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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
カフテネ・ミル
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 その晩、ロウアは身体をベッドに預けながら、うとうとしていた。


<た、助けてっ!誰かっ!助けてっ!助けてっ!アルちゃんっ!ロウア君っ!>


 ロウアは、どこからかシアムの声が聞こえて来るのが分かったが、何処で叫んでいるのか分からなかった。だが、その声は徐々にハッキリとしてきて耳元で叫んだ。


<助けてっ!ロウア君っ!>


「はっ!」


 その瞬間、ロウアは目が覚めて、自分が汗だくになっていることに気づいた。彼はいつの間にか眠っていたのだが、あの声は夜に聞こえたのか朝に聞こえたのか分からなかった。窓から見える空は朝を知らせていて、小鳥のさえずりが聞こえていた。


(あ、朝……?いつの間に……。それにしても、あのシアムは別人……?いや……、まさか……)


 ロウアは急に不安に襲われた。直前に聞こえたシアムの声は本物だったのだろうかと考えた。


(シアムが助けを呼んでいた……?まさか彼女に何かあった……?)


 同時にロウアは、シアムの優しさが見知らぬ世界に来た自分をどれ程助けただろうかと思い返した。


(言葉を話せなかった自分に優しく教えてくれた……、どんなときでも自分のことを気遣ってくれた……)


 そう思うとロウアは叫ばずにはいられなかった。


「シアムッ!」


 その声は部屋に響き、ロウアのベッドの後ろにいた少女を驚かせた。


「ビ、ビックリしたっ!!

な~にぃ、ロ~ウア~……、どうして私を呼んだのっ?フフフッ……」


 少女はうっとりとした声でロウアのことを呼んだ。意外なところか聞こえた女性の声に、今度はロウアが驚いた。


「えっ?だ、誰っ?!」


 ロウアは、声のする方に身体を向けると、そこに居たのはまさにシアムだったので我が目を疑った。だが、実際に目の前に居るのは制服を着たシアムに間違いなかった。


「シ、シアムッ?!どうしてここにっ?!」


「どうしてって……、それを聞いちゃうのぉ?会いたかったから、アルをおいて先に来ちゃったんだよぉ~」


 シアムは、そう言うと、おもむろに制服を脱ぎ始め、ロウアに迫ってきた。声もいつもと違い、どこか大人びていた。


「な、な、ななな、何をしているんだ……」


 ロウアの驚きとは関係なく、下着姿であらわになったシアムの胸が迫って来た。


「シ、シアムッ!ち、ち、近いってっ!どどど、どうしたんだよ…、わわわ……」


 自分の顔に近づく顔と胸を見ないように目を手で覆った。


「男の子は朝は大きくなるんでしょぉ~。知ってるよぉ~。

目で隠しても駄目だよぉ~。私の姿、本当は見たいんでしょ?指の隙間から見てるのがわかるもんっ。

私ね……、ロウアになら"いい"と思ってここに来たのよ……、分かるでしょ?」


 いつもは大人しいはずのシアムがうつろな目でこちらに迫って来るのが指の隙間から見えて混乱は絶頂を迎えた。


「や、止め~~っ!」


 顔を真っ赤にしたロウアは、シアムがあまりにも迫ってくるので後ろに思い切り下がった。そのため、空中に浮かぶベッドから、頭から滑り落ちてしまった。


「イ、イタタ……」


 ロウアがたんこぶの出来た頭を抑えていると、シアムもすとんとベッドから降りてきて、そのまま倒れたロウアに迫ってきた。


「……ちょ、ちょ、ちょっと待った…。き、君は誰なんだっ!」


「誰って、ロウアの知っているシアムよっ!」


「違う、君はアルや僕のことを呼び捨てなんかにしないっ!いい加減にしろっ!」


 ロウアの鋭い指摘は、女の頭を狂わせた。


「あぁ、あ"、あ"、ああああ……」


 シアムは急に訳の分からない声を出すと、のけぞって上を見つめだした。そして、ロウアをギッと睨んだ。その目は、優しいシアムのそれでは無かった。


「お前……、するどい、スルドイ、鋭い。するどいぞぉぉぉ、ケカッー……」


 その声は、どす黒い低めの男の声だったため、ロウアは背筋が凍った。


「な、何だ?!お、お前は誰だっ!」


「お前こそ、だぁ・れぇ・だぁぁぁ!」


「ぼ、僕はロウアだっ!」


「チガウ、違うぞ、貴様は確かに息をしていなかったぁっ!」


「な、何を言ってる……」


 下着姿のシアムとはかけ離れたその声、そして、何かを意味する言葉にロウアは戸惑った。


(お、おい、池上……、こいつ俺が溺れた時のことを言っているんだ……)


(な、なにっ?!)


 魂のロウアもシアムの異変に顔が青ざめていた。


「オマエ、シンダはず……。死んだはずっ!お前が別人だぁぁっ!」


「ロウア君を溺れさせたのはお前かっ!」


「お前ぇっ!もう一度、死ねぇぇぇっ!!!」


 少女は、そう叫びながら隠していたナイフでロウアに襲いかかってきた。


「くっ!」


 ロウアはすかさずその手を掴んで、床に倒すと彼女の上に乗っかって腕を押さえた。


「お、抑えた…。」


「く、くそぉぉぉ……」


「正体を明かしてもらうぞっ!」


「……はっ!あははぁぁっ!あいつが来やがったぁぁっ!」


 本来なら激しく抵抗するところを、その少女はニヤリと笑った。その顔を見てロウアが戸惑っていると、彼の部屋の扉が家を揺さぶるかのような大きな音で開いた。ロウアはそこに居た少女を見て顔が引きつった。


「あ"っ!」


 唐突に入ってきたのは、アルだった。

 状況的には圧倒的にロウアが不利だった。半裸のシアムの上にロウアは乗っかって何かをしようとしているようにしか見えなかったからだった。案の定、アルは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。


「やだやだやだ~っ!!!

あ"っ!じゃないわよ~~~っ!!!音がするから来てみたら、シアムに何しようとしているのよっ!!!!」


「ち、違う、これは、あの、シアムが僕の部屋に入ってきて、それで……」


「ロウア君……、酷いよ……、起こそうとしただけなのに……。うぅぅ……、うぅぅ……」


 シアムは、ナイフを隠し元の女の子に戻っていた。彼女は半泣きでロウアから目を逸らしていた。ロウアは、少女がまたシアムのふりをしたのだと分かったがどうにも出来なかった。


「お、お前っ!」


「お前っ!じゃ無いわよっ!シアムが泣いているじゃないっ!んが~~~っ!!!」


「ち、ちが……っ!」


「酷いよ……、酷いよ……、ロウア君……。こんなことするなんて……、うぅぅぅ……」


「もうっ!やっぱり君はロウアじゃ無いなぁっ!何者なのっ!?昔のロウアならこんな事しないもんっ!」


「ち、違う……。違うって……」


 ロウアはこの状況にやられたと思ったが、全てが後の祭りだった。後から来た母親はカンカンに怒り、兄もあきれ顔でこっちを見ていた。


「違うのに……」


 いくら言い訳を言っても聞いてもらえず、下を向いて正座をさせられたロウアは、そうつぶやくしか無かった。

 女は、この姿を見てニヤリと笑っていたのだが誰も気づかなかった。


-----


 この日から、ロウアは学校と病院の行き来する以外は、何も出来ないようになってしまった。そのため放課後も図書館で勉強が出来なくなってしまった。挙げ句、母親にツナクトノで監視されてしまい、予定外の場所に移動するとすぐに連絡が入る状態になってしまった。無論、アルとシアムはロウアの家に来なくなった。


(こ、これは酷い……)


 ロウアはこの状況に肩を落とした。


(やられたな……。アイツは何者なんだ?シアムじゃないのは分かるが……)


(分からない……)


(あいつの家に調べに行ったけど、普通の生活をしているんだよなぁ……。あいつの父親も母親と一緒に朝飯食ってたぜ)


(……そ、そんな)


 ロウアは自分の部屋で途方に暮れるしか無かった。


(だけど、このままでは拉致が開かない……)


(そうだな……)


(それに……)


(それに?)


(シアムが心配だ……)


(な、何だってっ?!)


(本当のシアムはどこにいるんだ……。恐らく彼女はどこかに捕らわれているか、もしかしたら……)


(……や、やべえな……、それもあり得るか……)


(彼女が心配だ……。どうにかしないと……)


(だが、お前、動けないだろ……?)


魂のロウアにそう言われたロウアはじっと一点を見つめ、しばらくしてこう言った。


(……アルに協力をお願いしよう……)


(い、いやいや、お前ぇ、それは無理だろ。今すげー怒っているんだぜ?)


(うん……、だけど、このままじゃシアムが……)


 シアムに危機が迫っていることをロウアは直感的に感じた。夢で自分に助けを求めていた彼女は、本当のシアムであり、彼女の心の叫び声だと確信に変わったからだった。


2022/10/13 文体の訂正、下手くそな文章の校正


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