて聞いていた。確かに部員達はロウアを中心に集まっているようにも思えた。しかし、アマミルが突然そんなことを言うなんて思っても見なかった。
「きっとラ・ムー様の時も同じだったのではないでしょうか……。ラ・ムー様は王子様でしたがあの方に引き寄せられるように十二使徒、そして、沢山の協力者達が集まったのだと思います。そして、ラ・ムー様への信仰となっていった」
「そ、それは、そうかもしれませんが……」
セソは、それでも子供らにこの国の緊急事態の現場に居させて良いものかと迷っていた。
「……だから、私達がこの場から逃げることは決してありませんっ!お気遣いありがとうございました」
アマミルはそう言うと頭を深々と下げた。
「あ、あはは~っ!だよね~っ!なんだよ、弱気なこと言うから驚いたじゃんっ!少なくとも私はあんたと残るさっ!私はコトダマ使いだよ~っ!あんたを守らないとねっ!」
イツキナはそう言うと手振りでコトダマを切って見せた。
「イツキナ……」
「やだやだやだぁ……。私だって残りますよ~っ!アマミル先輩っ!あんにゃろめを助けてやらないとねっ!」
アルもアマミルの言葉に従うつもりだった。
「アルちゃん……」
「ア、アルしゃまが残るなら、私も残りますっ!ごめんなさい、逃げるなんて言って……、グスッ、グスッ」
「ツクゥ、君が弱気になるのは仕方ないさ~っ!」
アルはそう言うと、ツクの方を向いて両手を広げた。
「アルしゃまぁぁぁぁっ!!いっちゅもわだじを支えてくれますぅぅぅぅっ!!ぐぇぇぇぇんっ!」
「ヨシヨシ……」
ツクは、自分の気持ちを反省するとアルに思い切り抱きついた。アルは彼女の頭を優しく撫でて上げた。マフメノはそれを笑顔で見つめていた。
アマミルの強い思いは、部員達の心をこの場に止めさせるのに十分だった。




