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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
カフテネ・ミル
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偽物のロネント達

 シアムの家に入り込んで見つけたのは数日経過して腐っている朝食と、5,6歳の幼いシアムだった。幼いシアムは目的を果たすと自然に壊れてしまった。

 ロウアは奥を目指そうとした途端、何かが彼の足を掴んだ。


(な、なんだこれっ!)


 それは上半身だけの人間だったため、ロウア達は震え上がった。よく見ると、その顔もシアムだった。


「……」


 それは何かを言いたげに口を動かしていたが、声になっていなかった。


(こ、こいつもシアムだぞ……)


「くっ……、まだいるのか。……なんかごめん……」


 ロウアはその足を掴んでいるロネントに謝ると、その腕に向かって、ドアノブを壊した時と同じようにコトダマを切って破壊した。


<<ワ・カサ・ヤ!>>


 コトダマで腕を破壊したのも束の間、今度は後ろからロウアを掴む者がいて、ロウアは羽交い締めになった。


「しまったっ!」


(あぁ、あぁ……、何だ、何だ、何なんだよこれはぁぁっ?!)


 それらは全てシアムの顔をした人間で、片腕無かったり、両足が無かったり、顔の一部が欠けていたり、目が無かったり、口から下が無かったりと、腐った身体のゾンビのような者達だった。ロウアは、それらに身体中を掴まれてしまっていて身動きが出来なくなってしまった。


(お、おい……。どうするんだ、イケカミッ!)


 各々、不気味に声を発しながら掴んでいる。


「ロウア君……」

「ロ……ウア……君……。

「ロ……」

「く……ん……」

「ろろろ、ろあ、ろあ」

「ワタシ……好き……デショ」


 ロウアは身体を押さえられてコトダマを切ることも出来なかった。


「う、動けない……」


 更にもう一体が、ロウアに近づいて来た。それは、この前まで一緒に居たシアムだったが、この世と思えないような恐ろしい形相でロウアに迫ってきた。


「ロウアァァァッ!!!貴様、何故生きているぅぅぅっ!!!」


 その声はシアムの声ではなく、どこか機械的な男性の声だった。


「くっ!……お前、いつから入れ替わったんだっ!」


「しつ……もん……に答え……ろぉぉぉ」


「僕を海で溺れさせたのはお前だなっ!何故だっ!!!」


「……ギ、ギギギ……、秘密、秘密をお前は掴んだ……」


「……秘密だって?」


「とぼける……なぁぁ」


 ロウアは、このロネントの顔を見て思いだした。


(ロウア君、君は波にさらわれたんじゃない。こいつらが君を海に引っ張ったんだ。君は覚えていないかもしれないが、このロネントを見て思い出した……)


(……何だって?)


 ロウアが未来からタイムスリップしてきて、初めて見た顔はアルとシアムでは無かった。海で泳いでいたロウアの足を引っ張り、底に沈ませようとしたこのシアム型ロネントの顔だった。


「オマエ……、もう一度、コロス、コロス、コロスッ!!!」


 ロウアはなおも不気味なシアムロネント達に捕まれてしまって身動きが出来ない。


「コントロールしている奴を止めるっ!」


 そういうと、ロウアはロネント達を動かしている電波の元を探すため、かすかに動く指でコトダマを切った。


<<因果を探るコトダマ ワ・ン・キ・ノヌヱ>>


 そのコトダマを発した直後、ナイフを持ったシアム型ロネントがロウアに迫って来た。


「死ねぇぇぇぇ~~~~っ!!!!」


「み、見つけた。二階だ……!」


 ナイフがロウアの無念に刺さる直前だった。


<<破壊のコトダマ カサ・カサ・ヤ!>>


 コトダマを切った直後、二階の方で大きな爆発音が鳴り、全てのロネント達がガタガタと倒れ始めその動きを止めた。


「ひ……み……つ……。お……ま……え……、掴んだ……」


 倒れたロネントは、ロウアを睨め付け、そうつぶやくと機能を停止した。


(あ、あぶねぇ……)


「はぁ、はぁ……」


(急にシアム人形共が一気に倒れていったぜ?お前、何したんだよ?)


「ロネント達を動かしている親玉のロネントを破壊したんだ」


(よく見つけたな……、さすがイケカミ様だぜ)


「それよりも、シアムだっ!」


(そ、そうだな……)


「ど、どこだ……?」


 ロウアはかすかなオーラを頼りに感覚を研ぎ澄ました。


「そ、そこだっ!」


 やがて、シアムのオーラを感じた場所を感じて、階段下の扉を開いて中に入っていった。するとそこには、動けないようにロープで縛られた制服姿のままのシアムと彼女の両親がいた。


「シアムッ!!!」


 ロウアがそう叫ぶと、シアムはうつろな目で幼なじみの男の子を見つめた。


「ロ、ロウア……く……ん。来てくれた……のね……」


「君の声が聞こえたんだ。もう大丈夫だよ」


「あり……がと……」


「シアムッ!」


 シアムは、そういうと安心したように倒れてしまった。


「……い、急がないとっ!!」


 ロウアは急いで地下から抜けると、丁度、アルが家の裏から入ってきたところだった。玄関でシアムと話が出来なくなったから不安になって裏側に回ってきたのだった。


「きゃ~~~っ!!やだやだやだ~~~っ、なんじゃこりゃ~~~っ!シアムがいっぱいだよ~……」


「アルッ!!丁度良いところにっ!こっちだっ!!」


 地下への入り口から顔を出したロウアがアルを呼び出した。


「ロ、ロウア?イケカミッ!どっちだっけ、というかさっきから呼び捨てにするな~っ!」


「う、うん、そ、そこは分かったから……。こ、この下にシアム達がいる。け、警察を呼んでくれ……」


「えっ?えっ?え~~っ?」


 アルも階段を下ってシアムを見つけると、顔を青ざめさせた。


「シ、シアム~ッ!やだやだやだ~~~っ!!!ちょ、ちょっとっ、だ、大丈夫っ?!おじさんとおばさんも大丈夫ですかっ!!んが~~~っ!!!」


 アルはどうしようもなくなって叫ぶだけだったが、何とか上に戻った。


「……ア、アル、保安部(警察)と救急車を…、呼んで…くれ……。あ、あれ……、お、おかしいな……」


 ロウアは、そう言うと疲れ果て、その場に倒れてしまった。


「あ、あれ、ロウアッ!じゃない、イケカミ~ッ!

どっちだ~~っ!!!

みんな倒れちゃった~~~っ!!!

やだやだやだ~~~っ!!!」


 ロウアは意識がもうろうとした意識の中で、アルの慌てる姿だけが見えていて、やがて意識を失った。


-----


 ロウアが次に目を覚ましたのは、また病院のベッドの上だった。


「あ、起きたっ!」


 目の前にはアルが涙目で自分を見つめているのがロウアには分かった。


「ア、アル……」


「君が言った通りだったよ……。

というか、もうさ~、みんな倒れちゃうから……。こんなのもうごめんだよぉ……。

ふぅ~……、イケカミ、身体は……大丈夫なの?

……あっ!」


 アルはそう言うと握っていたロウアの手から自分の手をどけた。アルは顔を赤くしていた。彼女からしたら随分不安だったのだろうとロウアは思った。


「うん……大丈夫だよ」


 ロウアはそう言うとニコリとしたので、アルはそれを見て強ばっていた顔を緩めた。


「それよりシアムは……?そ、その彼女は……シアムは大丈夫だったの?怪我はっ?!」


「そこに居るぅ~……」


 そういうと、ロウアのベッドの横で眠っているシアムとその父親と母親を指さした。


「元気……とは言えないけど……。

栄養失調寸前だったみたい……。もう一日遅れたら……だって、先生が……。シアムゥ、危なかったよぉ……、グスッ……」


「そ、そうか……。良かった……」


 そういうと、ロウアはため息をついて安心した。


「もう、やだやだやだ……。イケカミったらさ、いきなりいなくなっちゃうんだもん……」


「ごめん……。でも、ありがとう。助けることが出来た」


「うん、あ、ありがとう……ね……。イケカミ……さん」


「み、みんながいるところでは、ロウアね……」


「バカッ!!」


「な、なぜ、怒られた……」


「さささ…さっき、私の手を握ったからに決まってるもんっ!」


「り、理不尽……」


 明らかにアルがロウアの手を握っていたのだが、彼女は恥ずかしさを隠すためにそう言った。そんなアルにロウアは呆れたが、奥に眠っているシアムの父親を見て目を丸くした。


「あ、あれ、シアムのお父さんって……。御岳教授……?あはは……」


 シアムの父親が21世紀では池上の通っていた大学の教授だったからだった。


「へっ?!誰だよ、その人…、シアムのお父さんの名前じゃ無いぞ」


「そ、そうだ…ね……、あ、あれ……ごめん、急に眠気が……」


ロウアは、また堪えきれない眠気に襲われてパタリとベッドに倒れた。


「やだやだやだ~~~っ、またイケカミが倒れた~~~っ!」


「ロ、ロウア……ね……」


 ロウアは、アルの叫び声をかすかに聞きながら、ぼそりとそう言って眠りに落ちた。


ワ 我は

ン 我を広げて

キ かの者を

ノ 成立させているものの

ヌ 流れたる実体の

ヱ 元へ至らん

----------

2022/10/18 文体の訂正、文章の校正



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