ハーメルンの笛
タツトヨは、廃棄場の広場で歌姫を操作していたが、歌姫をロネント達による人工知能による操作に変更すると、ケセロの方を向いた。彼女は、ロウアが言った言葉が気になっていた。
「おい、ケセロ」
「ナンダ」
「ロウアが言ってたことは本当か?」
「何のことだ」
「あいつがこの大陸が沈むって言ってたことだよっ!」
ロウアは未来からやって来たのだとケセロから聞いていた。その彼が大陸が沈むと言ったのだった。もしかしたら、未来ではムー大陸は無いのではないかと思った。
「……ギ」
ケセロは、何かに戸惑ったように機械同士がすれたような音を鳴らした。その魂の宿る演算装置は、破損の酷いロネントに取り付けられていた。その姿は半分機械がむき出しであり、気味の悪い姿だった。
しかし、これでも装着はもっと破損が酷かった。
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しばらく前、黒いビー玉を持った怪しげな黒ローブを着たタツトヨは、そそくさと村の外れで何やら画策していた。
無論、その黒いビー玉は、ケセロの魂の宿った演算装置の謂わば中核と言える物体だった。以前話したとおり、その物体が魂を引き寄せる機能を持っているが故に、死んで彷徨う人々を宿らせてたり、未来からやって来て行き場を失った人々の魂を宿らせたり、混乱の根本のような存在となっていた。
タツトヨは、何故かそのビー玉にケセロを感じていた。しかし、感じるだけで確信では無く、本当に奴なのかと疑う気持ちもあった。
「こ、これにお前が……。しかし、どうしたら良いんだい?ロネントに取り付けりゃ良いのか?……何か言って……くれよ……」
いくらビー玉を見つめても、太陽に照らしてみても何も見えないし、声も聞こえなかった。しかし、彼女は何かに急かされてる気がしてならなかった。しかし、何をして良いのかはさっぱり分からず、ビー玉を握りしめて彷徨うしかなかった。
そして、気づくと彼女は、いつの間にか村はずれのゴミ捨て場にいた。ここは生ゴミもそうだったが、粗大ゴミにあたるようなものもあり、人間のゴミというゴミが収集されずに溜まり続けている場所だった。
「臭い場所だねぇ……。と、取りあえず、こいつに入れてみるか……」
彼女は、ゴミために捨ててあったそのほとんどが機械となっていたロネントに装着することにした。それは元は何だったのか全く分からないぐらい破損が進んでいた。
通常、演算装置はブラックボックスになっていて、簡単には中を開けることは出来なかったが、このロネントは演算装置すらも破損していて、その一部が部分的に開いていた。
「こ、ここで良いのか?もう分からないよ……」
タツトヨはわけも分からず、手にしたビー玉を無理矢理、演算装置に入れてみた。
「お、おい、どうだ?ど、どうなんだよ?えっ?」
しかし、それはうんともすんとも言わず何も反応しなかった。
「……だ、だめなのか」
ロネントが動かなかったのでタツトヨは、ビー玉を取り出そうとしたときだった。
「……ガ……ガガガ」
ロネントから奇妙な機械音が鳴って手足をぶるっと震わせた。それは太陽光による充電を待っているだけだった。
「あ、う、動いた?動いたのかい?」
そして破損された口を不器用に動かして声を発したのでタツトヨは歓喜に沸いた。
「グギギギ……、リョ、ロウ……ア……、ノ……ア……めぇぇぇっ!!!」
怒りに満ちた声は、周囲に響き、何もかもが風に吹かれたように揺れた。
「お、おいっ!あんたケセロだろっ?わ、私が分かるかい?く、車に乗ったら、ここに着いたんだ……。お、お前が私を案内したんだよね?」
女は昔好きになった男に再び出会って、それでも喜びを抑えているように見えた。その男の見てくれは、何者かは分からなかったが彼女にとってはどうでも良かった。
「お、おま……お前……タツトヨか……」
「お、おぉ、私を覚えてっ!はぁぁぁっ!はぁぁぁっ!会いたかったんだ……お前にぃぃぃっ!」
女は抑えきれなくなった感情を込めてそれを強く胸に抱いた。
「それにしたって無茶をするんだから……。くそうっ!ロウアにやられたんだろ?許せないっ!お前をこんなにしやがってっ!!!」
「この、この……この身体……な……グルルル……だ……?何に装着した……?グルルルルぅぅ……」
そう言いながら、それはじっとして自己分析をしていた。
「……理解した」
タツトヨがビー玉を装着したのは、この時代にペットとして流行っていたアルマジロ型の動物型ロネントだった。生物として買うことが出来ない場合はロネント型を飼う家庭も多かった。それがゴミのように捨てられていたのだった。
「……す、すまないねぇ。今はこれしか見つからなかったんだよ……」
「い……まは、ナントカかする……グルルルル」
「そ、そうかい?また、いい器を探そう、ね?」
タツトヨはそう言いながら、それの頭を撫でた。しかし、それは嬉しそうにせず怒りに満ちていた。
「おろかな……ニンゲン共を地の底まで落とし込んでやる……文字通り、文字通りだ……クックックッ……」
ケセロは、いつの間にか他のロネントとの接続から言語能力を獲得していた。
「はぁぁぁぁ。私もいるんだからねぇぇぇっ!!」
女はそれを抱きしめながら、感動の涙を流していた。
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その後、ケセロ達は、この町の廃棄工場までやってくると、人間型ロネントを見つけて、タツトヨに指示して演算装置を付け替えさせた。ただし、そのロネントも破損が酷かったので、廃棄場に集められたロネントから部品を集めてある程度動ける状態までリストアしたのだった。
「……お、おい、どうなんだよっ!」
タツトヨは急かすようにケセロにそう言った。ケセロは向こう側を向いていたがニヤリとしたのが、彼女には分かった。
「笑ってないで答えろっ!」
振り返ったケセロの後ろは夕焼けだったっため、タツトヨが目を細めても彼の姿は暗くなっていてよく見えなかった。
「……未来はワレワレのものなのだ。それが全てだ」
タツトヨはケセロが言葉を濁したように思えた。
彼女にとって、機械の彼が言葉を濁して話したのは初めてだと思った。それ故に、これから自分達のやることと、その結果がどうなるのか分かってきたように思えた。
「……そうかい。まあ、いいさ……。お前と一緒ならね……」




