力のない笑み
巨大になったアトランティス国の軍人達は、賄賂などが横行する腐敗組織になっていた。
そのような上層部はメンツを重んじるだけで、嘘の横行する組織体制となっていて、下位の者達も同様だった。
ある日のアトランティス国の軍人達が爆薬の棚卸をやっているときのことだった。
「…1,2,3と…、おい、爆薬が何個か無くなっていないか?」
「…そ、そうだな…。」
「や、やばくないか?紛失したって上に報告したら俺達どうなるか分からないぞ…。」
「…先月の数量で報告しよう。分からないだろ?」
「そうだな。」
草花の根っこが腐れば、全ての枝葉が腐るように軍人達は、上から下まで腐りきった状態だった。
そのため、緩みきった軍人達は数個の爆薬が無くなったことも分からないような状態だった。
無論、爆薬を盗んだのはセウスの指導の下に動いた反政府組織だった。
元々、軍人だったセウスはこのような腐った組織構造を知り尽くしていた。
つまり、反政府組織の"準備"とは、こうして盗んだ爆薬を使って各地の軍事拠点に爆薬を仕掛ける事だった。
先ほどの爆薬庫には、実はしっかりと無くなっているはずの爆薬が置いてあった。
だが、それは誰も分からないような場所に設置され、何かの合図をひっそりと待っていた。
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セウスからの連絡はアトランティス大陸、十数箇所にいる反政府組織に伝わった。
その一部の組織、北西部の四人は、その連絡を受けてカードゲームで遊んでいた手が止まった。
ツナクを使った我々がよく知るようなテレビには、カフテネ・ミルが軍人達を集めている映像が映っていた。
「いきなりだな~。これを見ていたら来るんじゃ無いかって思っていたけどさ~。」
「まあ、俺達のリーダーらしいんじゃないか?」
「そうだな。」
「やれやれ…。」
面倒というより、イキイキとした動きで四人は装備を調えると顔を合わせた。
「それじゃ、やりますかっ!!」
「それじゃ、やりますかっ!!」
「それじゃ、やりますかっ!!」
「それじゃ、やりますかっ!!」
セウスからの"決行"の合図は唐突ではあったが、それを待っていた各地の反政府組織は、こんな調子で一斉に動き出した。
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アシデアは、情報省の中央センターで指示を出して、エメ達を追尾始めた頃、各地の軍事拠点で謎の爆発が起こり始めたと聞いた。
「な、何だと…?そんな事が…。」
中央センターのモニターには、爆発した軍事拠点で煙の中、軍人達が混乱している姿が映し出された。
中には、レーザー銃を持ち武装された人々を表示するモニターもあった。
「こ、この者達は…?何者…。
ま、まさか、我々に反対する組織だとでも言うのか…?
これだけ厳重に監視していたというのに、そんな者達が組織されていたと…。」
アトランティス国政府は、自分達の構築した監視カメラによって、政府に反対する国民を次々と捕まえていたはずだった。
アシデアは、やり過ぎたとはいえ、もはや国に反対する者は居ないのだと思っていた。
つまり、自分達を脅かす存在は、いないのだと思い込んでいた。
その者達は、監視カメラを次々と壊し始めたのでモニターの映像は徐々に消え始めていった。
「あ、あぁ…。」
緊急事態のため、大統領に連絡に行かねばならないが、アシデアは目の前で消えていくモニターを見ながら力を失っていった。
「…あ、ありえない…。」
かすかに残った街のカメラには、一般市民達も武器を取って動いているのが見えた。
「い、一般市民までが…。
そ、そうか…。はは…、ははは…。
私はやり過ぎたのだ…。そうだ、やり過ぎたのだ…。
ははは…、そうだ、そうだ…。」
やがて、その映像も次々に消えてゆくのを見て、力の無い笑みの中、アシデアはこの政府の終わりを悟った。
2020/11/29 タイトル修正




