暗黒のオンラインゲーム
ロウアは、巨人族の島で起こったことを部員達や、神官達に説明し始めた。
「僕は、しばらくの間、アトランティスの子ども達と生活していました。子ども達は身体が不自由だったため、苦労していましたが、巨人族の力もあって何とか生活は出来ました。」
"なあに?カミ君、あなた、きょ、巨人族と仲良くなったの?!"
「アマミル先輩、えぇ、そうなんです。」
"なんと~、乱暴で野蛮って聞いたけど、大丈夫だったのかい?"
「イツキナ先輩、文明が発達していないだけで、とても親切な人達ですよ。私が勉強を教えるとすぐに覚えてくれましたし。」
"やだやだ~、君は先生をやってたのかっ!"
「そうなんだよ、アル。アトランティスや、ムーの言葉や、算数を教えて上げたりね。
僕が初めてここに来たとき、アルやシアムが教えてくれたみたいにね。」
"あ~っ!今、私達褒められた気がするぞ。シアム君。"
"にゃんっ!"
「だけど、しばらくすると、巨人族の村に四本腕の怪物が襲ってきました。」
"…あの嫌なゲームね…。"
"一部の輩だけだったのが、大陸中で流行りだしたんでしょ?"
アマミルとイツキナは、すぐに巨人族の殺戮ゲームのことを思い浮かべた。
ムーでは一部の人々が熱狂する「巨人族を殺して遊ぶゲーム」が存在した。
ツナクで繋がった巨大なロネントを操って巨人族の島に向かわせて、巨人族を殺害するというゲームだった。
そのロネントは、二本腕や、四本腕、それに二本足や四本足、顔があるもの無いもの、身体の色も様々と、キャラメイキングで色々とカスタマイズできた。裏で出回っているコマーシャルでは、顔無しの四本腕の姿が代表的なロネントの姿であって、まさに今のエメがその姿だった。
無論、ムーの思想では殺生は禁じられていたが、非文明の巨人達なら殺しても構わないという勝手な解釈をし、ゲーム形式で殺害を繰り返していた。また、ゲーム画面では死骸はかき消され、殺害した実感がわかないようになっていたため、プレイヤー達の罪悪感がわかないように仕組まれていた。
このゲームはムー国の汚点として存在していたが、神官達によって取り締まっても、また何処かで始まってしまってしまうなど、現在の麻薬のように、いたちごっこが繰り返されていた。
その非人道的なオンラインゲームが、神官の混乱に乗じて大陸中に広まってしまっていた。
"やだやだやだ~っ!それで、エメ君がそのキャラになってしまったと~…。うげ~~、最悪ぅ~。"
「うっせ~なアホ女。」
"むか~っ!また言うか~っ!君がエメだってこと忘れてたぞ~っ!アマミル先輩、あいつ本当にエメですっ!!!"
"そうね、それは確定ね…。"
アマミルは苦笑しながら、アルの訴えに答えた。
「まぁまぁ…。そこも説明するから…。」
ロウアは、巨人族の島で起こったことを更に説明し始めた。
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数日前、巨人族の島に漂流したロウアとアトランティスの子ども達、そして、巨人族村民達の青空教室が終わった頃だった。
巨人族達がロウアの授業のお礼にと持ってきてくれる食材で食事を始めて、子ども達がたわいの無い会話をしていた頃だった。
授業が終わって自分達の村に戻ったばかりのンミルトが慌てて戻ってくるのをロウア達が気づいた。
「あ、あれ?ンミルトがまた戻って来たよ。お~いっ!」
ヒムは、ンミルトに手を振ったが、やがてその手が止まった。彼女が涙を流していたからだった。
「えっ!えっ?!ど、どうしたのっ?!」
額に流した汗と、目からの涙でンミルトの顔はグチャグチャになっていた。
「ハァ~、ハァ~…。うっ、うっ、ウワ~~ンッ!」
ヒムのそばまで来ると、彼女は座り込んで大泣きした。その姿を見た子ども達も彼女の周りに集まって大騒ぎとなった。
「ンミルトッ!」
「お、おいおい…。」
「ど、どうしたんだよ~~っ!」
「ウワ~ンッ!ンミルトが泣いた~っ!」
ヒム達は、ンミルトが事情を聞いても何も答えず泣いているだけだった。
「ヒム、水を持ってきて上げて。カリナは涙を拭いて上げるんだ。」
「う、うん。」
「分かったよ、先生。」
ロウアはそう言って子ども達に指示をしたが、いつも笑っている彼女が悲壮にくれて泣き続けている姿を見てロウアは嫌な予感がした。
(まさか…。本当にそうならアレを使うことになるかもしれない…。)
彼は直感的にムー国で見た巨人族を殺戮するゲーム事を思い出し、まさにそれが起こってしまったのではないかと思ったのだった。
「ヒム、ンミルトを見て上げて。ちょっと準備するから。」
「えっ?!先生何処に行くの?」
ロウアは、急いで家(軍艦)に戻ると奥深くに眠っていた横向きで使う銃を手に取った。
(これを使うことになるとは…。)
他にも何丁か装備して、ンミルトのところに戻った。
「…先生、それって…。」
「…そ、それをどうするの…。」
ヒムやカリナは、武装したロウアを見て驚きの声を上げた。
「えっ!そんなのあったのかよっ!」
「なんで教えてくれなかったんだよっ!」
「猟が楽になったのにっ!」
ハーディ達、男達はロウアが銃を隠していたと憤慨していた。
「これは君たちには余りある。
それより、ンミルト、村に戻ろう。みんなはここで待っているんだ。」
ンミルトがうんと頷いたが、男の子達は不満だけだった。
「先生、俺達も連れて行ってくれよっ!村で何か起こっているんだろ?」
「そうだよっ!猟で慣れてるから何とか戦えるぜっ!」
「バカなことを言うなっ!!ここに居るんだっ!!!」
いつもは静かなロウアが大声で怒ったため、子ども達はギョッとなって静かになった。
「ンミルト、僕を連れてってくれ。」
「う、うん…。先生、お父さんとお母さんと、みんなも助けてぇ…。」
ロウアがそう言うと、ンミルトは自分の背中にロウアを乗っけると自分の村に向かって走り出した。
「…お兄ちゃん…。」
ヒムも何かを悟って寂しそうにそう言った。
「んだよ、あいつっ!」
「急に偉そうにさっ!」
ロウアに叱られた男の子達は不満げにそう言った。
「みんな、家に戻ろう…。ンミルトの村で何か怖いことが起こっているのかも…。今日は遊びと仕事も無しにして、家に入ろう。食事も家に持っていこう。」
ヒムはロウアの思いを感じ、小さな子ども達を家に戻した。
「ハーディ達も、ほら。」
「…う、うん。」
「分かったよ…。」
ヒムに促されると男の子達も家の中に戻ったのだった。




