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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
舞姫は姦邪の闇に舞う
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アイドルパワー

アトランティス国の大統領であるプラエセスは、大統領補佐官のアシデアを呼び出すと大声で叫んだ。


「おいっ!ムーのガキ共が消えたというのは本当かぁぁぁっ!」


「…は、はい。」


調査中であったにも関わらず、大統領の耳に入ったということは、政府高官のうちの誰かが耳打ちしたに違いないとアシデアは思った。独裁といっても一枚岩では無いこの国では、いつ誰が裏切るか分からない。互いに足下をすくわれないようにビクビクしながら生きているのが彼ら政府高官達だった。


「馬鹿者っ!!!あれ程、マークしておけと言ったのにどういう事だっ!」


「アトラの街から徒歩で出て行ったのは分かっておりますが、その後は足を途絶えております。

恐らく、ツナクの届かない場所に移動したものと…」


「言っている意味が分からんっ!何故見失ったのかと聞いているだっ!」


「は、はい、ですのでツナクの届かない場所に…」


「意味が分からないと言っているのだっ!

何故人を派遣しないのだっ!貴様っ!怠けているのでは無いのかっ!」


「そ、そのようなことは決して…。現在調査を進めていますので…。」


アシデアは後出しで何とでも言える大統領の言葉に腹を立てたが、おくびにも出さずに頭を下げた。

すると、扉の向こうから声が聞こえた。


「大統領っ!緊急報告ですぞっ!」


この声は、もう一人の補佐官、バンサルだとすぐに分かった。


「何だっ!入れっ!」


バンサルは部屋に入ると、アシデアを横目で見てニヤリとしたので、彼が耳打ちした犯人だと分かった。


「大統領っ!お聞き下さい。アシデア殿が見失ったあの例のムーのカフテなんとかが見つかったのですっ!」


アシデアは自分を貶めるためにやって来たのだと分かったが、


「おぉ、バンサル殿、さすがです。大変お手数をおかけしました…。」


と歯を食いしばりながら謙遜したふりをした。


「いいやぁ、アシデア殿、とんでもないっ!私めの力を持ってすれば…」


「馬鹿者っ!!!それでどこにいたのだっ!!」


「は、はい、その…」


-----


バンサルの報告通り、アトランティス国の軍港では、カフテネ・ミルのゲリラライブが始まっていた。


「( こんにちは~っ!アルで~すっ! )」

「( こんにちは~、シアムですっ! )」


「二人合わせてカフテネ・ミルですっ!」

「二人合わせてカフテネ・ミルですっ!」


二人は決めポーズを軍人達に向けた。


突然、二人が現れると何でもない軍港が七色に変わり、軍人達は目の色が変わった。

その情報はあっという間に軍人同士で情報共有されて軍港に居る軍人達はおろか、戦艦に居た者、また、その関係者達も一斉に集まって来た。


「おおぉぉぉ~~~っ!」

「カフテネ・ミルだぞ~~っ!」

「きれいぃッ!」

「すてきぃッ!」

「シアムぅぅぅぅ~~ッ!」

「アルぅぅ~ッ!」

「かわいいッ!かわいいッ!」


軍人達は、アトランティス語特有のイントネーションでナーカル語を使い、突然現れたカフテネ・ミルに興奮した。


「今日は、アトランティス国の軍人さん達に向けてライブを開いちゃいま~すっ!」

「みんな筋肉もりもりで格好いい、にゃっ!」


軍人達は褒められてこれでもかと筋肉を見せる者まで現れた。


「見てクレェェェッ!」

「うぉぉぉぉ~っ!」


「う…。」

「にゃ…。」


シアムとエメは引いてしまいそうになったが、なんとか持ち直すと、


「ふ、普段から緊張感のあるお仕事だと思いますけど、今日は私たちの歌を聴いて癒やされてくださ~いっ!」

「軍人さんって怖いと思っていたけど、ここに居る人達はそんなことないねっ!仲間の方も呼んで一緒に聞いて下さいねっ!」


アルとシアムは軍人を集めるため、必死に褒め殺しを行った。

そのお陰か、ますます軍港中の軍人達が集まり、あっという間にごった返しの大盛況となっていった。


(エメさん、ホセイトスさん、カミをどうかよろしくお願いしますっ!!

ラ・ムー様、どうか私たちをお守り下さい。どうか、どうか…。)


シアムは、軍人達の前で歌いながら心の中で、エメとホセイトスの救出チームの成功を願った。


-----


大騒ぎになっている軍港を尻目に、エメとホセイトスは、ロウアの捕らわれている軍艦を探した。

二人は、ムーのバーチャル機能で軍人と同じ服装をしていて、顔も別人になっていた。


だが、アルとシアムの方向に向かう軍人達とは逆方向に向かっているため思うように動けずにいた。


「ちっ!動きづらいぜ…。…おい、あの軍艦か?」


「違う、中の様子が違っているわ。」


エメは時より止まっては、軍艦をハッキングしてスキャンしていたが、目的の奴隷軍艦がなかなか見つからなかった。

しかも軍人達がぶつかってくるため集中できずにいた。


「おいおい、見学用に公開されたような軍艦だったんだろ?どうしてこんなに見つからないんだよ。」

「知らないわよ…。う…。うん?あぁ、あったわ…。」


そんな混乱状態だったが、シアム達からかなり離れて波止場にぽつんと浮かんでいる軍艦がそれだと分かった。


(この感覚、そう…。あの不愉快な感覚。あの時は、デブの政府関係者が片腕の女の子を犬のように扱って…。)


エメはかつてムーでアトランティス国を調べているとき、この軍艦を調べたことがあった。

まさかその軍艦にロウアが捕まっているとは思ってもみなかった。


軍艦の見た目は見学用だったためか綺麗に装飾されていて、その軍艦の後ろにアトランティス国の国旗がはためいていた。


(この国の醜さそのもの…。)


エメは軍艦をギッと睨め付けた。

そして、その見た目とは真逆の、腐りきった官僚と軍人によって教育と称して人を人として扱わず臓器工場にしている、軍艦を見て吐き気がした。


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