ピキッ、ピキッ、ピュィィィンッ!
公園で顔がボコボコになるまで殴られたロウアは、目が腫れて開かなくなった右目を閉じたまま、左目だけで窓から指してくる光を 追って身体を何とか窓の外が見える位置まで移動した。殴られ続けられて痛みのある身体だったので、少し動かす度に悲鳴を上げそうになった。
(イタタ……やれやれ……。また、牢屋か……いつも同じだ。
能力を持つ者の宿命かもしれない……ってことにしよう……イタタ……)
ロウアは自分が牢屋に閉じ込められるのは、何回目かと数えたが無駄なことだと諦めた。
「無実の罪で捕まるのだけは共通している……」
今回は公園をただ歩いて、カフテネ・ミルの言葉を出しただけだった。それだけで、ここまでの扱いを受けるのかと未だに理解が出来なかった。
(この街の人達はどうしてしまったのだろうか……。歌姫という名前を聞いたけど、カフテネ・ミルの事じゃないよな)
この街の異常さを感じつつ、ロウアは助けを求めて心の声でキホ、つまり、エメを呼び出そうとした。
(……キ、キホさん、いますか?お~い……、キホさ~ん)
ロウアの声に反応するエメはおらず、心の声はむなしく響くだけだった。
「やっぱりダメか……。近くに居ないのかな……」
テレパシーが届く範囲なら会話も出来たが、今回は相当離れているようだった。ロウアは諦めると牢屋のベッドに座ってため息をついた。
「参ったなぁ……」
ロウアの心の声は漏れてしまっていて、それを聞いた監視員は怒鳴り声を上げた。
「おいっ!さっきから誰と話しているっ!勝手に声を出すなっ!」
監視員の声にロウアは押し黙るしか無かった。
「……すいません」
ロウアは何で謝っているのだろうかと思ったが、その声が収まったときに扉を開けて別の者が数名入ってきて牢屋の前に立った。
「???」
「おいっ!話があるっ!出てこいっ!」
ロウアは二人の屈強な男に両手を押さえられながら詰問室らしき部屋に引っ張られていった。ロウアはいつもながら展開にうんざりとした。屈強な男はロウアを無理矢理、席に座らせた。
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詰問室でロウアが椅子に座ると、彼の両手は後ろに回され手錠をかけられた。彼はこのため身動きが出来無くなった。この部屋は詰問以外をする目的がないのか、ただの真四角の構造になっていて、真ん中には机と椅子が置かれていて、三名の屈強な男がロウアを囲んで立っているだけだった。彼らは棍棒を持っていて、怒りに満ちた顔をしていて、ロウアは彼らの目を見ることが出来なかった。
しばらくすると、一人の男がロウアを詰問するために口火を切った。
「おいっ!キサマは何者なのだっ!」
「わ、私はただの旅行者です……」
「嘘をつけっ!お前はカフテネ・ミルの事を知ってただろっ!」
「私はただのファンです……。カフテネ・ミルがこの街にいるのだと思って喜んだだけです。彼女らが魔女だと知らなかったのです」
「何だとっ!魔女どもの名前を呼んでいたではないかっ!」
「そうだっ!シアムとかアルとか言ってただろっ!」
「それは誰でも知っている事です。僕をここから出してください……。家に帰らないといけないのです」
「お前がカフテネ・ミルを助けた奴だと知ってるぞっ!」
「お前の顔はツナクで見たんだっ!シアムという魔女を助けただろっ!」
「魔女の幼馴染みって書いてあったな」
「顔が似ているだけです。僕は関係ないです。その少年は死んだと聞いています」
ロウアは、自分が詰問に慣れていることに心の中で半ば呆れていた。嘘を言ってる自分、余計なことを言わない自分、そして、彼らは警官では無く、ただの素人であることにロウアはホッとしていた。
「う~む……」
「もかして、こいつはカフテネ・ミルとは関係ないのでは?」
「ツナクは使えないし、もどかしいっ!」
「……」
「ま、間違っていたとしたら、シャレにならないかもしれないぞ……」
「し、しかし、このままというのは……」
「う、う~ん……」
三人の男達は、ロウアを尋問しても拉致が明かないと分かると焦りが生じていた。ロウアは何とかこの場から逃げられると希望が出てきたと思った。
"ピッ、ピッ、ピ~~~ッ!"
"ピキッ、ピキッ、ピュィィィンッ!"
すると唐突に何処からともなく女性の声による擬音が聞こえてきた。透き通る声だったが、間の抜けたその声にロウアはずっこけそうになった。同時にどこかで聞いたことのある声だとも思った。
「な、何なにっ?!」
「……あっ!歌姫様っ!」
男達はその間抜けな音を聞いて、緊張の面持ちになったのでそのギャップにロウアはついていけなくなっていた。
(う、歌姫だって?)
すると、立体映像の青髪の女性が目の前に現れて、ロウアはその女性を見て頬が緩んだ。
「ア、アーカちゃんっ!」




