表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
二つの歌姫
524/573

いつもの展開

 ムー大陸は東西に約1,400Km広がっていて、我々の時代と同じようにいくつかの国道が走っていた。ロウアとエメは、その国道に沿ってムーの中心地の神殿を目指していた。ロウアはエメの背中に乗って移動していたので体力は特に問題なかったが、ムー大陸の広さから月の直径で2つ分ぐらいの距離を移動する必要があって、その距離にうんざりとしていた。更に、途中でいくつかの街を経由しては、そこで洗脳されている人々を解除していたため、時間が掛かっていて、すでに1ヶ月あまりが経過していた。


「しかし、先は長いね……」


 ロウアは、珍しく嘆くようにそう言った。


「イケガミさん、空を飛べるんじゃないのですか?飛んで行ってくださいよ。私は走って追いつきますから」


 エメが石川來帆の声でロウアの能力のことを指してそう言った。彼女は男の魂の"エメ"の部分はほとんど表に出さず、ロウアと居るときは、彼と同時代、つまり、我々と同時代にいた石川來帆の魂が前面に出ていた。


「あははっ!人は空を飛べないよ?」


「あれ、そうでしたっけ?」


 エメの背中に居るロウアは苦笑いをしながらそれを否定したので、エメはキョトンとした。だが、ロウアはそう言った後、大空に浮かぶ雲を見つめて、考え事にふけった。


(う~ん、どうしたものか……)


 彼は自分の能力が落ちてきている事に感づいていたのだが、それがどういった意味なのか理解出来ずにいた。アーカにこの事を聞こうにも相変わらず出てこなかったし、あのうるさかった魂のロウアも出てこなかった。エメが居るから心強かったが、もしも能力が使えなくなって、コトダマも使えなくなったらどうすればいいのかと途方に暮れた。


「次の街が見えてきましたよっ!」


 エメがそう告げると、遠くに大きな街が見えてきて、やがて、その入口に到着した。


「ここもゾンビ(ケセロの洗脳を受けた人)だらけなのでしょうね……」


 エメは立ち止まると、街の中心を道をそう言って警戒した。


「そうだろうね……」


「では、例の如く、シイリちゃんの泣き声を鳴らして街中を走り回ってきますよ。集合場所はどうしましょう?先に調べますか?」


 二人は集客能力(?)のあるシイリの鳴き声を録音していて、それを鳴らしながら街中を走り回って人々を集め、ロウアのコトダマで一気に洗脳を解く作業を街に到着する度に実施していた。


「あぁ、キホさん、それは不要かも知れない」


「はい?」


 エメがロウアに言われて街を見渡したのだが、今まで回ってきた街とは異なり、ここは活発に人々が動き回っていたので驚いてしまった。


「……あれ、この街はどうして?

もしかしたら、シアムちゃん達がゾンビ化を解いた街なのでしょうか?」


「そうかもしれない。僕が様子を見てくるよ」


「あぁ、はい。私は目立つのでここに居ますね」


 エメはそう言うと街の外れに移動してちょこんと座ってロウアの帰りを待つことにした。ロウアは、もしかしたら、シアムや部員達がいるのでは無いかと期待して街に入った。


-----


 ロウアは、街の中に入ると様々なところを歩いて回った。


 大陸中は、ケセロの洗脳で人々はゾンビのように街を徘徊するか、家に籠もって巨人狩りゲームにいそしむのどちらかだったのだが、この町では人々が生き生きと動き回り、子ども達も元気に街中を走り回っていた。そして、人々は街のあちこちでゴザのようなものを広げて色々なものを並べていた。


(そ、そうか。ツナクが使えないから……)


 この街の人々は、どうやら物々交換で取引を行っているのがロウアには分かった。つまり、自分達の家にある食材や、雑貨、遊具などを所狭しとゴザの上で広げてフリーマーケットを開いていた。


 ムー国の人々は、ツナクトノを使ってショッピングの会計を行っていた。つまり、この時代では電子マネーでの会計がほとんどだったのだが、ツナクが使えなくなったことで、ムーの人々は財産を失ってしまった。それでも人々は生活をするため、原始的だったが物々交換をすることにしたのだった。


(人間ってたくましいな……)


 ロウアはそんな人々を尊敬の眼差しで見つめた。


(それにしても、ここの人達はどうやって洗脳を解いたのだろう……。部活のみんなは居るんだろうか……)


 ロウアは、何処からか部員のみんなが歩いてきて、自分を見つけてくれるではないかと期待した。しかし、部員達は何処にもおらず、悲しみだけが込み上げてきた。彼がそんなことを考えて公園を歩いていると、誰かがロウアに話しかけて来た。


「君、君っ!」


「は、はい?ア、アマミル先輩っ?!」


 突然、女性の声で呼び止められたので、ロウアはアマミルだと思って振り返った。

 だが、目の前には、他の人達と同じように雑貨を広げている一人の優しそうな中年女性が座ってこちらをニコニコして見つめているだけだった。雑貨は彼女の人生を現しているような古びたものが多かったが、彼女の家で育てたものなのか、食材も少し見られた。


「やだよ、誰かと勘違いしたのかい?」


「え、えぇ、まぁ……、あはは……」


「どうしてそんなにキョロキョロしているんだい?この街の者じゃなさそうだし、どうしたんだい?」


「はい、旅をしている者です。首都を目指しています」


「しゅ、首都だって?歩きでかい?!はぁ~」


「い、いえ、特殊な乗り物……。じゃなくて、ま、まあ、歩いてですね……。あははは……」


 ロウアは、乗り物、つまり、エメの事を言いそうになったが、今ここでそれを話すと説明に困るぞと思って誤魔化した。


「はぁっ!本当なのかいっ?!歩くとしたら半年はかかると思うよ?車もキケロント(電車)も動いていないし……」


「そ、そうなんですよね。北東地方に旅行していたら、こうなってしまって……。でも、家が首都にあるから……」


「そうなのねぇ。不憫だねぇ……」


 不憫なのは、彼女を含めてこの街の人々だとロウアは思った。すると、彼女は、目の前のゴザからリンゴのようなものを掴むとそれをロウアに差し出した。


「これを持っていくといいよっ!」


「あ、ありがとうございますっ!!」


 ロウアは、嘘をついて申し訳ないと思ったが、言葉に甘えてそれを手にした。


「皆さんはいつからこのようなマーケットを?」


「いつからだろうねぇ、2,3週間ぐらい前かねぇ……。しかし、酷いことになったもんだよ。うちの旦那も仕事を失っちまうしね」


「そうですか……」


 ロウアは、ケセロの策略によって、大陸中が混乱状態であることを改めて知った。


「ある日、起きたら家中の何もかもがボロボロ状態だったんだよ。変な話さ、誰かが家に入って何かを盗んだと思ったんだが、何処の家もそうだって言うんだから驚いちまったよ」


「……」


 ロウアは、彼女が洗脳状態から突然、解除されたのだと理解した。数日か、数週間かは分からないが、無気力状態にされていたが、何かのきっかけでそれが解除されたのだと思われた。


「……も、もしかして、カフテネ・ミルの歌を聴きましたか?」


 ロウアは、もしかしたら、一つ前の街で出会った女学生のようにカフテネ・ミル・フラスラのコンサートがここを通ったのではないかと期待してそう聞いた。


「うんっ?!何だってっ?!カフテネ・ミル?!」


「ご、ご存じですかっ?!」


「ちょ、ちょっと、お前さん、何を言ってるんだ……」


 ロウアは、彼女がカフテネ・ミルを知っていたので浮き足立ったのだが、その顔がすぐに曇ったのでどうしたのだろうかと思った。しかも、いつの間にかロウアを囲むように人々が集まりだしていて、しかも、その人達は、武器を携え、怒りに満ち満ちていた。


「え……?あなた達は……?わ、私は何もして…」


 ロウアは自分が彼女を襲う盗賊か何かと間違われたのだと思って弁明しようと思ったのだが、彼らの口々から想像もしていない言葉が出て来た。


「お前、今、カフテネ・ミルと言ったかっ!」

「俺はそう聞いたぞっ!」

「魔女どもを知っているのかっ!」

「お前は魔女の仲間かっ!」


 彼らは口々にカフテネ・ミルは魔女だと憎しみを込めて言い放ったので、ロウアは驚いてしまった。彼らを救ったのはカフテネ・ミルのコンサートに違いないはずと思っていたロウアにとって衝撃だった。


「ま、魔女ですかっ?!カフテネ・ミルが?!シアムやアル達が?!ど、どうしてっ?!」


 彼らはロウアに対して武器を構えだした。


「ツナクを破壊して洗脳しているのは奴らだぞっ!」

「おい、こいつさ。シアムを救ったって同級生って奴じゃないか?」

「あぁ、確かにそうだっ!ツナクで見たぞっ!」

「右手が白いって聞いてるが確かにそうだな」


 ロウアはそう言われて思わず右手を隠してしまった。


「見た見た、そうだったっ!こいつに違いないっ!」

「何でここにいるのか分からないが、ただでは帰さないぞっ!」


「ちょ、ちょっと待って下さい……。カフテネ・ミルが何をしたのですか?」


 ロウアは、後ずさりしながら左手を前に出して彼らを止めようとしたが、無駄なことだった。


「お前があいつらを救ったから、俺達がこんな生活をしているんだっ!」

「あの子らがツナクを破壊したって聞いているぞっ!」

「子供のくせに信じられないことをしやがったっ!」

「俺達の苦労して稼いだ金がぜ~んぶ消えたんだぞっ!」

「彼奴らのせいで俺の母親は飯も食えず、死んだんだっ!ふざけるなっ!」


「ち、違いますっ!ツナクを破壊したのは……ケセロというロネントで……」


「ロネントがツナクを破壊するものかっ!馬鹿者がっ!」

「おい、こいつどうするよ」

「こいつは魔女の居場所を知っているはずだろっ!」


「ご、誤解ですっ!お、落ち着いてください……」


 だが、ロウアの弁明は聞きいてもらえなかった。


「し、仕方ない……コ、コトダマを……。い、いやダメだ……」


 ロウアは、仕方なくコトダマを使って逃げようとしたが、彼らを傷つけるわけにもいかず、途中で止めた。


「捕まえろて歌姫様に差し出すんだっ!」

「そうだっ!そうだっ!」


「う、歌姫?」


 ロウアは歌姫という言葉を聞いて誰のことか分からなかったが、その人がこの人達を先導しているのだと理解した。だが、次の瞬間、街中の人々は彼を囲み、あっという間に地面に押しつけられて捉えられてしまった。


「……ど、どうして」


 彼の目の前には、もらったばかりにリンゴが転がっていた。殴られ続けられたロウアはそれを見つめながら意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ