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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
第三の大陸
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小さな隙間

霊界お助けロネント部の面々は、シアムの閉じこもってしまった部屋の前に集まっていた。

やがて、アマミルはみんなを見つめてうんと頷くと、ノックして彼女を呼び出した。


「シアムちゃん…、アマミルだけど、開けてくれる?」


シアムからの返事は無かったが、彼女が奥にいることは分かっていた。

その証拠に彼女が食べた食事の残りが扉の前に置いてあったからだった。

だが、そのほとんど手を付けていない食事を見て皆、不安に思った。


「シアムちゃ~ん、イツキナだよ~。浄化作戦がおわったんだ~。ご飯でも食べようよ~。」


イツキナも彼女を呼び出そうと声をかけたが、全く応答が無かった。


「う~ん、頑固だなぁ…。」


「止めなさい。そんな言い方。」


「そうだけどさ…。」


アマミルはイツキナが軽々しく言った言葉を咎めた。


「……。」


アルも何か言いたそうだったが、自分のせいでシアムがおかしくなってしまったと思うと言葉が見つからず、涙が自然とこぼれてきた。

「うっ、うっ…、私のせいで…。」


「そんなことありませんっ!アル様は、シアム様を守るために行動したのですっ!」


落ち込んだアルを慰めるようにツクが彼女の手を握った。


「…ツクちゃん、ありがとうね…。」


その声がとても小さく、いつもの快活なアルではなかったので、彼女のこともみんな心配した。


「…ここまでとは…。」


その姿を見ていた一人の男は、先に聞いていた以上だと思い、頭を悩ませた。


「シアムちゃんのお父さん…。申し訳ございません。私たちのせいでお嬢様をこのような事にさせてしまいました。」


アマミルは、浄化作戦で元に戻ったシアムの父親に頭を深々と下げると、他の部員達も一緒に頭を下げた。


「アマミルさんも、みなさんも頭を上げて下さい…。どんなことがあったにせよ、私の娘が選択した結果なのですから…。」


「そうですよ、あの子を皆さんにはよくして頂いているのは十分、分かっています。」


すると、父親の後ろにはお腹を大きくしたシアムの母親が同じように部員達を気遣った。


「ほら、アルちゃんも頭を上げて…。」


シアムの母親は、アルのそばに立つと彼女の肩を抱いてあげた。


「…おばさん…、うっ…、うっ…。」


「あの子が、こんなにもロウア君のことを思っていたなんてね…。

私はむしろ女として育ったあの子を褒めてあげたい…。」


そして、アルに向かって声をかけた。


「アルちゃんは、あの子と一緒にロウア君を助けにアトランティス国まで行ってくれたのよね?

あの子を支えてくれてありがとうね。」


シアムの母親もすでに浄化を受けていて、無論、ロウアのことを思い出していた。


アルはここまで聞くと耐えきれなくなったのが、シアムの母親に抱きついていた。


「うぅぅ…。おばさ~ん…。ぶぇぇぇ~~ん…。」


すると、シアムの父親は、ホスヰの前まで移動すると合掌して頭を下げた。


「女王様、娘がこのようなわがままを言って申し訳ございません。」


「…良いのです。私も若い頃はわがままいっぱいで、幼かったラ・ムー様を困らせたりしましたから。」


ミクヨの魂となったホスヰは、微笑みながらシアムの父親にそう答えた。


「そう言って頂けると…。

さあ、みなさん、今度は私たちが子どもを守る番です。」


シアムの父親は、そう言うと扉の前に移動した。


「お願いします…。」


アマミルは、そう言ってシアムの両親の後ろに移動した。


(これは賭けかもしれない…。シアムちゃんがご両親の声を聞いてくれるのかどうか…。

あぁ、どうかどうか、ラ・ムー様…。彼女の心が開かれますように…。)


アマミルは心の中でシアムのことを祈った。他の部員達も同じ気持ちだった。


「シアム…。私だ。開けておくれ。」


シアムの父親はそう言いながら扉をノックした。


「私も居るのよ、シアム。開けてくれる?」


すると、


「…お父さん、お母さん…。治ったのか、にゃ…?」


中からは、シアムの声が聞こえてきたので一同はほっとひと安心した。

そして、互いに頷くとこの場は家族だけにしようと気遣って奥に移動した。


「あぁ、そうだ。イツキナさん達のお陰でな。」


「シアム、ここを開けて私たちを入れて、ね?シイリも大きくなったのよ。」


「あぁ…、シイリ…。」


シアムは、かつて一緒に過ごしたシイリを思い出した。

ロネントに魂を宿らせてしまい、ロネントとして生活を続けた彼女は、人間の肉体を持つことが夢だった。そして、今、地上に生まれるために母親のお腹に宿ったのだった。本当の妹として生まれようとしているシイリのことを思うと、シアムは自然と扉を開けて二人を中に引き入れた。


この様子を見ていた部員達を静かな声で喜び合った。


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