女王と少年
ある日のこと、ムー国から国民に対して重要な発表があると通達があった。ここナーカル校では、教師達も我々の時代と同じように謂わば公務員の位置づけだったため、職員室に集まってその発表を待つこととなった。彼らは清掃に近い服装をして今か今かと開始時間をも合っていた。タツトヨも彼女なりの清楚な格好をして、職員室の自席に座って待っていた。
(朝から全く面倒だねぇ…。それにしたって、女王の初お披露目だって?そんなのが現れるからってみんな浮き足立っちゃってさぁ…。女王って言ったって、BBAなんだろ?本当にどうでも良いわ…)
職員室の前方に映された立体映像に、まず王室部のサクルが現れて挨拶をすると、女王に出御を願った。
"…女王様、どうぞ"
その言葉からしばらくして、小さな少女が荘厳な格好で現れたため、これが女王かと職員室はどよめいた。
"ムー国の皆さん、初めまして。私が今世の女王となったラ・エネケルです"
更に教師達がお届いたのは、女王が自分達のナーカル校に居た生徒だったことだった。
「お、おいおい…あの子って…いや失礼あの方は…」
「そ、そうですよね…確か…」
「ホスヰ…様…」
「そうそう、そのお名前だった」
「はぁ~」
「まさかうち(ナーカル校)の生徒であらしたとは…」
ナーカル校では、ホスヰが女王の生まれ変わりだと説明を受けていなかったのでみんな驚愕した。それはタツトヨも同じだった。
「は、はぁっ?!ホスヰっ?!お、お前が女王だってぇぇぇっ?!」
タツトヨは思わず失礼に当たるような事を言ってしまい、他の教師からの白い目で見られ、下を向いて恐縮した。
「…あ、あぁ…、す、すいません…」
ホスヰを知る教師達は、彼女に教えたことがあるとか、彼女と話したことがあるとか、様々な雑談が始まったが、教頭の咳き込む声で反省して押し黙った。
(お前が女王ねぇ…。と言うことは、ロウアは女王を救ったってことかい?はぁっ!ムカつくねぇっ!!)
タツトヨは、ロウアの功績を考えて腹立たしかったが、目の前に映された女王の意識と一体となったホスヰは、ムー国を脅かす敵について説明した。
"さて、この国を脅かす者ですが、実際のところ、また実態が掴めていません。ただ、数ヶ月前に国中が霧に包まれた事件を覚えているでしょうか。あの霧に紛れて、かの者はこの神殿の神官達を洗脳させるという暴挙に出ました。"
教師達もそれを聞いて納得する者が多かった。
「あぁ、それでか」
「神殿に問い合わせても返事がありませんでしたよね」
「それは一体誰が…?」
(そいつはケセロだってっ!)
タツトヨは私は知っているんだと心で叫んで喜んだ。
"…ですが、私が肉体を持って皆様の前に現れたことをご理解ください。つまり、私は皆様を必ずお守りするとお約束します。今日は、その宣言に来たのです。そのような脅威に対して私を含め、神官達も最善を尽くしますので皆さんもどうかご安心ください。"
教師達は、彼女の力強い言葉を聞いて感嘆の声を上げたのだが、タツトヨはひねくれた顔をしていた。
(よく言うよ、ガキのくせにさっ!)
"まずは、私たちから皆様に言葉の力を差し上げたいと思います。合掌し、黙祷してください。"
(何だって?言葉のちから?)
教師達が黙祷している中、タツトヨは睨みつけるようにホスヰを見つめていた。すると突然、その映像がノイズまみれになると一人の少年を映し出した為、その顔が驚きの顔に変わった。
「はぁぁっ!はぁぁっ!」
<ハジメマシテ…、私はケセロ…。この名前は我々を代表する名前だ。>
どんな言葉を頂けるのかと期待していた教師達だったが、突然、少年の声が聞こえたため、黙祷をしている者達の目を開けさせた。
「…お、おや?」
「ん、この子が何かしてくれるのかな?」
女王の説明の後だったので、この少年も新女王と関係しているのだと思う者も居た。
だが、タツトヨはこの少年を見て一人感動の声を上げた。
「はぁぁっ!はぁぁっ!ケセロォォッ!生きていたのかぁぁっ!やっぱり、お前は生きてたぁぁぁっ!」
「…タツトヨ先生、あなたはご存じなのですか?」
隣に居た教師が彼女に聞いたが、タツトヨは声を濁した。
「…あっ、いや…、し、知り合いに似てるだけでして…、その…ブツブツブツ…」
その後、ケセロは、誰かと話しているようだったが、ナーカル校では誰と話しているのか理解出来ず、しかし、出てくる名前はナーカル校の生徒のようでもあり、職員室はざわざわとし始めていた。
やがて、ロウアとアルとシアムの話、そして、カフテネ・ミルの結成の経緯などを話し始めて、ケセロ誕生の話も出てきて、イツキナの怪我についても触れたため、神殿にナーカル校の生徒がいるのだと教師達の間でも分かった。
(何だよっ!私との話はないのかよっ!)
タツトヨは、自分の話が出てこないため嫉妬したが、やがてケセロの機械大国の話が始まって、教師達は理解が追いつかないため互いの顔を見合わせた。
だが、タツトヨは、その会話聞けば聞くほど胸を打たれ、自然と涙を流していた。
「へ、へへ、そうだ、そうだ…。世界はお前を待っているんだ…。私はお前が作った国、お前が作った世界で生きるんだ…」
タツトヨは手をぐっと握りながら小声でそう言ったのだが、周りの教師達は、ケセロという少年の正体を掴めきれずああだこうだと話していて彼女の独り言には気づかなかった。
やがて女王がケセロにロネントの配下にはならないと宣言すると、少年は何かを命令した。
"命令:近くに居る人間の電源を落とせ"




