優男の悲劇
エメの強烈なビンタを食らって気を失った少年、イススは、しばらく経って目が覚めた。そして、目の前に自分にビンタを食らわした女がいたので驚き、恐れおののいた。
「ひ、ひぃぃ……」
「あ、起きたわね」
「男女~~っ!」
「はんっ?!男女だとっ!」
「や、やめてぇぇぇ……」
エメは、男女と言われ腹を立てて睨むと、イススは後ろにすっ飛んで逃げようとした。ただ、そのすっ飛び方があまりにも勢いがあったため、屋上の隅っこを超えてしまった。
「えぇ?えぇぇぇ?わぁぁぁぁぁ……っ!」
イススの影が消えてしまうと、エメは急いで移動し、その足を右手で掴んだ。
「ひぃぃぃ」
真っ逆さまになったイススは、はるか先に地面が見えて悲鳴を上げた。
「……ったく。あぶないわねぇ」
エメはそう言うと、イススを屋上に戻してあげた。
「はぁ、はぁ……。し、死ぬかと思った……」
イススは、九死に一生を得て心臓が爆発しそうになっていた。
「まあ、座りなさいっ!」
「は、はい……。座ってますけど……」
エメは、イススを目の前に立つと、人差し指を立ててちょっと怒り気味にイススに迫った。
「何か言うことがあるんじゃないの?」
「……えっ!あ、あぁ……。あ、ありがとう……ご、ございました。男女様っ!」
イススはそう言って頭を深々と下げたまでは良かったが、最後に男女と言ったのでエメはプチッと切れてしまった。
「あ、あなたね……。
いい?身体と魂の性別は同じじゃないときのもあるのよ、分かってる?本人もびっくりよ、女性だったのにタイムスリップしたら身体が男性だったんだからっ!もう、その時は混乱、混乱、混乱の連続っ!あぁっ!もう、腹が立つぜっ!ともかくね、見た目だけじゃなくて、な・か・み、中身が大事なのっ!!この世に生まれた人も同じ場合があるってわけよっ!しっかり、理解して付き合いなさいっ!分かった?」
「はぁ、すいません……。よく分かりませんが、分かりました……」
男性声と女性声の入り交じった声の上に、全く理解出来ない内容だったが、イススは平謝りするしかなかった。
「まあ、いいわ。それじゃあ、私は行くから……」
無駄な時間だったと思ったエメだったが、もしかしてと思ってイススに質問を投げた。
「あぁ、そうだ」
「は、はい?!」
少年は、まだあるのかとビクッとした。
「ロウアって人なんだけど知ってる?まぁ、知るわけ無いわよね……」
「ろうあ?」
「聞いてもしかたなかったわ」
「あ、あのカフテネ・ミルの友達とかいう人?……で、ですか?」
エメは諦めて、向こう側を向いたところ、イススは知っていると答えたので驚いて振り向いた。
「なになに?知ってるの?!」
「知ってはいませんが……」
「んだよ、知らねぇのかよっ!」
「ちちち、違います。叔母が彼のことを話していました」
「おぉっ!?」
「公園で会ったと……」
「えっ!どこの公園よっ!」
「わ、分かりませんっ!」
ズルッ……
「いまいちな情報ね……」
「し、しかし、叔母は横の棟に住んでいますのですぐに……」
イススはそう言うと、自分の叔母の住む棟を指を指した。
「おぉっ!そっちの棟か」
「へっ?!」
イススは、すぐに叔母を紹介できると言いかけたが、その言葉を待つ前に、エメは彼をお姫様だっこすると勢いよく屋上の隅を蹴って飛び出した。
「あ、あ、あぁぁぁ……。ぎゃぁぁぁぁっ!!」
イススは、今さっき見た地面を再び、見下ろすことになって恐怖し、またしても気を失った。
「……よしっと。いや、この身体性能いいわ~っ!」
エメは、隣の棟に移ってイススを降ろすと、また彼が気絶していたので頭を抱えた。
「お、おいっ!
……なんだよ。すぐに気絶しやがってっ!最近の男は弱すぎるんだよっ!前世が女ってパターンが多いからなぁ……全く」
昭和男のような愚痴を言って舌打ちするエメだった。




