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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
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最後の欲望

ムーの地下では、敗者となったケセロの左半身からは火花が散っていた。


「ギギ…、abort…、システムエラー…、この場から離れる必要あり…」


「逃がさないぞっ!お前はこの場で消えるのだっ!」


「ケ…ケケケッ…。こ、この身体を失ったところで…どうということはない…。べ、別の身体に移るだけだけだ…」


「お前の演算装置は破壊しないでおくだけだっ!」


ロウアの言ったことは、演算装置に取り込まれたサタンの魂をそのままにしておくということだった。つまり、サタンの魂は捕らわれたままで何も出来なくなることを意味していた。

それを聞いたケセロは明らかに悔しい顔になった。


「だ、だがな…遅い…、遅いのだっ!全てがなぁぁぁぁ…」


「な、なにっ?!」


「お前たちは、すでにワレワレの配下なのだ…」


ケセロが、まだなお戦おうとしているのでロウアはエメとうなずき合うと互いにケセロに飛びかかろうとした。


「配下、配下、配下ぁぁぁっ!

そうか、私もコトダマとやらを使ってやろう。私はお前のように手を動かさずとも出来るぞ…。」


だが、ケセロの言葉で二人は踏みとどまった。そして、ケセロはバランスを取っていたジャイロ装置止めると倒れ、その勢いでヘアピンを破壊した。


「しまったっ!イケガミさんっ!ヘアピンが折れてしまったわっ!」


「あっ!!」


ロウア達が慌てているうちにケセロは何かを口走った。


「わ、私のコトダマ…だ、そして、私の本当の名前…」


「な、なんだって?コトダマ…?」


"ルシフ・エル!!!"


ロウアのコトダマとは異なり、何か指や腕を使って何かの文字を切った訳ではなかったし、ケセロの身体は何も光らなかった。だが、サタンの放った言葉は、何かを大陸中に引き起こしたのだけはロウアには分かった。


「ケセロッ!ムーの人々に何をしたんだっ!!」


「えっ?!イケガミさん、どうされたんですか?ムーの?どういう事ですか…?特に何も起こったとは思えません。ただのはったりでは…?」


-----


それを意味するのかツナクトノでは、人々の言葉が流れ始めた。


"あれ、何をしていたんだっけ?"

"もういいや、かえろう"

"つまらん"

"ゲームをやらないと"

"これって映画だったんだよね"

"は~、つまらなかった~"

"あ、お父さんが死んでるわ"

"あ~~、死体が…汚いな~"

"部屋が血だらけ、まあ、そのままでいいか"

"眠くなってきた~"


-----


「ケケケッ…、笑えるぅぅぅっ!

身体をもつお前らを洗脳するなど容易い。その小さな脳みそを通せば魂を制御出来てしまうのだからなぁぁぁっ!

神が作りしお前らの身体は脆弱な作りなのだよぉぉぉっ!

笑、笑、笑っ!笑えぇぇぇ…」


倒れながらもケセロは高らかに笑い続けた。


ロウアは大陸中の人々から生気が消えていくのを感じていた。それがこのケセロのせいであることだけは分かった。だが何をしたのか理解が出来なかった。


「ムーの人々から気力が消えてしまった…。ケセロが何かしたんだ…」


「気力が無くなった…?それってどういう…」


「…そうだな、お前らの言葉で説明してやるとしたら、"ハッキング"だ…。

ハッキングをお前らの脳に施したのだぁぁぁ」


「ハ、ハッキング?」


「そうだ、ワ、ワレワレの機械が…、に、人間どもの…耳もとで脳にハッキングした…」


それを聞いてエメは愕然とした。


「あの霧で広げたロネントを使ったのね…」


「…そ、それって?」


ロウアは、エメの言ったことが理解出来なかった。


「…あなたがアトランティス大陸に行っている時です。その時に、こいつは大陸中にロネントを使って霧を広げたのです…。その時、顔ダニのような小さなロネントを人々の耳元に這わせたんです…」


「そ、それが、脳をハッキングしたっていうのか…、つまり洗脳…」


「はい…、恐らく…」


「そ、そんな…」


ロウア達の絶望感とは逆にケセロは破損した顔をにやけさせた。


「も、最も面白いお前たちの欲望…。

そ、それは…"無関心"…だ。

何者とも関わらず、誰にも触れず、誰とも話さない欲望…。

ソウダ、自分と関わらなければ何も起こらないからなぁぁぁぁぁ。

オマエ達は…、他人を必要としてもいるが…、他人と関わらないようにもしている…矛盾した…存在…」


ロウアは、ムーの国民達が巨人族のゲームを始めようとしていることに驚愕を覚えた。


「あ、あぁ…、な、何をしようとしている…?」


----


"片付けめんどくせ、ケ・ヰ・ンヌ・トやろうっと"

"だな~、巨人族を殺さなければっ!"

"そうだ、そうだ"

"はぁ~、生きてるのはつまらないが、巨人族を殺すことは気分が良いからね~。"

"ゲームやろう"

"そうだ、そうだ"

"生きてるんだから楽しいことやらなくちゃ!"

"そうだよ~、人生は楽しまないとな~"


-----


「ま、待ってくれ、みんな…。み、みんなの家族が殺されたんだぞ…」


「ゲ、ゲラ…、ゲラ…。

脆弱ぅぅ、脆弱なのだよ…、神の…愚かな発…明よ…。

お前らの脳みそを…通せば…身体と密接に結びついた魂を…容易く操ることが出来るのだよ……。

脆弱…、脆弱…、脆弱…、脆弱…よ、弱き身体よ…、果てなき…欲望よ…。

ゲラゲラ…ヒヒッヒ…ヒャヒャ…ヒャ…」


ケセロはそう言うとエネルギーを使い果たしてシステムが停止した。


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