懐かしい顔
ナーカル校で教師をしているキルクモは、ムー国の中心地に建っている神殿に向かっていた。空は曇り空で100階にもなるその巨大な建造物は、上部を雲の中に隠れていた。
神殿に入ったキルクモは、窓口に向かって行列をなしている人々を見てうんざりとした。
(しかし、すごい行列だな…。やはり、神殿の機能が停止していたからか…。)
キルクモは、ナーカル校の問題について問い合わせしても応答が無いか、子どものような返信しかしなった教育部の神官達を思い出していた。
彼は知らないが、イツキナ達の浄化作戦で神官達は正気を取り戻した。その甲斐あって、神殿の機能は回復に向かいつつあったが、滞っていた仕事が神官達を多忙にさせていて、各窓口が混雑するという結果になっていた。
キルクモは、数日前に来た時と同じように教育部の窓口に向かったが、自分の間違いに気づいて足を止めた。
(あぁ、しまった…。今日は違うのだった…。)
彼は、教育部の神官達に会うために何度かこの場所に来ていたため、教育部の窓口に向かってしまったのだった。
(十二使徒部は、あそこか…。やれやれ、あそこも酷い混みようだな…。アル君、シアム君に会えるだろうか…。もしかしたら、ロウア君にも会えるかもしれない。)
仕方なく、キルクモは、窓口に向かう行列の後ろを見つけるとそこに並んで待つことにした。だが、一時間以上も待ったにもかかわらず十二使徒部に"コネ"の無い彼は門前払いされてしまった。
(やれやれ…、アル君、シアム君の教師だと言ったがやっぱり会わせてくれないか…。どうしたものか…。)
キルクモは、設備を破壊する生徒や、喧嘩や虐めの横行するようになってしまったナーカル校の惨状をどうしても理解出来ずにいた。
自らの力で正気を取り戻したキルクモは、神殿に呼ばれて学校を休んでいるアルとシアム、そして、彼女らの所属していた霊界お助けロネント部の部員達が、何かを知っているのでは無いかと思えてならなかった。
(やれやれ…、参ったな…。退散するしか無いか…。
しかし、彼女達にどうしても会わなければならない気がする…。そもそも、ロウア君はいつから居なくなっていたのだ…。)
どうにも出来なくなってしまったキルクモは、腕を組んで神殿の壁にもたれると長い行列を見ながら途方に暮れて、そんなことを考えていた。すると、後ろから聞いたことのあった声が聞こえてきた。
「あっ!キルクモ先生っ!!こんにちは~っ!」
「こんにちは、先生、お久しぶりです。」
その声を聞いてキルクモは驚いてしまった。まさに会いたかったアルとシアムだったからだった。二人はナーカル校の制服を着て手を振っていた。それはキルクモが知っている彼女達そのものだった。
「えっ?!ア、アル君っ!それにシアム君もっ!!」
二人の横には若い警備部の制服を着た男もいて彼女らを守っているようにも見えた。
更にその男の後ろには隠れるように別のナーカル校の女生徒もいた。
「良かったっ!君たちに会いたかったんだよっ!」
「ま、ま、まじで~っ!!私もですっ!!」
「ふふっ!ア、アルちゃん、目が輝いているよ~。」
シアムは、アルが両手を祈るように組んで、目が乙女になっているから笑ってしまった。
「(あれ、シアムさん、アルさんって…、もしかして、キルクモ先生のことが…?)」
横に居る警備部の神官は、アルの心情を察してシアムにそっと聞いた。
「(マフメノ君、するどい、にゃっ!)」
「やだやだやだ~っ!
シアムゥッ!聞こえているぞ~~っ!マフメノ君に話すな~~~っ!!!!」
シアムがアルの思いをマフメノに伝えてしまったため彼女は憤慨した。
「あっ!しまった、にゃっ!笑」
「わざとだ~っ!ぜったいわざとだ~~っ!!笑ってるし~~っ!!"笑"って言ったし~っ!!」
「にゃはは~。」
すると、マフメノの後ろに居たツクは涙目になって何かに耐えていた。
「ア、アル様が、せ、先生を…。うぅぅ…。そ、そんな思い人がいたなんて…、うぅぅ…。」
「ツ、ツクちゃんまでっ!な、泣かないでぇ~…。
ち、違うんだって~。いや、違わないか…、えっと、その憧れっていうかさ~…。ねぇ、若いときに誰でもあるような…。
わ、私は何を言っているんだっ!」
アルが意味不明な言い訳をしているのを聞いていたキルクモは、呆れつつも懐かしくなって微笑んでしまった。
「は、ははは…、なんだか懐かしい風景だな…。
そうか、みんな霊界お助けロネント部の部員だったのか…。
君はマフメノ君かい?随分男らしくなったね。驚いたよ。」
「えっ?!あ、あぁ…、ど、どうも…。」
マフメノは褒められて顔を赤らめつつ、担任になったことも無いのに自分のことを知っている上に、すぐに自分だと見抜いたキルクモに驚いた。
「あっ!ごめんなさい、先生…。勝手におしゃべりしてしまって…。」
シアムは、キルクモの事を考える一方的におしゃべりしたことを詫びた。
「はははっ!良いんだよっ!
しかし、君たちは今までどうしていたんだい?神殿で仕事をやっているとは聞いているが。」
「学校に行けずすいません…。
こちら(神殿)で、ちょ、ちょっと大変なお仕事をやっていて…、学校に行けなくなってしまってます…。」
続けてシアムがそう説明した。
「そうか…。神殿に籠もってまでの仕事だから、よっぽど重要な仕事なんだろうな。
あぁ、そうか…、アイドルとして何かやっているのかい?」
「さすがキルクモ先生っ!そんなところですっ!」
「はい、すいません。ですが詳細は言えなくて…。」
アルとシアムがそう言ったので、キルクモは神殿で企画したコンサートか何かなのだろうと思った。
「先生はどうしたんですか~?私たちに会いたいってっ!キャッ!」
言いながらアルは顔を赤らめて手で覆った。シアム達はアルがいつも見せない姿で照れてるのでちょっと呆れた。
「ロウア君の事を聞きたくてね…。君たちなら何か知っているのではないのかと思ってね。」
「にゃっ!!!」
「や、やだやだやだ~っ!
先生は、カミィ…、えっと、ロウアのことを覚えているんですかっ?!」
アルとシアム、そして、マフメノとツクは、ロウアのことを覚えているキルクモに驚いてしまった。洗脳を解かない限り彼の記憶は戻らないと思っていたからだった。
「お、おぉ?!やっぱり、二人はロウア君の事を覚えていたかっ!!
彼は今どこに居るんだ?君たちは知っているのか?」
「しっ!先生…。」
マフメノは、ロウアという言葉を公共の場で話すことに警戒して彼の口を止めた。
「う、うん?」
「す、すいませんが、ここではちょっと…。」
「…わ、分かったよ。それなら場所を変えよう。」
マフメノが警戒しているのを見て、マフメノはそう言って場所を変えることにした。




