よこしまなる者の残り香
ムーの地下では破壊されて動かなくなったケセロをロウアとエメが見つめていた。
「ケセロが最後の洗脳で、無関心とかって言ってましたが…、何か仕掛けたのでしょうか」
エメはキホの魂で不安そうにロウアに聞いた。
「うん…、ムーの人達を恐らく何ものにも興味を示さない精神状態にしてしまったらしい…」
ロウアは、霊力で感じたムー国の国民達の意識を代弁するようにそう言った。
「そんな…」
「ただ、巨人族退治のゲームには没頭している…」
ロウアの霊感が感じたように国民達はこぞって巨人族退治のゲーム、「ケ・ヰ・ンヌ・ト」を始めた。今までプレイしていた者達はログインしだし、興味を示さなかった人々さえ、アカウントを作ってはゲームを始めていた。
「どうしてみんなそんなことを…」
「ムーやアトランティスの人々は小人族で大陸の陥没と共に絶滅する運命…、その後に巨人族が未来の社会を作るはず…。
…つまり、ケセロは、これから繁栄する人類、つまり巨人族達を絶滅させるつもりなんだ…。」
「そ、そんな…。み、未来が変わってしまうということですか…。
私達…、私達はどうなるんですか?」
「分からない…。
この世界とは異なった未来となるか、それとも僕たちも消えてしまうか…」
「な、なんという…」
巨人族の姿をしたエメだったが、肩を落とした姿から絶望に打ちひしがれているのだけがロウアには分かった。
「…キホさん、神殿に居るみんなに連絡を取りたいんだけど」
「そ、それが…」
「どうしたんだい?」
エメはこの地下に配置されていたカメラを指差した。それを見たロウアは今まで自分達を撮っていたカメラが無反応になっていることに気づいた。
「えっ?!カメラが止まっている?」
「は、はい、ケセロの停止と共に止まってしまったみたいです…。そ、それと…」
「そうか、ツナクトノを使えば良いんだね!」
「ち、違うんです…」
「あ、あれっ?!反応しない…?!」
ロウアは汎用デバイスのツナクトノを使うために左腕を上げたが、空中に表示されたモニターには"通信不可"と表示されていた。それはまさに彼が巨人族の島に居たときと同じ状態だった。
「まさか…、ツナクが…」
「はい、恐らく…」
「ツナクが切れてしまったと…。つまり、この世界の通信網が切れてしまったと…」
それは、現在で言うところのインターネット通信が完全に遮断されたことを意味した。
「…ケセロは最後に何てことをしたんだ…」
ロウアはそう言うとケセロを見つめた。するろ目の前で朽ちたロボットは、その瞬間笑みを浮かべたような気がした。
「ひ、ひとまず、ここに捕まっている人達を連れて外に出よう…」
「はい、そうですね…」
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「あぁ、何てことでしょう…」
「やだやだやだ~っ!
どうしたのホスヰちゃ…、じゃなくて、今はラ・エネケル?」
「にゃ…?カミは勝ったのに?でも、どうしたのかな、急にカミの映像が切れちゃった、にゃ」
アルとシアムは、ホスヰが辛い顔になっているのを見て不審がった。他の部員達も同様だったが、イツキナや霊感を持った神官達は旧に不安そうな顔になっていて、ケセロに勝利して歓喜している人達と対照的だった。
「…なんか、ちょ~不安なんだよね…」
「なあに?
イツキナ、あなたまで…?不安ってどうして…?
カミ君の映像が切れたのと関係あるの?」
「いや、そっちじゃなくてさ…」
「じゃあ、なんなのよ」
「分からん…」
「それだと分からないわよ…」
「分からんけど、大陸中から命が消えかけているというか…、いや、世界中?」
「えっ?!」
イツキナの不安感を説明するかのようにホスヰが女王の意識で語り始めた。
「みなさん、どういう理由かは分かりませんが、国民達の霊力が大幅に減っています…」
女王の言葉に部員達は戸惑うしかなかった。
「ラ・エネケル、それはどういう意味でしょうか…」
「国民達は生活に関わる一切の止めてしまって、ゲームをやり始めています…」
アマミルの質問に女王であるエネケルはそう答えた。
「は、はぁ?」
アマミルを含め、他の部員達も驚きの声を上げた。
「だって、みんな家族を殺されてしまったり、傷ついたりしたのでしょう…?」
「う~ん、そのはずだけど、全部無視してゲームをって、これって巨人族の奴だよね…」
「そうなの?」
エネケルは何かを決意したようにサクルに命令した。
「早急に国民達に話す時間を作って下さいっ!」
「は、はいっ!」
サクルは急いで女王の演説の通信の準備を始めるため部下達に命令を下したが、彼らから絶望的な言葉が返ってきた。
「ラ・エネケル…、ツ、ツナクが…、ツナクが使えない状態です…」
「えっ?!な、何故ですか…?」
「今、調査させています…」
この状況にエネケルはもちろん、部員達、神官達も絶望せざるを得なかった。




