トロアとの別れ
再び、アトランティス国の首都アトラにあるアトランティス駅に話を戻そう。
「…それでは、私は戻るが、くれぐれも気をつけるように。」
警備部のトロアは、荷物を駅の改札のところまで持ってくるとそう言った。
荷物自体は、自動追尾装置で人の後を着いてくるのだが、シアムとアルとエメの警備をかねて彼はここまで運んだのだった。
「はいっ!ありがとうございましたっ!皆さんによろしくお伝えくださいっ!」
アルは笑顔でここまで守ってくれたトロアに感謝した。
「はい、にゃっ!ありがとうございます。必ず、ロウアを連れて帰りますっ!」
シアムも同様に笑顔になると、手を振った。
「あ、あぁ…。」
トロアは、この三人を守るために残るべきか、まだ迷っていた。
この国が実際に行っている数々の悪事は、警部のトロアにも伝わっていた。
過剰な監視によって国民の自由を奪っていたり、身体の自由な者は国民として扱っていなかったり、国に反逆する者は牢屋に入れてマインドコントロールなども行っていたりした。
それだけに、三人だけにするのは不安があった。
(ただの学習旅行であれば、楽しい思い出だけで終わったろうに…。
この子達は、踏み込んではならない領域に踏み込んでしまったのかもしれない…。)
子どもの彼女たちの代わりに、唯一、戦闘のできそうなのは、エメだけだった。
「エメ、いざというときは、君が頼りだ。何とか二人を守ってくれ。
それでも難しい場合は…。」
「わ~ってるって。すぐに連絡するって。」
エメは、トロアの忠告を遮るようにそう言った。
「あぁ、頼むよ…。すぐに駆けつけるからな。」
「あいよ。」
トロアは、エメの素っ気ない素振りに本当に大丈夫かと思ってしまう自分がいた。
「シアム君、毎晩、報告は欠かさないようにしてくれたまえ。」
「はい、にゃっ!了解ですっ!」
合唱の姿でシアムは、ピシッと答えた。
「ラ・トロア、私も居るから安心してくだされっ!」
アルも自信満々の顔でそう言ってトロアを安心させようとした。
「ば~か、お前がいるから不安なんだろうがっ!」
「むっ!エメくん、うるさいぞっ!」
「はんっ!」
「コラコラ…。喧嘩なんてしないでくれよ…。」
トロアは呆れた顔でそう言うと、これ以上居ても三人が動けないだろうと、駅のホームに戻る事にした。
「それではな。
ともかく、慎重に行動して、危険になったらすぐに逃げるんだ、良いね?」
そして、それ以上の事は言わず、心の中でラ・ムーに祈りを捧げるだけだった。
「は~いっ!分かりました~っ!さようなら~~っ!」
「ありがとうございました~っ!」
アルとシアムはそう言うと、大きくトロアに手を振った。
エメも右手をさらっと挙げて横目でトロアを見送った。
トロアの後ろ姿を見送ると、三人は改札から出て駅前広場に着いた。
彼らがアトランティス駅についた頃は、すでに夕方近くになっていた。
「もうこんな時間か。
んで、ここでやるんだっけ…?」
エメは、嫌そうな顔をしながらそう言った。
「そうにゃっ!
まずは駅前で私たちをアピールするのっ!」
「んだね~。」
「だよね…。はぁ~…。」
シアムとエメの返事は、分かっていたのだが、やはりエメは気乗りがしなかった。
やがて、三人は駅前広場の一角を陣取ると、準備を始めた。
「エメさんは、そろそろ、キホさんでお願いします~。」
「ん?んん…。
あぁ、あぁ、うん、分かったわ。
はぁ~…。」
シアムに促されると、エメは來帆の声に変わって文字通り女性になった。




