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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
カフテネ・ミル
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母親への思い

 それから半年も過ぎた。

 ロウアは、ほぼナーカル語を身につけていて生活に困ることは無くなっていた。勉強の甲斐もあって半年後の学力判定試験で15歳クラスと判定された。


「あうん……、お兄ちゃん、別のクラスになっちゃうの……?グスッ……」


 ホスヰはロウアが別のクラスになることが寂しいらしく、今にも泣き出しそうだった。


「ホスヰ、僕は二階のクラスになるけどまた一緒にお昼ご飯を食べたりしようね」


「うんっ!!」


 ロウアはホスヰがまた寂しさのあまり病気になってしまうのでは無いかと思ったがそれは杞憂に終わった。あれからホスヰは元気な10歳の女の子として学校に通っていたからだった。学校に休まず来るようになって同級生の友達も徐々に増えてきたのでロウアに頼ることも少なくなっていたのだった。ロウアはちょっと寂しくもあったが、元気になったホスヰを見てとても嬉しくもあった。


 15歳クラスに戻ることが決まった夜のことだった。自宅に戻って自室でしばらくすると、魂のロウアが暇を持て余して話しかけてきた。


(お前、そこそこ頭良いんだな)


(そこそこって……)


(俺ほどじゃないけどな)


(あぁ、そうかい……。少しは褒めても良いんだよ……?)


 魂のロウアは知ったことかと別の話を切り出した。


(ダイガクとか言ったか?お前の時代だと頭が良い奴が通う学校なんだっけ)


(そうそう、大学ね。

頭が良いから通うのかどうかは分からないけど……)


(そうなのか?そこに行く奴らは頭が良いのかと思ったんだが)


(大学に行くのが一般的なだけで、大学に入らなくても頭の良い人はいるよ)


 魂のロウアは、池上が大学に通っていたから頭が良くて、だからこの時代でも学力が上がったのだろうと考えているようだった。


(僕の場合、それ以前に勉強のやり方をすごくたたき込まれたからなぁ……)


 ロウアは、池上だった時代にホームレスの一人であるDさんに、勉強について色々と教え込まれたのを思い出した。

Dさんはホームレスになる前、大手大学受験の塾で講師をやっていたのだった。


(ふ~ん、ほーむれすねぇ。そんな奴はこの時代にはいないな。いや、植民地にはいるかもな……)


(植民地……か、この国は植民地が多く持っているんだよね……)


(ああ、そうだ。そのうち色々と分かるかもしんない。

この文明の悪いところだ。みーんなやることが無いから享楽にふけるんだ)


(享楽で植民地……?)


(あるやつは快楽にふけて、あるやつはゲームに没頭して、あるやつは海外を侵略することを楽しんだりしている……)


(……侵略を楽しむ……?)


(ひでえ話だと俺も思うけど、暇なんだ、みんなさ)


 ロウアは侵略ゲームについてどこかの文献で見て気になっていた。ロネントを戦闘力のある個体に改造して自分の手を汚さずムー大陸の周りの未発達な文明の人々を苦しめる。そんな信じられないような事をしている人がいるのだと。ロウアは、もう少し自分で調べる必要があると感じていた。


(そんな輩には関わるなよ。

何にせよ落ちこぼれないように勉強はしっかりとやることだな)


(あぁ、分かったよ)


「ロウアっ!ご飯だよ~っ!」


 母親が夕食の出来たことを教えてくれたので、一階に降りて食卓に座った。


「今日はお父さんもカウラもいないから、二人っきりだね」


「うん」


 母親の言うとおり、今日は二人だけの食事だった。ただ、父親が"今日は"いないというが、池上が転生してから出会ったことが無い。


(どんな父親なんだろう……)


(ん?どうだろうな~。

忙しくて全然家に帰って来ないってのは確実だぜ?)


(そうなんだ。何の仕事をしているの?)


(カウラと同じでナーカルの神官やってるよ。

外回りが多いって事だけど、よく分からん)


(そ、そうなんだ……)


 ロウアは神官といってもビジネスマンみたいなんだと思うのだった。


「全くあの人は子どもが怪我したというのに戻って来ないなんてっ!」


 目の前の母親は、そんな父親の愚痴をこぼしていた。


 ロウアは、この母親に対しては最初、ひどい恐怖心があった。池上だった時代の母親から酷く虐めを受けたからだった。


 その母親は、息子を散々虐め抜き、息子の精神状態が不安定になっても心配するどころか、精神科病院に押し込めてしまう始末で、もちろん、自分は見舞いにすらほとんど行かなかった。


 そのような幼い頃に植え付けられた恐怖心は、なかなか消えるものでは無い。


 ロウアは、母親の恐ろしい形相が急に浮かんでは恐怖にすくむことがたまにあったので、愚痴とはいえ目の前で怒った姿を見ると怯えてしまうのだった。


「どうしたの?食べないのかい?」


 そんなことを知るよしも無い目の前にいる母親は、どこにでもいる母親のように子どもを心配した。


 ロウアはその差に戸惑うのだった


「う、うん、だ、大丈夫……。食べるよ」


「食欲が無いのかと思ったよ。腕だってもう少しで完治するんだろ?頑張って食べないと」


「そうだね。先生ももうすぐ治るって話していたよ」


 ロウアの右腕は海で溺れかけた時に何故か失われてしまっていたが、再生治療が進んでいるこの時代では、腕が切れたぐらいなら治療して元に戻すことが出来た。

 ただ、治療したところから再生した腕は何故か色素が無く、真っ白になっている。


 あれから治療はかなり進んだが、指と手のひらが"生えてくる"ところだったので、微妙だが動かすことの出来る赤ちゃんのような手が生えてきているところだった。


「あんまり気持ちのいいもんじゃ無いね……」


「自分でもそう思う……」


「あははっ!」


 ロウアは、母親の笑顔を見るたびに、少しずつだけど自分の中にあった恐怖心が消えていくのが分かった。


「だけど……」


「……うん?」


「お前が生きていてくれて、本当に良かった……」


「……う、うん」


 ロウアは心が震えたのが分かった。母親は、涙を手で拭き取ると恥ずかしそうに自分の食器を片付けるのだった。


「いやだ、まだ残っていたわ……。何しているんだろうね……」


 そう言うと、食器を持って戻ってきた。ロウアはその光景を微笑んで眺めていた。母親は少し恥ずかしそうにしていた。


「何だよ……、そんなにm……


 母親が話し始めた瞬間、また時間が静止した。


===== ピ~ッ、ガラガラ…… =====

===== ピ~ッ、ガラガラ…… =====

===== ピンポンパンポ~ンッ! =====

===== 未来が入れ替わりました~っ!=====


「ま、またっ!」


 唐突な"声のチャイム音"が静止した空間にまた響くのだった。


2022/10/11 文体の訂正


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