ラ・エネケルの嘆き
聖域にいる霊界お助けロネント部の部員達は、ムーの神殿に集まりつつある人々に恐れを抱いていた。
ケセロの策略にはまった彼女らは、一瞬の隙を突かれてしまった。つまり、シアムが偽のロウアからの誘いを受け、他の部員達も彼女の後を追うことを予想され、彼女らが洗脳解除の役を休んでいるところで、各地でバーチャル歌姫の先導を行った。歌姫によって人々が一斉にムー中枢の神殿に集まってきたのだった。
神殿の周りに居る国民は数万人を超えようとしていた。神殿の入口はあってないようなものだったので、すでに一階のフロアは、彼らによって占拠されてしまっていた。
神殿の上空に浮遊する円盤状の聖域と呼ばれるところの、更に中枢に位置する祈りや講義などをする広場には神官達が集まっていた。アマミル達、部員達もその場に集まり、監視カメラを通してその様子を見ていた。
「おいおい、やべえよぉ~」
イツキナが一階で暴れ回っている人達を見て頭を抱えた。
「あぁ~っ!マフメノ……。ラ・ムー様のご本尊が倒されてしまいましたぁぁ……」
涙目になったツクは、そう言うとマフメノの腕に抱きついた。しかし、身体が鍛え上げられて髪もサッパリとして別人のようになったマフメノもその様子を見て唸るしかなかった。
「ちょっ?!よ、呼び捨て?!……あ、いかん。空気を読んでなかった……」
アルはどうでも良いことに気づいて思わず突っ込んでしまったが、すぐに引っ込めて、アマミルの方を向いた。
「アマミル先輩、どうしましょう……」
「……」
しかし、アマミルもどうしていいのか分からず、腕を組んで目を瞑っているだけだった。
神官達は、他のフロアからの報告を聞いたり、他の地域の教会からの報告を聞いてはため息をついたり、指示をしたりと慌ただしく動き回っていた。女王の意識になったホスヰと王室部の長であったサクルも、これらの報告を聞いては指示を与えていた。
「あ、あぁ……」
「ラ・エネケルッ!少し、お休みください……」
サクルは、女王になった者に冠する名前でホスヰの名前を呼んで、彼女を労った。
「ちょっと部屋に下がらせてもらいます……」
ホスヰは、11歳の子どもであり、ムーが生存していた時代の十二神官の一人だった霊格の高いミクヨの意識を保ち続けるには体力が足りなかった。
「ラ・セソ、ラ・モヱ、後をお願いします」
「はい」
「はい」
サクルは、二人の部下に指示するとサクルを彼女の寝室に連れて行った。
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ホスヰは、ベッドに座ると息を少し粗くしていた。
「ラ・エネケル……、お身体は問題ございませんか?昨日から睡眠をお取りになっていませんし、少しお休みになってください」
サクルの気遣いだったが、ホスヰは興奮を抑えきれず、邪悪な悪魔の暗躍について話し始めた。
「……一億年前から暗躍する悪魔と一体化したケセロは、国民を無気力にしました。しかし、私達がコトダマで洗脳を解き始めると、未来世界を覆った悪の思想で国民達を先導し始めた……」
「はい……」
「霊界は、高級霊達の方が数が少ないのです。つまり、この地上も同じです……。数で言えば霊力の低い人達が多い世界。しかも、地上は地獄界と近いが故に負の波動を受けやすい……」
「ラ・エネケル……」
「ケセロの言う"我々"……、つまり、地獄界の悪魔達が国民に宿ってここに集まっている……。あぁ……、国民の負の思いが強すぎます……。このままでは何が起こってもおかしくありません……」
過去世のミクヨに身体を預けたホスヰも、国民達の怒りや妬み、そして、悲しみ、破壊衝動などの負の感情が神殿を中心にして大陸中を覆い尽くしていることに恐れを抱いていた。彼女自身もその魔の波動の影響を受けてしまっていた。
「なんと言うことでしょう……。ここまで神の世界の秩序を作り上げ、もうすぐでシャングリラに近づけたのに……」
ホスヰに宿ったミクヨは、涙を流した。
「あぁ……。これは全て私のせいです……。私の目覚めが遅かったためにこんな事になってしまった……」
「ラ・エネケル……。お休みください……。私達もあなたを探し出せなかった……。あなただけのせいではありません」
「あと、少しで……ムーの再来を……あの人を……迎えられた……のに……Zzz」
ホスヰは、そう言うとベッドの上で眠り始めた。サクルは、彼女のおでこから流れている汗を拭いて上げることしか出来なかった。




