怪しげな視線
アルとシアムの話では、数年前、自分達で作った歌を流す番組を作ってツナクに配信したら、予想外に視聴率が上がってしまったとのことだった。
彼女らが何曲か配信していたら、そのうち番組を知った21世紀でいうところの芸能プロダクションが目を付けてきたとのことだった。最初は学校もあるから断っていたようだったが、ロウアの押しもあり、アイドル活動を開始したとのことだった。
「ロウアァ、覚えてないのって……、はぁ~、そうだよねぇ~……」
「も、盲点だったね……。アルちゃん……」
二人は言いそびれたことを反省しているようだったが、魂となったもう一人はあっけらかんとしていた。
(そいえば、「やってみれば?」って言ったっけ)
(というか、このことを早く言ってよっ!)
(んだよっ!言われてないし)
そういうと、魂のロウアはふてくされるのだった。
(いや、だから……)
アルはふんぞり返ると何やら偉そうに話し始めた。
「いいかぁ、ロウア君っ!君にナーカル語を教えるために、夏休みは歌と踊りの練習が出来なかったのだよ」
「そうだったのか……」
「そうだよ。アイドルは忙しいのだよ」
「また、アルちゃんったら。大丈夫だよ、ロウア君、しばらくライブは無かったから」
シアムの優しい笑顔はアルと対象的だった。
いずれにしても、二人のユニット名は、さっき、映像の最初に表示された「カフテネ・ミル」だった。映像には次々の彼女達の歌と踊りが披露されていた。
「デビュー曲はムーの国歌なの。
ラ・ムー様を讃えるお歌だったけど、私たちなりの曲に変更しちゃったんだよね」
「うん。怒られるかと思ったけど、あんまり怒る人はいなかったよねぇ~」
「そうだね。んでさっ!二曲目はシアムの詩を曲にしてみたんだよっ!」
「は、恥ずかしい、にゃ……」
「でも、これがすんごく受けてさ~。若者らしく悩んだりしているけど、元気な曲だねって評価してもらったんだよねっ!」
「うんっ!嬉しかったねっ!ちょっと照れちゃうけど……」
そして、アルがしばらくロウアの家に来なかった理由を説明してくれた。
「まぁ、君もナーカル語で話しが出来るようになったし、大丈夫だろうって事になって、また前みたいに学校が終わった後、歌と踊りのお稽古をする事にしたんだよね」
「そうだね。ロウア君のナーカル語は、上手になったもんね。すごい上達っぷりっ!」
「ふんむ、もう一人立ちだなっ!」
「アルちゃん、偉そうっ!」
「ありがとうっ!二人のお陰だよ。
しかし、アイドルなんてすごいなぁ」
ロウアがそう褒めるとアルは更に鼻高々になっていった。
「ほっほっほ~、そうだろう、そうだろうっ!すごいでしょうっ!
私たちの映像を見た君が感動するの無理は無いなぁっ!わはは~っ!」
「アルちゃん、社長さんみたい、にゃっ!」
「あっ!
でも、下から覗いても下着は見えないからねっ!
ちゃんと見えないようになっているんだからっ!」
アルは聞いてもいないことを話してきた。
「そ・れ・か・ら~っ!
上から見るのは駄目だよからねっ!あと、触ろうとするのは禁止っ!」
アルは、ロウアをスケベやろう認定していた。
「う、上からもした下からも見ないし、触ろうとしないから大丈夫だって……」
「それならよろしい」
アルが偉そうに言った。
「何か理不尽だなぁ……」
そんな話をしながらも映像は流れ続けていたので、ロウア、ロウアの母親、アル、シアム、魂のロウアまでカフテネ・ミルの曲に見入っていた。しばらくして、アルが自分達の曲のことを話し始めた。
「シアム、ここのダンスは覚えるの大変だったよね~」
「……」
「???」
「……うんっ!そうだったね~」
ロウアは、シアムの反応が遅かったので、どうしたのかと思ったのだが、次々の映し出される歌とダンスに見入ってしまって、そんなことはすぐに忘れてしまった。
シアムは、この時、ロウアを不自然に見つめていたのだった。更にもう一つ、別の視線もロウアを見つめていた。それは、キッチンで洗い物をしているはずの家政婦型ロネントだった。二つの視線は、あまりにも機械的な視線だった。
だが、カフテネミルの音楽が臨場感に溢れているため誰も気づかなかった。そんな映像が1時間ほど映し出されたあと、二人は家に帰ることになった。
「二人ともすごかったよっ!」
ロウアは素直な感想を話した。
「やだやだやだ~っ、そんなこと最初の頃は、何も言わなかったくせにっ!
照れるじゃないかぁ~っ!
でも、今は別人ロウアだから仕方ないかぁ」
「べ、別人……」
ロウアは一瞬凍り付く。
(おい、ばれてんじゃないか?うははっ)
(わ、笑い事じゃ無いよ……)
「ねぇ、シアムッ!」
「……」
「シアムゥ?」
「……ア、アルちゃんっ!そんなことないよぉ~。いつものロウア君だよっ!」
「あはは、怒られたぁ~」
(ま、また一瞬反応が遅れたような……)
「だけど、自分達の映像を知り合いと見るのは恥ずかしいね、シアム」
「……」
「シアム?」
「……うん、そうだね。アルちゃんっ!」
さらにまた、一瞬だがシアムの反応が一瞬止まったように感じられた。
「シアム?」
ロウアは、気になってシアムに話しかけた。
「うん?」
シアムは何事かと反応するが、それはいつもの彼女だった。
「い、いや、何でも無い……」
その自然な反応に、ロウアは何も言えなくなってしまった。
「ま、帰ろっ!」
「うん、そうだね」
そう言うと、二人はロウアの家を後にするのだった。
「またね~」
「また、明日ね。ロウア君」
「うん、また」
ロウアは入り口で二人に手を振ると、自分の部屋に戻ってきた。
(どうしたんだ?)
(シアムが……、いつもと違うというか、何か変だったよね?)
(そうかぁ?いつも通りだっただろ?
何かお前を異様に見つめていた気はするが。
お前というか俺か?ま、いっか)
(み、見つめていた……?それと……、オーラが無いのが気になったんだよね)
(おーら?なんだよそれ。ナーカルの神官みたいな事を言うな。お前は)
人が持っていて、後頭部から光ると言われているオーラ、それをロウアは見ることが出来たが、シアムのオーラが今日は全く見えなかったのだ。
(あいつの体調が悪かったんじゃないか?)
(う~ん、確かに。あの子は反応も何か遅かったし、疲れてたのかも……)
ロウアは言われてみるとそうかなと思った。オーラは体調が悪かったり、病気になっていると消えてしまう事もある。
(そうだぜ、気にするなよ)
(う、うん……)
ロウアは、シアムの反応が気になったが、学校が終わって稽古をしているということだったから、疲れているんだろうと理解するのだった。
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その夜、ロウアはツナクで二人のことを調べることにした。
「えっと、検索 カフテネ・ミル」
すると、空中に表示されるモニターに検索結果が表示される。
二人の始まりの映像は、自宅で撮影したと分かる地味なものだった。だけど、その歌声は綺麗に響き渡るような声をしていて、二人のハーモニーは心の奥にしみこんでくるようだった。21世紀のインターネットと同じように彼女たちのホームページも存在していた。
(はぁ、すごいなぁ。確かに歌声は、綺麗だもんなぁ)
そのホームページからは、芸能プロダクションへのリンクもあった。調べてみたら、プロダクションの社長の写真が見つかったのだが、その顔はロウアも知っている顔だった
(ぐわっ!Dさん……)
それは21世紀に出会ったホームレスのDさんだった。
(なんだ、こいつももしかしてお前の時代にいたのか?)
(う、うん、いた……)
Dさんはホームレスだったがスポーツ好きで身体を動かすのが大好きだった。21世紀、池上だった時は、精神病院に閉じ込められて失った体力を鍛えてもらったのだった。
(……プロダクションの社長とは……)
ロウアは境遇の違いに驚いた。
(それにしても二人は忙しかったんだろうなぁ……)
(そうだぜ、あの夏休みの海に遊びに行ったのも無理矢理時間を作ってたしな)
(そうか……。遊びにいったその時に友達が事故に遭ってしまったのだから、台無しだったよね……)
(まあな。死んじゃったんだしなっ!)
(明るいなぁ……)
ロウアは死んでも、魂のままで天国にも帰らず、魂のままになっているこの時代のロウアに呆れてしまっていた。魂となったロウアは、悲しむどころか、むしろこの状況を楽しんでいるようだった。
(暗いよりはいいか……)
その頃、一階では、家政婦型ロネントが怪しげな通信をしていたが、ロウアは知るよしも無かった。
2022/10/11 文体の訂正




