アイドル談義
アトランティス国の国際公演で公演を終えると、三人は昨日のように空を飛んで身を隠そうとした。
だが、やはり、同じようにどこにでもある監視カメラが三人を追い続けているため、ファン達にすぐ見つかってしまった。
その度に、また別のところへ移動するということを何回か繰り返した。
「あぁ、あそこにもあるよぉ~。」
「にゃにゃ…っ!逃げ切れない…。」
「仕方ないっ!うるさくなるけど…。」
エメはそう言うと、ヘアピンを外して三人が降りようとしているビルの谷間で待ち構えている監視カメラをハッキングして一斉に動きを止めた。
「今のうちよっ!」
エメの合図で降りると三人はすぐに元の観光客に変装し、何事もなかったかのように通りに出た。
後ろを振り返ると監視カメラが再び動き始めるのが見えた。
「すごいよっ!エメくんっ!」
「ありがと、にゃっ!」
アルとシアムは、エメに感謝した。
「どういたしまして。しかし、ストーカー…、じゃない、ファンの追跡でおかしくなりそうね…。
あぁ、ロネントの声がうるさい…。」
エメはそう言うとヘアピンを再び髪に挿した。
「そだね~。まぁ、嬉しいけど、しつこいのはイヤだなぁ。」
「学校で待ち受けていた事もあったよね…。」
「だね~。あれは困ったな~。」
「ねぇ、エメさん、そういう人達のことをロウア語で"すとーかー"って言うのか、にゃ?」
シアムはエメがさりげなく言いかけたストーカーという言葉について聞いた。
「まぁね。(英語だけど…。)」
「ファンは好きだけど、すとーかーって人達は嫌いっ!」
「すとーかー嫌い、にゃっ!」
アルとシアムは、早速、ロウア語なる現代語を使ったのでエメは苦笑いをした。
「だけど、あなた達って歌って踊って、変なポーズもして恥ずかしくないの?
どうしても理解できないんだけど…。」
エメは、ゲリラライブの歌や踊りを思い出すようにそう言った。
「恥ずかしい?」
「恥ずかしいとは思わない、にゃ。」
二人はエメの疑問に首をかしげた。
「そうなの?どうしてよ。
自分を美少女とか、おしとやかって挨拶していたけど恥ずかしくないわけ?」
「あれは~…。
そうかもねっ!ゲラゲラッ!」
アルは、そう言われて笑ってしまった。
「…改めて言われると恥ずかしいかも…。にゃにゃ…。」
シアムは顔を赤らめた。
「なによ、恥ずかしいんじゃない。」
エメにそう言われると、
「でもさ~、見てくれる人を喜ばしたいからさ~。」
「そう、にゃ。ファンの人達には、もっと楽しんでもらいたいよねっ!」
二人はエメの疑問に答えるようにそう言った。
だが、エメはそう言われてもピンとこなかった。
「はぁ~、喜ばしたい?
あんな、ポーズを決めてでも?
う~ん、どうして喜ばせたいのよ?
下手したらあなた達を襲うような人も混じっているわけでしょ?」
「う~、そうかもだけど、ほとんどの人は、楽しみにしてくれてるよぉ。」
「そうですよ~。」
「どうしてそこまで一生懸命になれるのか分からないわ。
言っちゃ悪いけど、ただのお遊戯でしょ?」
そこまでエメに言われてしまってアルとシアムも改めてエメに向き合って話すのが良いのだと思った。
「やだやだやだ~。
エメくんは、しょうがないなぁ。」
「そうですよ~。さすがのエメさんでもお遊戯なんて言ったらいけませんっ!」
「う~ん。」
「私らも手を抜こうと思えば出来るけど、そうするとすぐにお客さんは楽しくなくなっちゃうんだよぉ~。」
「そうそう。
同じアイドルをやっている人でも歌を練習しなかったり、踊りを磨こうとしない人もいる、にゃ。
そうしているとお客さんは会いに来てくれなくなってしまうの。」
「んだね~。仕事がなくなってしまうんだよね~。
どうしてか不思議だけどさ~。」
「仲の良かったアイドル友達も居なくなってしまった、にゃぁ…。」
「…つまり、あなた達は常に努力していると…?」
二人に説明されたが、エメは二人が何を努力しているのかよく分からなかった。
普段の彼女達を見ていて、何かしているとは思えなかったからだった。
「そうだよぉ。
んまぁ、努力っていうか日常になっているだけかもだけど。」
「努力が日常?」
アルにそう言われてエメは更に分からなくなってしまった。
「昨日の夜だって、シアムと二人で今日はどうしようかって話し合ったし~。新曲についても話したし~。」
「あのポーズは直前で決まったけど、にゃっ!」
「あははっ!とーとつに決まることもあるのだ~っ!」
「ふふふっ!」
だが、エメは、
「えっ?いつよ?」
と、二人と一緒に居た昨日のうち、どこでそんな話をしていたのかといぶかしがった。
「お風呂に入った後、眠る前ですよ~。ツナクトノで、アルちゃんとお話ししていたの。」
「そ、そうなの?」
シアムにそう言われてエメは驚いてしまった。
「そうだよぉ~。こ~んな打ち合わせみたいのを、毎日、一時間ぐらいやってるよね~。」
「そうだねっ!ライブとかコンサートの前は、もう少し、お話しするねっ!」
「知らなかったわ…。」
「んま、だけど、エメくんは、防衛係だからそれは私らに任せて欲しいのだ~。」
「うん、うんっ!頼れるお姉さん、にゃっ!」
「お婆さんだってぇ~っ!」
「アルちゃん、酷いっ!」
エメは、後ろから二人が楽しそうに話すのを聞いていて、
「はぁ~、まぁ、お婆さんでも何でも良いけど、あなた達って何だかすごいのね。」
と感心するようにそう言った。
「すごくなんてないよぉ~。最初は、私たちもよく分からずやっていたしね。」
「最初は訳も分からず、社長さんに言われた通りにやっていた、にゃ。」
「だね~。」
「はぁ~。まぁ、社長さんって人があなた達を推すんだから、そうなんじゃないの?」
「あんときは一生懸命だったけど、面白くなかったなぁ~。」
「お、面白くなかった…?忙しかったから?」
エメは何が面白くなかったのだろうかと思った。
「そうにゃ。
始めは私たちが歌を作ってツナクで発表してすごく楽しかった、にゃ。
でも、社長さんがそれを全部準備してくれるようになって、それはありがたかったけど、なんか違うな~って。」
「だね~。な~んか、違うって思ったよね~。」
アルはシアムに同調するようにそう言った。
「それが面白くなかったということ…?
でも、それが社長さんのお仕事でしょ?言われたとおりにやっていれば良いのでは?」
「う~ん、でも、エメさん、それってただのお人形さんだと思ったの、にゃ。」
「お、お人形…?」
「うん。ただのお人形さんなら、誰でも良いんじゃないかって…。」
「んだね~。うちらじゃなくて、変わりならいくらでもいるじゃんってね。」
「ま、まぁ、そうかもだけど…。」
「だから、途中から私たちの意見を言うようにしたのっ!
最初は、反対されるかと思ったけど、ちゃんと聞いてもらえたよねっ!」
「そうそう。それからはすごく面白くなってきたっていうか。
前みたいに私たちで歌も作って、それを社長さんに聞いてもらって、意見もらって。
それで踊りを教えてもらってっ!」
「うんっ!そうだねっ!」
「……。」
「それでね。お人形さんを卒業した後に、何で頑張るのかって事も考えたのっ!」
「うん…、それで…?」
「それって、私たちを見てくれる人達のためってことに二人で気づいたのっ!」
「だねっ!うちらが頑張るのは、ファンのためなのだよ。
だから、恥ずかしさってのは、とっくに無くなっちゃったのだ~。わはは~っ!」
「……。」
エメは、二人のように一生懸命やっていても落ちぶれていくアイドルはいるだろうと思った。
だけど、彼女達が輝いて見えるのは何故だろうかとも思った。
運が良いだけではない、何かがあるはずで、それは生まれる前の転生輪廻で磨かれた魂の輝きではないかと思った。
それこそ永遠に彼女達は、自分達を磨き続けていたのでは無いかとエメは思った。
そして、それは、自分が孤児院の為に販売したストウフと似ているのではないかとも思った。
あの時、もし自分が恥ずかしいと思って行動を起こさなかったら子ども達はどうなっていたのかと。
(あの時は、切羽詰まっていたし、追い込まれていた…。でも、それだけ?
それだけのために私は頑張ったの…?)
「あれ、エメくん、私ら何か偉そうだった…?」
エメが急に黙ってしまったため、アルは怒らせてしまったのかと思った。
「…いいえ、あなた達のすごさが分かった気がするわ…。」
「なぬ?
え、え~っと、エ、エヘンッ!」
「そんな、照れるにゃ…。」
エメに褒められてしまって二人は少し戸惑ってしまった。
「お遊戯なんて言い過ぎてしまったわ。ごめんなさいね。」
エメは申し訳ないと思ったのか珍しく謝ると、
「私も何とかやってみるわ。見ていて頂戴ね。」
と、アイドル活動について改めて真剣に取り組むと宣言した。
「おぉっ?!すごいぞ~っ!」
「はい、にゃっ!期待している、にゃっ!」
三人がそんなことを話していた時だった。
「あ、あの~…。」
と後ろから誰かが声をかけてきた。
(しまったっ!油断したっ!!)
エメは急いで後ろから近づいている者に銃を向けた。




