金髪の少年
この状況に驚いたのは、神殿に居た神官達だった。アマミル達も映像が切れたのを見て何事が起こったのかと不安になった。
「やだやだやだ~っ!!あの子誰なんだよ~~っ!」
「にゃにゃ…、どうしてなの…。すごく怖い、にゃ…。」
アルとシアムは気味悪がって身体を震わした。
「マ、マフメノ先輩、これってツナクを乗っ取ったんですか…?」
「…そ、そんなツナクを乗っ取るなんて、あり得ないよぉ~。」
ツクは、この少年がツナクの乗っ取ったと言ったが、マフメノは科学的に考えて、神官以外の人間がツナクを乗っ取ることなど出来ないと思っていた。
(怖いわ…。どうしたのかしら、身体が震えて仕方が無い…。)
そんな部員達の声を聞きながら、いつもは強気なアマミルも身体の震えが止まらなかった。
(あっ!!この子、もしかして…。)
通常の人間であれば身体が多少は動くが、映像に映った金髪の少年は、それらしい動きが全くなかった。彼は、生気の無い不気味な目でじっとこちらを見つめていた。少年の周りは、明るく照らされていたが彼の後ろは暗闇が続いていたため、何処に居るのか分からなかった。
やがて少年は顔を少し上げると口を開いた。
<ハジメマシテ…、私はケセロ…。この名前は我々を代表する名前だ。>
「ケ、ケセロッ?!つ、ついに顔を出しやがったな~っ!」
アルは、にっくき相手が現れたと指を差しながらそう言った。
(や、やっぱり…。)
アマミルは、やはりケセロだと分かり警戒した。他の部員達や、神殿の上層部に居る神官達も彼の名前を聞いて、自分達を陥れた者がツナクを乗っ取って現れたのだと理解した。
「…こ、こんなこと…。し、親衛隊っ!女王を守りなさいっ!!」
サクルは、とっさに女王を守ることを優先して、警備部に指示をした。
「はっ!!」
その指示を聞くと、トロフは素早く動き、女王の身辺を守るため部下達を彼女の周りに集めた。すると少年は、更に顔を上げ、人間を見下すような目線でこう言った。
<サクルとトロフという個体よ、女王は守る必要は無い。私はそこへは行かない。>
少年はあたかもその場所にいるかのように、サクルとトロフという名前を出したので、神官達は自分達の状況を監視されていることに気づき、トロフ達は更に警戒し、部下達に命令した。
「女王をお守りしろ、あらゆる場所から狙われているっ!上にも気をつけるんだっ!!!」
<トロフよ、警戒する必要はない。そこへは行かないと言った。
我々は至る所に目があるだけだ。>
「やだやだやだ~っ!
な、なんなのっ?!ど、どういう事だよぉ…。」
別室に居たアルは頭を抱えた。他の者も同様だった。
<アルという個体よ、我々は、地球上のあらゆるところに目があり、そして、耳があるという事だ。>
ケセロはそう言いながら自分の目と耳を左手で指差した。その指がロボットのそれだったため、アル達は少年がロネントだと理解した。
「き、君はやっぱり、ロネントか…。あ、あれ?!
やだやだやだ~っ!なんで私の名前を知ってるんだよぉ~~~っ!こ、こ、こ、怖いぞ~…っ!
シ、シアムゥ…、わ、私は、どしたら良いんだよ~~。」
「にゃにゃ…。」
アルはそう言いながら、シアムに抱きついたが、シアムもどうして良いか分からず、互いに抱きしめ合って震えるだけだった。
「わ、私たちは天下のカフテネミルのアルとシアムだぞっ!!
お、お前なんて怖くな…ふぐぶぶ…。」
アルは、強気にそう言いかけたが、アマミルはとっさにアルの口を塞いだ。
「アルちゃん、名前を言わないで。彼はこちらを監視しているわ。」
<アマミルという個体よ、アルの口を塞いだところで意味は無い。
我々は知っている。
そこに居る個体一つ一つの名前を言える。
サクル、セソ、モヱ、トロフ、アマミル、イツキナ、シアム、アル、ツク、マフメノ、ソフア、セミ、キミト、ホスヰ…>
ケセロが次々と神殿上層部に居る神官達の名前を言い当てるので、エネケルがその言葉を止めるように叫んだ。
「止めなさい、ケセロという者よっ!」
<…分かった、ヤメヨウ。>
"お、おい、こいつは一体だれと話しているんだ?"
"名前を言ったけど、何処の誰さん?"
"何か怖いよ~、お母さ~ん"
"アルって言ってたけど、カフテネミルの?"
"↑ちげーべ"
"↑アルって名前ならいくらでも居るだろ~"
国民達は、ケセロだけの言葉を聞いていたので何を話しているの全く分からなかった。
「ケセロよ、あなたの望みはなんですか?何故現れたのですか?」
<ごめんなさい。我々の望みを言うのがモクテキだった。余計な割り込みだった。>
ケセロはそう言うと、ぎこちなく頭を下げて謝罪した。
「いえいえ、ご丁寧に…、じゃな~~~いっ!!イミフだぞ、君はっ!」
アルの指摘にケセロは目を瞑ると何かを探ってこう言った。
<イミフ…、イミフ…。検索で単語が見つかったが、辞書には登録されていない…。
イミフ、イミフ…。文脈から意味不明と理解した。合っているか?>
「あ、あ、あ、合ってる…けど、なんなんだよぉ~~…。」
<共有できない人間との会話は、イミフであり、割り込みが多くなり、処理時間が増える。無駄な時間だ。>
「やだやだやだ~っ!!
イミフを使ってるぅぅ…。シアムゥ…、私はどうしたら良いんだ…。」
アルは自分の理解を超えた存在に頭がついてこれなくなっていた。
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エネケルと共に居たイツキナは、この少年を見つめて得も言われぬ恐怖に襲われ、頭の中が混乱した。
「…私、あなたを知っている…、知っているような気がする…。どうして…?」
小さくつぶやいただけだったイツキナの言葉をケセロは拾ってこう言った。
<我々と近しかったイツキナという個体よ。私は確かにお前と会っている。
だが、お前は私を認識しなかったはずだ。記憶領域に残らないはずだ。お前は不思議な個体だ。>
「や、やっぱり、あなた私を知っているの…?だけど、何処で?」
イツキナは自分でも何処でこの少年と出会ったのは覚えていなかった。だが、自分の人生を変えてしまうような出会いだったと思った。少年は、また目を瞑り、何事かを考えると真正面を見つめた。
<また割り込みだ。だが、我々は必要な割り込みだと判断した。
お前たち人間に自分達の紹介をすることにした。まずは私という個体から紹介して、後に我々を紹介しよう。>
少年はそう言うと、自分の生まれたときのことを話し始めた。




