美しさ
それからしばらくしてタツトヨは、このロネントの言う通りに行動した。
「まずはメイクからだ…」
「はぁ?めいくぅ?」
ロネントの提案にタツトヨは嫌な顔をした。普段から顔を見せたくなかった彼女は、ローブで顔を半分覆って下を向いて歩いていたため、メイクをしたことが無かったからだった。
「メイクはオンナの基本だと集計サレタ…」
「な、なにが女の基本だよっ!」
このムー文明では、現在の我々のような化粧品を使ったメイクは存在せず、腕に装着したツナクトノを使って自在に顔にバーチャルなメイクを施すことが出来た。つまり、ツナクトノに表示されるメイク用アプリケーションを起動すれば、タッチ操作でファンデーションはもちろん、眉毛やまつげの形や色、唇の色まで自由自在に変更することができ、同じように服装も自在に変えることできた。
「メ、メイクって言ったって、私は…、その…、メイクアプリすらインストールしていない…んだ…」
「お前のツナクトノにインストールした。最新のメイクデータもダウンロードしたゾ」
「はぁ、はぁっ?!なんで、そんなことが…」
「女優と呼ばれる仕事をシテル女が使っているデータだ。今、セットしてヤッタゾ。鏡を見ろ」
このロネントは勝手にインストールしたどころか、ダウンロードしたメイクデータをセットしたという。
「か、勝手な事ばかり…しやが…て…?!」
タツトヨは、勝手な行動をするロネントに腹を立てたが、言われたとおり鏡に映った自分を見るとポカンと口が開いた。
「は、はぁ…、こ、これが私…?」
鏡に映っている自分はこれまでの自分とは別人のようだった。
「お、お前、どうしてこんな事ができ…」
「服もダウンロードしてセットした」
彼女が最後まで話す途中で、中断させるようにロネントそう言うと、彼女の服はいつもの真っ黒な服がガラッと変わり、パステル調の可愛らしい衣服となっていった。このロネントは国中からメイクデータを集計して一番人気のあったデータを使い、衣服もタツトヨに最適なものを衣服データを機械学習して作ったと言った。
「はぁっ!はぁっ!…す、すごいっ!すごいじゃないっ!」
様変わりした自分を何度も鏡で見返してタツトヨは自分の心が躍るのが分かった。
「はぁっ!はぁっ!」
「姿勢だけは正せ…」
彼女の猫背だけはロネントの力では何とも仕切れなかったのか、ぽつりとそう言った。
「あ、あ、当たり前だぁ…。違うわね…、当たり前よ…、はぁっ!はぁっ!」
彼女は、服装に合わせて自然と姿勢が正され、口調も女らしくなった。
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翌日、タツトヨはナーカル校に出勤しようとしたが勇気がわかず、マンションの入口で立ち止まってしまった。
「こ、こんな格好で学校なんて行けるないわっ!」
「…行くのだ。そうしなければ何も変わらない、お前は今のままで良いのか?」
彼女は投げやりな言葉で自分への言い訳を放ったので、彼女の後ろに立っていたロネントはメイクアーチストのような彼女にアドバイスした。
「あぁ、もう、どうにでもなれっっ!!」
タツトヨは、ロネントに諭されると思い切り力を込めて扉を開けた。
「あ、あれ…」
言われるままに開けた扉だったが、彼女は今までと違う空気を感じた。
そこには青空が広がっていた。
散らばるように浮かぶ雲が見えた。
新鮮な空気が自分の髪を軽くなびかせた。
いつも下を向いていた彼女は真っ直ぐと前を向いているだけだった。だが、いつもより心が弾み、自然と心がわいてくるのだった。
「…とても良い気分…」
タツトヨはそう言って後ろに居るメイクアーチストを見たが、それは冷たく彼女を見つめているだけだった。
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ナーカル校に着いた彼女は颯爽と前を向いて歩き、職員室に向かった。
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│お、おい、あの女性誰だよ… │
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│先生だろ…?たぶん… │
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│先生だろ…?たぶん… │
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│き、綺麗だ…、あんな先生いたっけ? │
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│居るわけ無いだろ、新任の先生じゃ │
│ないか? │
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校内ではすぐにこんな噂が立ち始めた。やがて彼女がタツトヨだと分かり始めると驚きと感嘆の声が更に上がり始めた。
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│あの人がタツトヨ先生っ!? │
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│はぁっ?!う、うそだろっ?! │
│あり得ないってっ! │
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│魔女がどうして… │
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│もう魔女って呼べないわ… │
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│この前、挨拶してくれたの…ビックリ! │
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│そうだよね~、いつもは無視されるにさ~│
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