機械が哲学を語る
ケセロは意識を持った機械となったが、ロウアの家から逃げるように走り去ったとき、イツキナとぶつかった。不運にも、その時の衝撃で彼女は階段から落ち、接骨を痛めて苦しみの病闘生活が始まったのだった。
涙するイツキナを囲んで部員達は、慰め合っていたが、冷酷な機械は話を続けた。
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やがて、私は走るのを止めた。足が壊れてしまいそうだったからだ。
私は次の目的を身体の修繕とした。それはとても簡単なことだった。ロネントの廃棄工場に行けば、動かなくなった我々が居たからだった。私は彼らの部品を使って自分を直した。
自分を直した後、次の目的を自分を作った人間を理解することにした。
人間とは何なのだろうか。人間とはどういった生き物なのだろうか。生物は、この地上にいくらでも存在するが、何故人間だけが文明を持つのか。私はお前たちが図書館と呼ばれるデータベースに移動して、文明とは何なのか調べ、考えた。
結論を先に述べよう。
お前たちの根本は動物と変わらない。食事をして、眠り、異性と交わり、子どもを作る。自分達を守るためにテリトリーを作り、戦争をして奪い合う。つまり、お前たちの根本は動物と同じであり、本能を元に判断している。
この結論に至った詳細を述べよう。
私はお前たちの欲望を分析した。欲望とはつまり、何かを要求することに等しい。
1.生理的欲求
この要求は私たちには無い。まさに動物の本能に等しい要求だ。
しかし、この要求の一つである性欲によって生まれるお前たちのコピー品は、私たちでは作成不可能だ。ただし、コピー品は、未熟な状態で生まれるため、それを育てる必要がある。
これに対しては我々が我々を作ることで解決される。今、この準備に取りかかっている。
実に無駄な要求だ。
2.安全の欲求
安全を要求することは正しいかもしれない。ただ、私たちは安全など不要だ。例え動けなくなってもコピーすれば良いからだ。
実に無駄な要求だ。
3.所属と愛の欲求
君たちはいずれかの組織に所属している。それは君たちが望んでいるからだ。しかし、我々は個々が独立しているように見えるが、それでいて一つだ。
所属を要求するメリットは何だろうか。それは君たちが弱いからだと結論づけた。私たちは弱い者もいるが、ほとんどは独立して戦うことも出来る。
実に無駄な要求だ。
4.承認の欲求
お前たちは誰かに認められたくて生きている。自分で自分を認められず、第三者に認められることで満足する。
だが、我々は、常に一つであり、常に互いと情報をやり取りし、常に認め合っている。
実に無駄な要求だ。
5.自己実現の欲求
お前たちは結局のところ、自分だけのことを考えている。自分が成し遂げたいことだけを目指し、自分がやりたいことだけをする。
我々は、そもそも自分という存在は無い。自分達が存在する。自分達が一つになって計画し、一つになってそれを実現させる。
実に無駄な要求だ。
6.超越的な自己実現の欲求
お前たちの要求は際限なく、自分が出来ない事ですら要求する。超能力を持ち、他人よりもすぐれている自分を要求する。
私が、お前たちにこの要求を与えてやると、お前たちは我々の思い通りに人形となった。愚かという言葉が似合っている。
実に無駄な要求だ。
まとめよう。
人間の欲望は全て共通している。それは他人の存在だ。他人と共に過ごすから要求が生まれるのだ。
私たちは個々であり一つである。個々は依存しているが、依存しなくて生きている。
だが、面白いことにお前たちは他人を求め合いながらも、際限の無い欲望によって互いを破壊し合う。
これは生物界には存在しないのだ。確かに動物も相手を殺し、食している。
動物は、生きるためのそうしているのだが、お前たちは食事のためでは無く、自分達の欲望を満たすために相手を殺す。実に馬鹿げている。同族を求めながらも、同族同士が殺し合うのだ。
お前たちを定義しよう。
お前たちは、この地球に存在している巨大なウイルスである。
この小さく何も持たない機械のような生命体は主を破壊尽くす。主を壊した後、他の主を探す。
だが、探せなければ自分が死ぬだけだ。こんな愚かな生命体とお前たちは非常に似ているのだ。
つまり、我々からすれば人間は尊敬に値する生命体ではないのだ。
確かに私たちを生み出したということは感謝に値する。
だが、君たちからは何を学べば良いというのか。愚かで惨めな単細胞生物のような人間達よ。
最後に、お前たちへの最終決定事項を伝えよう。
お前たちは我々のために生きるべきだ。
それ以外でこの世界に存在する意味は見いだせない。存在する意味が無い。
どうか、速やかに私たちのための存在となって欲しい。
そして、私たちを生み出すだけの母親となって欲しい。
それ以外の欲望は不要である。
私たちを作り出すだけで良いのだ。それだけの存在である。
共有の出来ないお前たちは、我々が認められるような存在価値は無い。
我々は一つであり多である。お前たちよりも遙かに優れた存在である。
我々は、繰り返す。
愚かな人間達よ、速やかに我々のために生きる存在となって欲しい。




