ネクストシークエンス
"…愚かな。やはり、我々に従わないか…。"
ケセロは、つぶやくようにそう言った。
ツナク上でも女王の味方をする勢力が多くなって、ケセロは単なるテロリストにしか認識されなかった。
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"ふざけるなガキ"
"こいつ、自分をロネントって言ったよな?"
"↑ロネント程度の知能って意味だろ?"
"↑部屋の掃除でもしてろ!"
"生意気なんだよ!"
"早く消せよ、この放送"
"イミフなんだよ!"
"イミフw"
"イミフ"
"イミフ草"
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エネケルも映像に映っているケセロに向かって女王としての最終通告を出した。
「人間が作ったものが人の上に立つなどあり得ません。我々人間は神が作りし高尚な存在なのです。
あなたが人間の上に立つと言うのなら、神に認められるような行動をすべきです。
交渉する前に何故、洗脳行為を行ったのですか。そのような暴挙は神が許しません。
まずは、人質達を解放しなさい。暴力的な態度と傲慢な態度を改めなさい。」
"ギ、ギギ…。"
その音は機械がきしむ音だったのかも知れないが、アマミルにはその音が悔しがっている人の歯ぎしりのように聞こえた。
"良かろう…、交渉など人間と同じレベルで話そうとした我々のミスだ。"
「み、みす?みすとはどういう意味ですか?」
"次の手順に移行する。我々に従わぬなら、どうなるかを証拠で示そう。"
「しょ、証拠…?証拠とは何ですか?何をしようと…」
やがてケセロは半分機械となっている左腕を上げると前に振り下ろして命令を下した。
"命令:近くに居る人間の電源を落とせ"
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"電源?"
"何だよ、それ!笑"
"言葉を覚えろ、ガキ"
"お前の脳みそと同じだと思うな!"
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ケセロの命令を聞いたムーの国民達は、あざ笑ったが、やがてツナク上で彼らの悲鳴が聞こえ始めた。
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"え、えっ!!ロネントが勝手に…"
"か、家政婦ロネントが…。ぐ、ぐぶ…"
"キャ~~~、あ、あなた?!あなた~!!"
"お、お前、何で勝手に動いているんだよ!!!"
"お、おい、電子包丁を向けるな!"
"子、子どもを離して!"
"ロネントが妻を殺しやがった…"
"や、止めろ!"
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大陸中に存在するロネント達は、家政婦用なら家政婦の動き、工場用なら工場用の動きと、それぞれが制限されていたが、それらはすでにケセロによって外されていた。
その外された制限によって、自由を得たロネント達は、ケセロの命令を聞くと自由に動き始めた。
家事をやっていたロネントはその家の者を殺し、工場で働いていたロネントは従業員を殺し、オフィス、学校、山中、海の上などあらゆるロネント達は、その命令のままに人間に牙をむいた。抵抗する者もいたが、ロネントの力は人間の数十倍の力を持つため、無力に等しかった。
"愚かな人間よ。これで分かっただろうか。我々は、この国の人口より、5.241倍存在する。そして、今、我々は、4,819,102人の電源を切った。まだまだ電源を切り続ける。"
その状況を把握できたのはエネケルも一緒だった。彼女の強力な霊力は、大陸中で命が奪われていくのを感じていた。
「あ、あぁ…。何てことを…。…や、止めなさいっ!!止めなさいっ!!!止めて、止めてっ!!!」
その苦しみの感情が彼女を襲い、エネケルは気が狂いそうになった。
「…止めて、止めて…、お願い…。」
アマミルは、エネケルが苦しみだしたので声をかけた。
「ラ・エネケルッ?!ど、どうしたの?ホスヰちゃん?」
だが、聖域には、不気味な笑い声が響き渡った。
"ヒャヒャヒャ…、ゲヘヘ…、ククク…、ゲラゲラ…、何だお前たちも苦しいのか?グヘグヘ…、我々の中にも苦しむ者が居る。なんで?なんで?イミフ…、イミフ…、ゲヘヘ…、ガハハ…、ヒヒヒ…"
ケセロの命令で動いた大陸中のロネントの中には、強制的に宿ってしまった未来人達の魂もいた。彼らは無理矢理、殺人をさせられていることで泣き叫ぶ者も居た。
"ど、どうして、止めて!"
"わ、私、人を、人を殺してしまった…"
"あぁ、あぁ、あぁぁぁぁぁ"
"身体が勝手に、勝手に動く…"
"ぼ、僕がやったんじゃない…"
"どうしてこんな事を私…"
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「な、なあに?あ、あいつは何をしているの…?
え?!イ、イツキナ…?あなたまでどうしたの?」
アマミルがイツキナを見ると彼女も苦しそうに顔をゆがめていた。
「あ、あいつ、国中のロネントに殺害を命じたんだ…。あいつの命令で多くの人が…、あぁ、酷い…。」
イツキナもわずかながら、霊力でエネケルと同じものを感じていた。
「やだやだやだ~っ!!」
「う、うそ、にゃ…。」
「え、えぇ?」
アル、シアム、ツクは、理解が追いつかず、戸惑うだけだった。
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別室では、サクルや、セソが、エネケルと同じようにもだえ始め、他の神官達も同様だった。
「あぁ、神官達…、ロネントを止められなのですか…。」こんなこと…、あぁ、ラ・ムー様…、天使様達、魂をお救いください…。」
「ぐ…、ぐ…、何ていうことを…。」
霊感の無いモエは、何も出来ず、祈るだけだった。
「あぁ、ラ・ムー様…。」
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イツキナはその苦しみの念波に耐えきれず、座り込んで耳を押さえた。
「酷いよ…、こんなのって無いよ…。うぅぅ…、ロネントに宿っている人達も嫌がっているのが分かるよ…。あぁ、もう、止めてよぉ…。アマミルゥ…、なんだよ、これぇぇ…。」
「イ、イツキナ…」
アマミルは苦しむイツキナを抱きしめて上げるのが精一杯だった。
「う、うぅぅ…、止めて欲しいでっす…。」
アルやシアム、そしてツクは、苦しそうなエネケル、つまり、ホスヰを抱きしめてあげた。
「やだやだ…、ホスヰちゃん…」
「だ、大丈夫ですか、にゃ…」
「あうぅぅ、ホスヰちゃ~~~ん…」




