化け物
ロウアが街に入った後、エメは街の入口の隅っこにちょこんと座って、"動かなくなったロネント"を演じた。
("生きた"人達の街というのは、久しぶりよね。今まではゾンビだらけだったから、逆に新鮮ね……)
エメはそう思うと笑ってしまいそうになった。
(ふふっ!)
うっかり身体を動かしてしまって、また故障したロネントを演じようとしたとき、雨上がりだったのか目の前に水たまりがあって、そこに自分の姿を映してみた。その姿は、この時代のオンラインゲームのキャラクターではあったが、四本足の四本腕で頭に当たるところには三角の頭と呼べるか分からない突起があるだけど、そこに小さな目があるだけの化け物だった。
(はぁ~、ほっとに酷い姿っ!!今までで最低、最悪のクソだわ……。これどうしようかなぁ……。いつまでもこれじゃたまらないわ……)
自分という人間は、石川來帆だったり、女悪魔になったり、エメという男に生まれ変わったり、ロネントになったりと酷い人生を歩んできたもんだと振り返りながらそう思った。自分は本当に"人間"なのかとも思った。しかし、考えても仕方ないとさっさと諦めた。
(イケガミさん、遅いなぁ。いつもならすぐに帰ってくるのに……。
しかし、良い天気ね……)
「エメッ!」
エメがリラックスして空を見上げていると、彼女の後ろから声をかけられてビックリして振り返った。
「えっ?!あぁ、オ、オケヨトッ?!」
そこに居たのは、エメの時、孤児院で苦楽をともにしたオケヨトだった。
「ど、どうしたんだよ。あぁ、そうか。お迎えか?しかし、お前、ちょっと待ってくれ。今はイケガミさんを助けないといけないんだぜ?」
エメは、オケヨトと過ごした時の男声になって彼に話しかけた。オケヨトが自分を天国に召すために来たのだろうと思った。だが、オケヨトは黙ったまま下を向いていた。
「ん?あれ、どうした?迎えじゃないのか?」
すると、オケヨトは、急に顔を上げると、見下すようにエメを見つめ、馬鹿にするように笑みを浮かべた。
「あぁ、醜い、醜いっ!」
「はんっ?!」
「その姿は、お前の心そのものだよっ!お前が殺した人達の恨みが詰まった顔無しの顔じゃないかっ!」
「……んだと……」
エメは理解出来ぬまま、彼を罵倒する言葉を吐き出したオケヨトの言葉に腹を立て始めた。
「気持ち悪いっ!それは、神に逆らった逆賊その者の姿だっ!化け物めっ!」
「や、やめろって、お前、ふざけるなよっ!」
「僕を裏切った時の醜い姿そのものだって言ってるんだっ!」
「……やめろって言ってるだろ……」
「アイドルをしたってっ?!笑わせるなよっ!本当のお前は化け物そのものなんだっ!!あぁ、気持ち悪い、気持ち悪いっ!お前が天国に帰れるなんて思うなよっ!!!」
「オケヨト、お前、ど、どうしたんだよ……。やめてくれよ……」
エメがそう言いながらオケヨトを見ると、彼の姿は、エメが今まで変わり続けた姿が交ざりあった化け物となっていた。それらは、ぐにゃぐにゃと動き続けて、その目はエメを睨み続けていた。
「これがお前そのものなんだよ……」
「私達はお前よ……」
「ほらほら、こっちを見るんだ……」
「化け物のす・が・た」
「お前は化け物だっ!」
「化け物だっ!」
「ち、違う、俺は化け物じゃ無いっ!」
「ち、違う、私は化け物じゃ無いっ!」
キホとエメは同時にその声を否定し続けた。
「化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物……」
「お前はぁ、お前はぁ」
「化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物、化け物……」
「やめろぉ、離れろぉぉぉっ!」
「やめてぇ、離れてぇぇぇっ!」
そして、化け物が自分の目の前に迫ってきた時、エメは目が覚めた。
(はぁ、はぁ……。ゆ、夢……?夢だったの……?)
自分が悪夢に襲われていることに気づいたエメだったが、同時に何か変だと思った。
(な、なんだっ?!)
何となくだったが、何処かに自分が勝手に運ばれている事のが分かった。
(ふ、ふざけるなよっ!)
エメはそう言いながら身体を動かそうとしたが、何故か身体が動かなかった。四本腕も動かず、四本の足で歩こうにも動かずで、つまり、それらが"無い"事が分かった。
(な、なに?私どうなったのっ?!)
エメは、自分が演算装置のまま運ばれていることだけが分かった。何も見えず、何も聞こえず、一体自分に何が起こったのか全く理解出来なかった。




