ロウアという少年 その2
タツトヨは、ロウアという少年をどうにか貶めてやろうと思っていたが、どうにも出来ず教室の後ろの席でホスヰと楽しそうに話しているロウアを見る度にイライラとするのだった。
ただ、しばらくすると、ロウアが授業を突然抜けて何処かに行ってしまうという問題を起こした。これはロウアがホスヰの危機を察知しての行動だったが、タツトヨにしてはメシウマな事をしやがったなと思った。
(バカめぇぇっ!自爆しやがってぇぇぇっ!)
タツトヨは、ここぞとばかりにロウアの素行は普段から悪くてとんでもない悪い生徒だと主任ロネントに耳打ちするように報告した。そのために彼の退学まで検討され始めてしまった。
(ヒッヒッヒッ!落ちろっ!落ちろっ!)
その後、数日して早朝の職員室で行われる会議で主任ロネントと教頭からロウア退学の報告があったため、タツトヨは笑いを堪えていた。
(ククッ、ブブブッ…、わ、笑いを堪え切れねぇ…、ブブブッ…)
そんな彼女に周りの教師も気づいて相手にしないようにしていたのだが、誰かがすっと立ち上がり、大声をあげた。そのためか、空気がピーンと張り詰めた。
「ま、待って下さいっ!!
彼は、理由もなく授業を抜ける生徒ではありませんっ!!!彼は頭も良く優秀な生徒ですっ!
彼を今退学にしたら、彼にとっても、うちの学校に取っても、まして、このラ・ムーの国に取っても大きな損失になりますっ!!どうか考え直して下さいっ!」
(なななっ?!)
「彼を退学にするなら、まずは私を退職させて下さいっ!」
いつも冷静なキルクモが声を荒げて、その身を捧げても良いぞと主任ロネントや教頭などに迫った。主任ロネントは反応はしなかったが、教頭は人間だったのでキルクモの熱い思いに胸を打たれた。そのため、人とロネントで判断が分かれた場合は人の考えを優先していたため、ロウアの退学については、しばらく様子を見ようということになった。
(はぁぁっ!!余計なことを言いやがってっ!ギギギッ!この爽やかくそ野郎がぁぁぁっ!)
タツトヨは、この野郎とキルクモを睨むと歯ぎしりした。
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キルクモの身を挺しての応援はロウアに届いていないはずだったが、彼の成績は、どんどん良くなっていって半年程度で、彼の年齢相応の15歳クラスに戻ることが出来た。
(海で溺れるようなアホのくせにっ!!)
タツトヨは腹立たしくもロウアを自分の教室から見送るしか出来なかった。
(あの日以来、ホスヰの奴も元気になってやがるし、どういうことだっ!)
担任のタツトヨのところには、ロウアが教室を抜けた日にホスヰの家に行ったという報告が流れてきていたのだが、それ以来、何故かホスヰの身体が良くなって元気になったのだった。
「あうんっ?」
教室で何があったのかと勘ぐりながらタツトヨがホスヰを見つめると笑顔でこちらを見つめ返された。彼女はその目に圧倒されてしまい、目を逸らした。
(はぁっ!なんだこいつはぁぁっ!ガキのくせに私を怯えさせやがってぇぇっ!)
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更にしばらくすると、ロウアの評判を上げるような誘拐救出事件が起こった。
幼馴染みだった女生徒をロウアが助けたのだという事件だった。その女生徒を誘拐して監禁したのはロネントだった事もあり、国中で大きな話題となった。もちろん、ナーカル校も同様で、ロウアが廊下を歩くだけで黄色い声が聞こえるため、その度にタツトヨは歯がゆい思いをした。
(はぁぁぁぁっ!!
あ、あいつめぇぇ、ロネントを操って友達を誘拐させたなっ!!自作自演だっ!くそっ!くそっ!くそっ!!)
彼女の思いとは裏腹に、ロウアの評判を教師の間でも話題になり、結局、退学の話はいつの間にかご破算となっていた。
(はぁぁぁぁっ!!はぁぁぁぁっ!!ムカつくっ!ムカつくっ!)
タツトヨの怒りは頂点を迎え、それ以来ロウアに関連するものには容赦なく攻撃し、彼の所属する部活がアイドル活動をし始めた時は徹底的に締め付けを行った。




