小さな袋
翌日も休日だったのでアルとシアムはロウアの家に押しかけて彼の部屋をノック無しで入ってきた。
「イケカミッ!居るっ?!」
「こんにちは~」
「はぁ~……、君たちはいつも普通に入ってくるね……」
ロウアは溜まっていた勉強をしたかったので困った事になったと思った。
「そ、それで、今日はどうしたの?」
ロウアが二人に質問すると、二人からの質問が倍以上に返された。
「イケカミは、どれぐらいの未来から来たの?」
「未来ってどんな感じ?」
「学校ってあるの?」
「どんな服装をしているの?」
「ご飯はどんなものがあるの?美味しいの?」
「ニッポンってどこにあるの?」
「どんな人達が住んでいるの?」
それらに対してロウアは丁寧に説明していった。一通り答えると二人は、う~んと信じられないといった顔をして互いにあれだこれだと橋始めた。それが落ち着くと、シアムがロウアにある質問をしてきた。
「そ、そうだ。本当は、お歳はおいくつなんですか、にゃ?」
「24歳だよ。あれ、25歳になったのかな……」
「わ~、そのお歳だと、私たちのお兄さんだねっ、アルちゃん」
「お兄さんか……」
ロウアは彼女らとは実際には10歳近くも離れているのだと再認識していると、アルは何かを決めたようで両手をパチンと叩いた。
「よしっ!しか~し、敬語は無しだ~っ!だって、見た目はロウアなんだもんっ!シアムも敬語を使ったらダメ~っ!」
「うん……、で、でも……」
シアムは、さすがに不味いだろうと思ったのか、そう言ってロウアの顔を伺った。
「いいよ、今まで通りで。敬語なんて使われると気持ち悪いから」
「はい、にゃっ!」
「ふんむっ!
でもさ~、どうしてムーに飛んできたのさ」
次にアルはもっともな質問をした。
「と、飛んできた……か……、あはは。自分でもこの時代に来た理由は分からないからなぁ……。たまたまかもしれないし、そうじゃないかもしれないし……。
でも、未来の二人にも出会ったし、未来のロウア君にも出会ったし、ホスヰちゃんも他の色んな人にも会ったし……、だから何らかの縁があったからなんじゃないかと思う」
「未来の私たち?」
「そう、不思議な出会いだった。二人とも不運な状況だったけど……」
ロウアは二人に出会った時のこと、そして彼女らの不運な状況を説明した。
「やだやだやだ~っ!
私は目覚まし時計っていうのと一体になってた?なんだそりゃっ!んでもって、イケカミと戦ったと……。未来の私は何をしてるんだか……」
「わ、私は紙の本と一つに?それに短いスカートッ!にゃっ!私もイケカミ兄さんと戦ったの?」
「そうだよ。後で二人とも仲良くなれたけどね」
目覚まし時計と一体となった姿となっていた。
「それにしても、私は交通事故で死んだとか……、あり得ん……」
未来でのアルは、蓮沼時子という名前、通称、とっきょという名前だった。交通事故で亡くなって彷徨っているところを重力子を使ったヘッドセットで目覚まし時計と一体化されてしまい、生まれ変わり、そして、ロウアの未来の姿、池上良信と戦ったのだった。
「そうそう、僕からするととても信じられなくて。この時代だと交通事故は起こらないよね。ムーではすごい技術を使っているみたいだね」
ムー文明の車、地上に走る車や、空中に飛び回る車は、車同士はもちろんのこと、人や障害物にぶつかりそうになると自動で停止したり、互いに避けたりした。よって、この時代は交通事故はほとんど起こらなかった。
「そうか~。私たちはすごい世界に住んでいるんだなぁ」
「そうだね~、アルちゃん。だけど実感できないね」
アルとシアムは、自分達の世界に感心していた。
「う~ん、それと……、私は堕胎しちゃって生まれることが出来なかったんだよね……?」
未来の姿のシアムは、御岳良子として生まれる予定だったが、池上と出会う運命であったのが両親の堕胎が原因で無情にも切り裂かれ、天国に帰れず彷徨っていた。そして、自ら願い出て、本と一体となった姿となって池上と戦った。
「でも、堕胎されてしまった赤ちゃんもムーだと助けることが出来るから……それも不思議な事だ、にゃ」
シアムの話では身ごもった女性が何らかの病気や事故で堕胎したとしても、その胎児は人工子宮で育てることが出来るということだった。
「す、すごいね……。僕の時代は、この時代よりも科学文明が少し遅れていると思うなぁ。未来なのに文明が遅れているなんて……」
「すごいでしょっ!えっへんっ!」
「やだ、アルちゃんが全部作ったみたいっ!でも、不思議だね、未来の方が遅れているなんて」
「僕の右腕ももうすぐ再生できそうなんだよね。これも僕の時代では治療できないから」
「イケカミ~、この時代に生まれて良かったね~。あれ?何か変なこと言った気がする……」
「あははっ!あと、お願いなんだけど、今まで通り、僕のことはロウアって呼んでほしい。未来から来たことは秘密にしてほしいんだ。信じる人もいるだろうけど、信じない人もいるだろうし、静かに生活したいというか……」
「こんな事誰かに話しても信じてくれないって~。ねぇ、シアム?」
「そうだね。未来から来たなんて、ツナクのドラマとか、小説とか、ナロウだよ……」
「よろしくね。……ん?今、なろうって言った?」
ロウアが疑問に思っていることは無視されて二人は会話を続けた。
「んにしても、シアムは楽しそうだね」
「うん?そうかなぁ」
「最初はイケカミの事、疑っていたよね」
「そうだけど……。でもね。ロウア君がいきなり大人みたいな感じになったから、おかしいなって思ってたの」
「んがっ!この前は、昔と変わっていないって話していたじゃんっ!」
「えっ、そうだっけ?」
「やだやだやだ~、シアムのくせに調子いいなぁ。それだと、私みたいじゃん……」
「えへへっ。そうだ、イケカミ兄さん、遅くなったけど助けてくれてありがとうっ!」
「いや、アルもいてくれたから助けられたんだよ(というか、ロウアって呼んで欲しいんだけど……)」
二人はロウアの願いは全く聞いていないようだった。
「でも、イケカミが最初に気づいたんじゃん」
「ま、まあね。あの時はシアムの声が聞こえたから」
「えっ?そ、そうなのか……にゃ……?」
シアムは、衰弱していてそんな声を出したとは思っていなかったので驚いていた。
「うーん、昨日の不思議魔法といい、イケカミは不思議っ子だなっ!」
「ふ、不思議っ子……って」
ロウアは、アルの意味不明な命名に呆れていると、シアムが顔を赤らめながら小さな袋をロウアに差し出した。
「……そ、そうだ。あ、あの……、これ……、お礼……です、にゃ。まだ、右手、ち、小さいから……」
「あ、ありがとうっ!開けてもイイ?」
「はい、にゃっ!」
その姿を見て、アルはニヤニヤとしていたが、ロウアは、それには構わず袋を開けると毛糸で縫われたような"小さな袋"が出て来た。
「……これは?」
「えっとね……」
ロウアが不思議に思っているとシアムが説明してくれた。彼女の説明では、それは治療中の小さな手を隠すための手袋ということだった。正確には"指が無い手袋"だったので"小さな袋"だった。
こんな手袋は市販されていないのでロウアは手製であることが分かった。シアムは退院してから数日で作ったことになるのでロウアは更に嬉しさがこみ上がってきた。
「ありがとうっ!嬉しいよっ!手作りだよね。大変だったでしょ?」
「う、うん……。でも簡単だったからすぐ出来たの……」
「また~っ!すごく大変だって、言ってたじゃんっ!大体、今時、手で編むとかありえ……、モゴモゴ……」
シアムはアルの口を手で押さえると、下を向いて顔を真っ赤にしていた。
「にゃ、にゃ、にゃ……」
ロウアはシアムの優しさで心が温かくなった。あの時、自らの名誉を投げ捨てて必死に彼女を助けて良かったと思うのだった。
ナ 思いから作られしものが
ロ 一つに固まって広がり、
ウ 世界に循環するサイト
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2022/10/20 文体の訂正、文章の校正




