新たな希望
父親に抱かれたままシイリは、エメの背中に乗って街の中心にある噴水に向い、その後をロウアと他の中年男性達を追った。
「…は、はぁ?さきほどの女性はシイリの生前の姿でしたと?
シアムさんと似たロネントに宿ってカフテネ・ミル・フラスラのコンサートに参加したと…?」
イツキナの父親は、シイリの父親の説明を聞いて信じられないと言った顔をした。
「で、では、あの日、お別れと言っていたあの子が今、その背中に居る赤ん坊に生まれ変わったのだと…言うのですかっ?!」
アルの父親は、カフテネ・ミル・フラスラの打ち上げパーティでの最後を思い浮かべ、その時のロネントと赤ん坊を重ねた。
「い、いや、しかし…、神官をやっている私達でさえ、聞いたことが無い話ですぞ…。
ロネントに人が宿る…?あり得るのかい…?」
「えぇ、あり得ますよ…、僕は何度も見てきましたから…」
ロウアはアルの父親にそう答えた。彼は自分や部員達の見てきた彷徨う魂の宿ったロネント達、メメルト、シイリ、エメを思い浮かべた。
「確かに学校での彼女は生きている人間そのものでした。
流暢な会話をするし、恥じらいはするし、他の生徒達と仲良くしていました。
私はてっきりロウア君が人工知能を鍛えたのだと思っていましたが…」
キルクモはシイリが教室で元気に動き回っているのを思い出しながらそう言った。
「まぁ、私自身もそうですしねっ!」
エメは四本の腕を使って自己アピールしながらそう言った。
「は、はぁっ?!なんじゃとっ?!」
「き、君にも人間の魂が宿っていると言うのかい?」
「おいおい…、まさか君もそうだと…?」
「…えっ、えぇぇ?エメさんも私の息子と同じなのかい…?」
「他にも沢山居るかも知れませんよ、例えば未来からの人間とか…」
エメは我慢しきれないもどかしさから、未来からやって来た人間達がロネントに宿っていることだけを暗にほのめかした。他の男性達は聞き流したが、ロウアはそれを聞いて身体が震えた。
(…えっ、ちょ、ちょっと待って…、や、やっぱりあの人達も…この時代に…?)
理解力の高いロウアは、その意味について全て分かってしまった。
(…あぁ、しまった…)
エメはロウアの事を思っていなかったので、自分の言葉に後悔した。
(だ、だけど、そうですね…。イケガミさん、この機会にあなたには知ってもらった方が良いと思います…。
あの聖域で知ったことを…、私が知っていることを…、あなたにも伝えなければ…。)
エメはそう言いながらロウアに聖域で知った事実を伝えた。
ロネントには元々魂が宿りやすいような演算装置が組み込まれていることを…
その演算装置は先代の女王が作ったものだったということを…
その目的はロネントに魂を宿してこのように長く生きられるようにした計画だったということを…
自分が起こした事件は自分達が苦しんだ末に起こした革命だったことを…
自分は聖域で女王を殺害しようとしたけど結局出来ず、心を入れ替えたことを…
二十一世紀に発生したブラックホールに飲み込まれた人々はロネントに宿ってしまっているということを…
ロウアはそれを聞きながら驚愕し、自分の愚かさに怒りを覚えた。
(未来からやって来たのが僕と來帆さん、永原だけなはずがないじゃないか…。
メメルトさん、シイリ、そして、キホさん…、さまよう魂の行き先はロネントだったじゃないか…。
…考えれば、想定できたはずだ…。
それなのに僕は考えが及ばなかった…)
二十一世紀に発生した小型ブラックホールに飲み込まれいく人々のことを池上良信の魂は思い返し、やがて立ち止まるとその場に崩れてしまった。
妄想は光の速さで。
プルガトーリョ
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「ど、どうしたんだい?ロウア君」
シイリの父親はロウアを心配して声をかけた。
「なんだ?身体がすぐれないのか?それなら戻った方が良いぞ」
アマミルの父親も心配して声をかけたが、一点を見つめたままのロウアの耳には届いていなかった。
(ぼ、僕は何て愚かなんだ…)
(…自分を責めないで下さい…、みんなあいつのせいですから…)
(だ、だけど…僕ならコトダマで救うことだって出来たんじゃないか…?
僕だったらコトダマでっ!
僕にしか出来ないことなんだっ!!)
ロウアの怒りに満ちた心の声はエメの心にも響いた。
(…違いますよ、イケガミさん…)
(…何が違うんだ…)
(今ならイツキナや神官だってコトダマを使えます…)
(…イツキナ先輩…)
(そうですよ…、アマミルだって彼女を引っ張っているんです。
学校ではご迷惑少女組って呼ばれていたんでしょうけど、今では立派な神官ですよ)
(…あの二人が神官?)
(そうです。彼女達と一緒に私達の知っている人達を解放していきましょうっ!
それにまだあいつの洗脳が解かれていない人もいるじゃありませんかっ!)
(…キホさん…、そうだね…)
(そうです、そうです。ここが終わったら皆さんと早く合流しましょうっ!部活動やっていたんですよね?
…え~っと…、お助け部でしたっけ?)
(霊界お助けロネント部だよ…、みんな名前を覚えてくれないんだ…)
(…そんな名前でしたっけ…、すいません…)
(…みんなに会いたい…。そうだ、僕はみんなに会いたいっ!
そして、霊界お助けロネント部でムー大陸の人達を助けるんだっ!
巨人の島に残してきた子ども達も助けるんだっ!)
ロウアは、未来が見えてきた。新たな目標を見つけ、力がわいてくるのが分かった。自分がここに居る意味を知った気がした。自分一人では見えない未来、だけど、部活動のみんなと一緒なら何か出来ると思える未来、それは希望だった。
「まずはこの村の人達を救おうっ!」
そして、立ち上がると腕をぐっと前に出して目を輝かした。
「そうですっ!そのいきですっ!」
エメもロウアを応援するように手を挙げて喜んだ。
中年男性陣達は、立ち止まって落ち込んでいるように思えたロウアが急に立ち上がってやる気を見せたので何事かと思った。
「おぉっ?!どうした急にっ?!だが、良いぞ我が息子よっ!」
アマミルの父親の言葉にロウアはちょっとずっこけた。
「…い、いや、息子では…」
一同は笑いに包まれていった。




