機械の愛?
ムー大陸の主に西側、つまり、カフテネ・ミル・フラスラと神官達による洗脳の解除が間に合わなかった地域では、タツトヨの歌声に導かれるように首都ラ・ムーへ人々が群れになって向かっていた。現在で例えれば、VTuberが人々を先導しているようにも見えるだろう。しかし、ムー文明の科学力によって、映されたアバターは、どの角度から見ても立体的であり、さも一人の一人の歌姫がそこに居るようにしか見えなかった。しかも、その歌姫は各地に現れ、同時に数万人の人々を導いていた。
「私は一人しか居ないのに他の街の"私"どうやって動かしているのさ……」
タツトヨは、自分の意思で動かしているのは、商人の街の歌姫だったので不思議に思った。
「くだらん質問だ」
「また、腹の立つ言い方を……」
自分を睨む目を無視するようにケセロは説明を続けた。
「……他のお前はワレワレの生み出した"お前"だ」
「お前たちが生み出したって……。つまり、私そっくりな性格を作ったってのかい?」
「ソウダ。お前を分析シタ」
現在であれば、初音ミクのような音声合成は一般的であろうが、ケセロはメッシュ型ネットワークで作られたロネント達による演算装置でタツトヨの声だけではなく、彼女にそっくりの人工知能を構築していた。その人工知能は、彼女の考えすら模倣し、各地の歌姫を動かしていた。
「私を分析って……。何だか気持ち悪いね」
「お前と生活した時の情報が97.3%で、2.6%は各地のお前のログ、残りの0.1%は今のお前から分析した」
「あぁ、そうなんだ……って、あれ……」
タツトヨは、何て勝手な奴だと思ったが、よくよく考えるとかつてケセロと生活した時がほとんどであることが分かって段々と顔が赤くなってきた。
「わ、私とのせ、生活ぅぅっ?!」
「ソウダ」
だが、その顔をケセロに見られないようにするため、うつむいて長く伸びた前髪で自分の顔を隠した。
「……そ、そうかい……。ふん……」
「変な声を出してどうしたのだ?体温と心音もおかしいぞ」
「し、知らないよっ!さぁ、しゅ、首都に向かうよっ!」
タツトヨは、この人形だか何だか分からない存在が、自分をからかっているんじゃないかと一瞬、思ったが、それは無駄なことだと思った。




