海での出来事
ロウアは朝食のいい匂いで目が覚めた。
「良い匂いだ……。(グゥ~)」
匂いでお腹がなる。
朝食はパンとスープ、それと何かの肉料理とフルーツが出された。
病人の食事だから薄味かと思いきや、それなりに味があってどれもおいしかった。
パンは見たこともあるものだったが、スープは透明な薄茶色だったが、濃厚かつ繊細な鶏ガラスープのような味がした。
肉料理は何の肉なのかさっぱり分からないが、味はほぼ牛肉の味がして肉汁がこぼれていてとてもおいしい。
フルーツは、さっきもらったリンゴもどきとは違うが、見たことも無い形をしていたが、甘くてジューシーで下がとろけるとかと思った。
(牛肉ってこんな味だっけ……?いつも豚肉か鶏肉だったからなぁ……。
というか、この時代にも牛はいるということかな。
それにしても、精神科病院の料理とは偉い違いだ……)
朝食が終わり、しばらくすると医者が現れた。
<君の右手だが、再生治療をしよう。こっちへ>
(再生治療?)
池上は医者の言われるまま、別室に案内された。
そこで、椅子に座らされ、右手を診察台の上に置かされた。
腕は包帯で巻かれていたが、それを取り除かれた。
傷口は、徐々にであるが、塞がりつつあった。
池上は自分の腕を見るのを嫌がったが、それを医者が見て、話し始めた。
<傷が塞がりつつあるけど、これなら再生できると思うから安心したまえ。
塞がりきってからだと大変だけどね>
そう言うと、また一人、別のロネントを呼び出し、手のひらを傷口に向けた。
手のひらは、光が差してくる。
<少し痛いけど我慢してくれ>
と言うと、医者は、池上の傷口に、薬を塗り始めた。
「ぐぁっ!!!」
強烈な痛みが、池上を襲った。
この痛みは腕にある神経全てにとげを刺したような痛みであった。
<すまんが、我慢してくれ>
医者はそう言うと、腕を治療台に置くと光を照射し始めた。
光の照射は、30分ほど掛かったが、何か変わったような気がしない。
激しい痛みだけが残った。
<痛むだろうが、頑張ってくれ。痛み止めの薬を飲むと治りが遅くなってしまうのだよ>
結局、この痛みは、病室にもどってもしばらく続いた。
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翌日、自分の右腕が少し伸びていることに驚いた。
(この激痛は酷いが、再生治療が存在するなんて……)
医者が言うには、あと3ヶ月ほど掛かるということだった。
痛みが激しいため、二日に一回ほどしか出来ないということも教えてくれた。
池上は、こんな事が3ヶ月も続くと思うと、嫌気が指した。
(腕が"生える"のであれば、仕方が無いか……。しかし本当に元に戻るとしたら、すごい技術だな)
治療の後、医者は、看護師ロネントに病室に案内させた。
池上は、一人でも病室に戻ることは出来たが、それを言葉にも出来なかったので従わざるを得なかった。
(痛たた……。そ、それにしてもロネントか、本当にロボットなのかなぁ。見た目は人間なんだけどなぁ)
そこで病室に戻ると、池上は看護師ロネントの肩に触れてみた。
「□□□□□□□?」
(あ、あれ?何を言っているのか分からない。
そうか、機械だから意思が読み取れないんだ……。
う~ん、良く出来ているなぁ)
池上は顔を触ってみる。
(す、すごい。本物の人間みたいだ。でも、やっぱり目だけは何か違うんだよなぁ)
池上はロネントの目をまじまじと見つめていた。
<やだやだやだ~~~っ!ロウアッ!!何やってるのっ!>
<ロ、ロウア君……?>
「えっ?」
後ろを振り向くと、アルとシアムが池上の後ろに立っている。
アルは怒り顔、シアムは後ろでいぶかしげな顔をしていた。
「い、いつから?ち、違う……。えっと、これは調べるため見ていただけで……」
<あぁ、もう何言っている分からないっ!
ロウアのバカッ!!>
<ロウア君、いくら年頃の男子だとしても、それは駄目だと思う……>
「あぁ……」
ロウアは頭を抱えてしまう。
<さぁ、早く寝てっ!
今日はおばさんが来られないから、着替えとか持ってきて上げたのにっ!>
<大人しく寝ていた方が良いよ……>
池上はガックリとして、そのままベットに横になった。
説明出来ず単なるヘンタイとして扱われたのが悔しかった。
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しばらくすると、アルは、あの日のことを説明してくれた。
池上は、いや、ここからは、我々もロウアと呼ぼう、そのロウアが海で遊んでいるときに、大きな波が押し寄せて、ロウアをさらわれてしまったと説明した。
シアムは、水泳がうまいから何とか助けることが出来たけど、海から上がったばかりのロウアは昏睡状態だったということだった。
だから、シアムが人工呼吸をしてくて、それでなんとか蘇生したということだった。
(ん?人工呼吸……?)
シアムを見ると、顔を真っ赤にして下を向いていた。
ロウアも下を向いてしまう。
<何恥ずかしがっているのよぉ。ケケケッ!!>
<(カァ~)もうっ!だって、必死だったんだからっ!>
<分かってるけどさぁ、ニヤニヤ>
池上はお礼を言いたいのだが、言葉に出来ないので、シアムの手を握った。
シアムは顔を更に真っ赤にしている。
<ほうっ!どうやら、ありがとうと言いたいようだぞ>
<は、恥ずかしい、にゃ。ロウア君……>
(海で溺れたこの身体に、僕の意識が移ったということか……。
この身体の持ち主はどこに行ってしまったのだろうか……)
そんな事をロウアは、思うのであった。
2022/10/08 文体の訂正