後はよろしく!
ロウア達一同は、広場に到着した。大して大きくも無い村だったためか、この場所からでも村の端が見えた。噴水は太陽光発電のお陰で綺麗な水を循環させながら綺麗なアーチを描いていた。その上に表示されている立体映像のモニターは相変わらずノイズが映ったままとなっていて、女王の紹介と演説の途中でケセロの洗脳にあったのだろうと想像できた。
(ゾンビ映画みたいですね…)
(そうだね…)
エメがそう言ったように、ここにはみんなうつろな目で徘徊しているだけの人間が数名何をするでも無くうつむきながら彷徨うように歩いていた。
(だけど、顔色は良いので、なんというか…健康そうなゾンビですっ!)
(あはは…)
ロウアは笑いきれず、ケセロの洗脳の恐ろしさを改めて知ったような気がした。そして、赤ん坊のシイリは、未だ見えない目を閉じたまま身体をくにゅっとした。そして、大きなあくびをすると、心の声でロウアに話しかけて来た。
(…イケガミお兄ちゃんっ!準備が出来ましたっ!)
(お、おぉっ?!じゅ、準備?そうかぁ…)
ロウアは準備という言葉に意味を見いだそうとしたがよく分からず、曖昧に返事した。
(…そ、それで何をするんだい?)
(…えへへ)
すると、その赤ん坊は、一瞬身体を縮めたと思ったら大きな声で泣き始めた。
「おぎゃぁぁ~~っ!!おぎゃぁぁ~~っ!!」
「え~っと、泣いた…だけ…かな…」
ロウアは、耳を押さえながらシイリがただ泣き出しただけだったので肩透かしを食らったような気がした。
「…ん?あ、あれ…、なんだこの光は…」
しかし、その声は赤子のそれとは異なり、強い影響力を持った力を持っていて彼から円形状に光が広がっていくのがロウアには見えた。それは他の人には見えていないようだった。
「…おぉ、よしよし…、どうしたんだい、シイリ…?」
シアムの父親は、突然、自分の子が泣き出したのでそう言ってあやした。
「お、おい、ロウア君、これが彼女のお願いだっていうのかい?」
「し、しかし、なんか不思議な感覚に包まれるですよよね、この声を聞いていると…」
アルとイツキナの父親は不思議そうにロウアに聞いたが、広がっていく光をロウアは見つめて目をキョロキョロさせ、口をポカンとしているだけだった。
「彼女の声が…光のように広がっているんです…。
あぁ、そうか…これはコトダマだっていうのかい…シイリ…?」
「コトダマだって?さっき、ロウア君がやったあれか?」
ロウアが光を見つめてそう言うと、アマミルの父親はコトダマを思い出しながらそう言った。一同の理解は追いつかずにいたがシイリの泣き声は続き、彼の声の光も徐々に大きくなり始めた。
「…き、君は何をしているんだい…?」
ロウアが独り言のようにそう言うと、何処ともなく村の人々が集まり始めたので一同は狼狽した。
「う、うわっ!どうして人が集まってくるのっ?!」
「ロウア君、驚いている場合かね…。この人達はこの子を目指して集まっているように見えるが…」
イツキナの父親は、村人達が自分達を目指してくるので段々と恐ろしくなっていった。
「う~ん…、よしっ!私も協力しましょうっ!」
「ん?キホさん、何だって?」
エメは背中で泣き続ける子供に四つのうちの一つ手を彼の口に近づけて、更にもう一つの手を空中のモニターにつなげた。ロウアは驚くも間もなくその意味がすぐに分かった。シイリの声が村中に響き渡ったからだった。
「か、拡声器ってわけか…。更に酷く響いているな…。
しかし、確かに不思議と心が落ち着く…。これはどういった力なんだ…?」
キルクモは、耳を押さえながらも心が落ち着いていくのを感じてそう言った。
こうして、このエメの拡声器の力で村中に響き渡ったシイリの声は、ほぼ村中の人々を集め、噴水の周りは老若男女、千名近くが集まってしまった。
「安らぎの声だぁ~…」
「誰かが呼んでいるぅぅ…」
「誰なんだべ…」
「…うぅぅ…ラ・ムー様ぁぁぁ…」
「この声、気持ちいい……」
「赤ん坊が泣いているのかい…」
「お~、よしよし…、可愛い赤子だべ…」
「わ~~っ!ゾンビ映画だ~~っ!ゾンビ映画ですよ、イケガミさんっ!
わははは~~っ!襲ってこないから怖くないけど~~っ!」
エメはこの状況を見て楽しくなってきたのか男女の声が入り交じりながら大笑いをしていた。だが、他の男性陣は村人達にもみくちゃにされていて、身動きが出来なくなり始めていた。
(ちょ、ちょっと、シイリ…、そ、それでどうするんだい?い、いたた…、足踏まないで…)
(さっ!イケガミお兄ちゃん、出番ですっ!)
(で、出番だってっ?!)
(そうですっ!コトダマでみんなの洗脳を解くんですっ!)
(えぇ~…、丸投げぇぇ~~…?!)
ロウアは、"後はよろしく!"と丸投げされたため、肩をガクッと落とした。




