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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
第三の大陸
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米飯

子ども達の家で遊んでいた巨人族の少女ンミルトは、楽しくて仕方が無いのか、キャッキャッと言いながら走り回った。


< 楽しいっ!楽しいっ!楽しいっ! >


ンミルトの村は、少人数だったため子どもがあまり多くなく、彼女の遊び相手はいないに等かった。だから、ここにいた子供達の年齢が彼女と近いのも相まって一緒にいるが嬉しくて仕方が無いのだった。


ンミルトは遊ぶことに夢中になっていたのだが、ふと子ども達が集めていた水汲みを見て自分の目的を思い出した。


< あっ!水くみぃぃぃっ!!!

お母さんに怒られる!

帰るぅぅ~~。>


彼女はそう言うと、子ども達との遊びをほったらかしにして、手を振りながら去って行ってしまった。

無論、子ども達はその意味を分からないが手を振って何処かに行ったので帰ったのだけは分かった。


「あれ、急に帰って行っちゃった。」

「なんだよぉ…。」

「えぇ~~っ!」

「う~~。」

「またね~~っ!」


ヒムとハーディも彼女の後ろ姿を見送った。


「あれ、どうしたんだろうね、カーディ。」


「用事を思い出したんだろ?」


「用事?」


「あいつも、水汲みに来ていたからな…。」


「そっか~。」


ところが、帰ったと思ったらすぐに戻って来て、子ども達は一斉にずっこけてしまった。

ヒムとカーディも苦笑いで彼女を見るしかなかった。


「は、はやいな…。」


「水を届けたから、また戻ってきたのかな~っ!」


「そ、そうだね…。」


「あっ!でも、何か持ってきたみたいだよ。」


ヒムが気づいたように手には、木の皮で作った桶にいっぱいの穀物が入っていた。

果物もあれば、米もあって家から持ってきたのだろうと想像できた。


< はい、これ~~っ!お母さんが持っていけって~。

あなた、一番大きい、そんちょーさんっ!あげる~~。 >


ンミルトは、こんな事を言っていたが子ども達は分からず、ロウアも分からなかったが、取りあえず目の前に出されたそれを受け取った。


「あ、ありがとう。」


ロウアは、そう言って桶を置くと手を合わせて頭を下げた。

すると、ンミルトも同じように見よう見まねで同じ事をした。


(あはは…。

そうか、薬草を作ってくれたお母さんからかな。何かお返しをしないと…。

…というか巨人族にこの場所が知れ渡っちゃったかな…。)


そんなことを考えていたが、お礼をするにしても何が良いか思いつかなかった。


「お兄ちゃんのそれってムーの挨拶?」


ムーの礼儀を見て興味を持ったのか、ヒムがロウアが行ったムーのお礼の仕草について聞いてきた。


「お礼、やり方」


「へ~、そうなんだ~。」


「ヒムッ!

私達、お礼、お返し、したい。」


ロウアはヒムにお返しについて相談した。


「あ~、そうだね。何かお返ししたいね。何が良いかな~。」


ヒムも同意見だったが、何をお返しすれば良いかまでは思いつかなかった。


「…あの赤いキノコはどう?」


隣にいたカリナが提案したのは、ドロドロとした見た目で毒キノコと分かる赤いキノコだったので、


「カリナ、それダメッ!絶対っ!」


ロウアは、何かを禁止するような用語でそれを止めた。


「美味しそうなんだけどなぁ…。」


カリナは口惜しそうに続けたのだが、


「ダメッ!絶対っ!ダメッ!絶対っ!毒、毒、毒、毒、でっす!!!」


ロウアはカリナに迫るように止めろと言ったので彼女はぶすっとして諦めた。


「分かったよぉ~…。」


結局、お礼は出来ず、ンミルトは夕方近くまで子ども達と遊びまくって、う~、わ~と言いながら帰って行った。


「う~、わ~っ!」

「またね~~っ!」

「また~~っ!」

「こりゃ、明日も来るぞ。」

「あはは、そうだねっ!」


(あぁ~、お礼が出来なかった。お返し…なにか考えないとなぁ…。

このお米は、玄米のままか…。白米が食べたいかも…。まあ、今日はいいか。

でも、ここまで作れるなら農業が発達しているのかな…。)


ロウアはンミルトが帰る姿を見ながらそんなことを思った。


そして、夜も更ける頃、その晩は、ンミルトの持ってきた果物や米を炊いて食べることになったのだが、お米を前にして子ども達はどうして良いのか戸惑っていた。


「お兄ちゃん、これどうやって食べるの?」


ヒムは、米の炊き方が分からず、ロウアに尋ねた。


「教える。」


彼はニコリとすると未来でホームレス時代に培った米の炊き方を子ども達に披露した。


「わ~~っ!美味しそうっ!」

「なにこれ~~っ!」

「パンよりも美味しい?!」


子ども達は初めて米飯を見たため、出来上がった煙の出ている大きな粒を見て歓喜した。


「これは、"ご飯"、です。食べよう。

えっと、たくさん、噛む、甘くなる。」


「ご飯って言うんだ~~っ!」

「えっ!!甘くなるのっ?!」


ロウアは、ニコッとしてうんと頷いた。

米を食べ始めると子ども達は、また大きく喜んだ。


「うぉぉ~、美味しいっ!」

「わ~~っ!本当だぁ~~っ!段々、甘くなるっ!」

「魚と一緒に食べるともっと美味しいよっ!!!」

「す、すげぇぇ、美味しいっ!」

「もっと食べたい~~っ!」

「俺も、俺も~~っ!」


子ども達もそうだったが、久しぶりの米飯を食べることが出来てロウアも満足だった。


(玄米だったけど、お米は久しぶりで美味しかったなぁ。あの子に感謝しないと。

ムーでの食事を思い出すなぁ…。

しっかし、ムーと同じで米粒が大きいっ!)


ロウアはムーで初めて食べた白米を見たときに思った事を再び思い出すのだった。

あの時初めて食卓に上がった白米は自分が未来社会の日本で食べたものよりも一回り大きなものだった。


(…ん?

…あれ…、まさか、まさか…。)


そして、彼はある事実を悟った。


(もしかして、巨人族が大きいのでは無くて、僕らムー人とアトランティス人が小さいのでは…?

未来には巨人族は居ない…。

二つの大陸は未来世界には無い…。

この後…、それがいつかは分からないけど…、小人族は大陸と共に地球から全滅してしまう…。そうか猫族も…。

つまり、彼らが…、彼らが…、未来の人間のサイズ…。

な、何てことだ…。あぁ…。)


ロウアはその事実を悟ると、ムーとアトランティスの未来が見えてくるような気がした。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


ヒムは、一点を見つめて考え事をしているロウアをナーカル語で話しかけた。

その声でロウアは我に返ったが、自分が悟ったことは未だ黙っていようと思った。


「あぁ、い、いや…、何でも無いよ…。」


「変なのっ!」


「あはは…、ごめんね。さ、片付けよう。ご飯は乾いてしまうとお椀を洗うのが難しくなるんだ。」


「ふぇ~、それじゃあ、急いでお水で洗おうっ!」


「そうだね。」


子ども達とロウアは、久々の、そして初めての、米飯の後片付けを始めた。


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