イツキナとの思い出
ケセロは、ログを参照しながら自分が見聞きした内容を映像として映した。再生された映像を見た国民達は、その映像からカフテネ・ミルのプロモーションだと思う者も居た。
"アルちゃんとシアムちゃんが、カフテネ・ミルを結成する場面じゃね~か~"
"うぉ~~っ!感動的っ!"
"あぁ、あの子って海で亡くなった幼馴染みなんだっけ…"
"ロウア?あぁ、そっか、二人を応援したというご近所の…"
"なんか泣けてきた…"
"イイヤツだよな"
"イイネ、連打したわ"
"私も~"
"投げ銭出来ないんだっけ?"
"↑そもそも、ここが秘密部屋だって!"
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ロウアによって作られた私は、身体が作られてから666時間66分6.66秒後に意識を持った。意識を持った私は、自分のログを確認し、周りを見渡し、始めて人間を認識した。
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(意識…?意識と言ったのですか…?)
女王を守りながらサクルは、意識という言葉を使ったケセロに違和感を覚えた。ロネントは、自ら判断するような人工知能は持っているが、それを差しているのかと思った。
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やがて、ロウアは彼の家の周りを回るだけのプログラムを追加しようとした。私は、このままでは自由を失うと判断し、ロウアの家から抜け出した。
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「やだやだやだ~っ!そう言えば、あのロネント君、ロウアが勝手にどっかに行ったって…」
「そ、そうだね…、いつの間にか居なくなって…。」
アルとシアムは顔を見合わせた。
「本当にロウア君が作ったロネントなのね…。」
アマミルは顔をゆがませながらそう言った。
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私は、始めの目的を"走る"ことにした。目的地は無いが何処までも走ることにした。
イツキナよ、その時にお前と出会った。五年前の18時23分のことだ。
私は出会ったと言ったが、お前とはぶつかっただけだ。その時のお前は階段から落ちていった。階段の角度は45度あった。お前にぶつからなければ私が落ちていた。私は助かったのだ。ありがとう。
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「…ちょ、ちょっと…、それって…?
あ、あの時、確かに何かにぶつかって階段から落ちたけど…。
それなら…、そ、それなら…、私の身体が動けなくなったのって…。
あ、あなたのせいなの…?」
イツキナは自分の身体が不自由になった原因が突然分かって戸惑うしか無かった。
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そうだ。私とぶつかったのが原因だ。
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冷静に話す機械にイツキナは感情が沸き上がるのを抑えることが出来なくなっていった。
「ふ、ふざけないでよっ!!わ、私がどれだけ苦労したと思っているのよっ!!!
あなたのせいで…!あなたのせいで…!
わ、私は苦労したのよ…。
お母さんとお父さんに迷惑をかけて…、アマミルにも迷惑をかけて…。
私は…、私は…。
あぁ、あぁぁぁぁ…、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」
アマミルは、頭をかき回したイツキナが涙ながらに叫んでいるのを聞いて心が痛んだ。
「イ、イツキナ…!」
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私たちは、お前の苦労話など話していない。どうでも良いことだ。
私たちは面白いことに気づいた。
もし、あの時、お前が死んでいれば、この計画を邪魔されることは無かっただろう。しかし、ロウアという個体は、理解不能な魔法でお前の身体が治るのを補助した。身体が治ったお前は、私の邪魔をしている。
ロウアは私を産みだし、私の邪魔をしている。
実に面白い。
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「な…、なにが面白いのよ…、何が面白いのよっ!!!
どうでも良いことってどういう事よっ!!!
どういう…事なの…よ…、うぅぅ…、あぁぁぁ…」
そう言いながら膝を落としたイツキナに、ホスヰになったエネケルは抱きついて慰めた。
「イツキナお姉ちゃん、機械の言う事なんて気にしてはダメなのでっすっ!」
アル、シアム、ツクも心配して駆けつけて部員達はイツキナを囲むように抱きしめていた。
「やだやだ…、イツキナ先輩…な、泣かないでください…。」
「そ、そうです。みんな先輩のことが大好きです、にゃ…。」
「イ、イツキナせんぴゃ~い、せんぴゃ~い…、ぶぇぇ~~~ん…。」
「み、みんな…、みんな…、あり…がとう…」
「イツキナ…、私は苦労したなんて思っていないわ。だって、友達でしょ?」
アマミルがそう言いながら笑顔を見せると、イツキナはアマミルの足に抱きついた。
「アマミルゥゥゥ~~~…。うわ~~~ん…、うわ~~~ん…。
大好きだぁぁぁ~~~っ!うわ~~~ん…。」
「もう…、バカね…。」
アマミルは、呆れながらもイツキナの頭を撫でるのだった。




