探索
この時代のオンラインゲーム「ケ・ヰ・ンヌ・ト」のキャラクターに弱みを握られて否応なく従うことにしたホヒは、ゲームフィールド上を歩き続けさせられていた。
「…ねぇ、こんなの面白くないよ…。」
さすがに歩き続けさせられてホヒは飽きてきてしまった。
"うっせーなっ!お前のためにやっているんじゃないって。色々動いてくれればいい。エロ動画流すぞっ!"
「もう、そればっかり…。分かったよぉ…。」
"ったく、自分で動ければなあ。"
「…き、君は、守護者そのものなんだよね?」
"そう言ってるだろ。"
ホヒは、自分が動かしている守護者、つまり、巨人族を討伐するために作成された傀儡人形が、勝手に話している事を未だに理解出来なかった。
「…もしかして…、ツナク(インターネット)から抜けられなくなっちゃったってこと?」
"どこぞの有名小説みたいなこと言うなよ。だいたい足下にもおよばない底辺小説だって~の。"
(作者は涙が流れそうになったのを堪えた。)
「はぁ、違うのか…。き、君の状況がいまいち理解出来なくて…。」
"ん?そっか。抜けられなくなったってのは同じかもしれないな、あははっ!"
「そ、そうかっ!それなら身体がこの大陸の何処かにあって…」
"いや、身体はこれだぜ?ひでえ姿だ、本当に。頭にくるぜ。"
立体映像の守護者の頭のところには、怒りの感情を示すアイコンが表示されていた。
「え、えぇ?駄目だ、全然理解出来ない…。」
"しっかし、あいつは、こんなゲームを作ってどうしたいんだよ…。まあ、そのために彼を探せるんだけど。"
「よく出てくるけど、あいつって?」
"このゲームを作ったやつのことだ。目的がよくわからん。暇つぶしか?"
「えっ!そんな人と知り合いなの?」
"まあな。"
「す、すごいっ!ぼ、僕をしょ、紹介してよっ!」
"止めた方がいいぜ?人間を相手にするか分からないし。"
「に、人間を相手にっ?!それってどういう…」
"しっかし、お前なあ、敬語ってのを知らないのか?引きこもってたから知らないかもだが、年上に失礼だぜ?"
「年上って…。き、君は歳があるの?」
"そりゃ、そうだろ。"
「え、えぇ?あ、あなた様は、何歳…、お幾つなんでいらっしゃる?」
"はぁ~、ひでえ言葉…。まあ、普通に話せや…。歳は、百歳以上ってところだな。"
「えっ?!ひゃ、百歳っ?!」
"こっちに来てからあの世に帰らず仕舞いだからなあ…。"
「あの世に帰らずって…。君は、何だか不思議な事ばかりを言うなあ…。」
"不思議っつ~か、なんつ~か…。お、おい、そっちのエリアに行こう"
「え、あぁ…。」
ホヒが守護者に言われるまま右に大きく曲がると荒れ果てた村があった。彼らが村に入ると、画面上には村の名前が表示された。
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│南南西の村 フルテラ │
└───────────────────┘
"あぁ、ここの村も襲われてる…。ひでえな…。う、うげ…。死体だらけだ…、ひでえぜ…。虐殺も良いところだ…。何も悪いことをしていないってのに…。"
「し、死体?えっ、ど、何処にあるの?」
"画面では補正されてちまっているのか。ったく、何も知らないってのは幸せだぜ…。"
「補正?
あっ!あそこに巨人族がいるぞっ!経験値を稼ぐチャンスっ!」
"ん?"
ホヒがそう言って向けた方向を見ると、守護者には巨人族の男の子が呆然として立ち尽くしているのが見えた。この男の子は、自分の村が襲われた時に何処かに隠れていて、騒音が無くなったから、丁度、隠れた場所から出て来たところだった。
「よしっ!動いてないぞっ!」
巨人族の男の子は、自分の村の惨状を知って涙を流していたが、その子に向かってホヒは守護者を移動させ、鋭い爪を振り下ろした。
"ば、馬鹿野郎、止めろっ!!まだ、子どもだぞっ!"
だが、守護者の怒号にホヒはその手を止めた。
「え、えぇ?
子、子どもだって?大人にしか見えないよ。少し小さいサイズだけど。あ~、逃げちゃった…。」
守護者の目からは子どもが悲鳴を上げながら村から逃げていったように見えた。
"ちっ!あいつ、これからどうやって生きていくんだよ…。くそっ!"
守護者の頭には怒りのアイコンが出続けていた。
"いいか、これからは何も殺すなっ!これは絶対だっ!!"
いつもより強い口調の守護者に、ホヒはビクッとした。その声には涙声が含まれているようにも思えた。
「だ、だけど、それだと経験値が入らないから遠くに行けないって…。」
"お前なら避け続けらるだろっ!!絶対に殺すなっ!もし、お前が何かを殺したら、その度にエロ動画をお前の名前付きで公開するからなっ!"
「なななっ!!わ、分かったって…。何でだよ…。
えぇ…、レベル1 で移動し続けるのか…。」
"はんっ?!"
「わ、分かってます…。分かっていますってば…。」
ホヒは、守護者の怒りのアイコンが恐ろしいマークに見えてきた。




