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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
舞姫は姦邪の闇に舞う
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出発前:アマミルの不安

アルとシアムは、二人は気乗りしないながらも銃を制服のポケットに入れた。

アマミルは、それを見届けると、意を決してここに来た一番の理由を話し始めた。


「…だけど、だけどね。

シアムちゃん、アルちゃん…、本当にあの国に行くの…?

そんな武器を持たないといけない危険なところよ…。

私は今でも賛成しかねるわ…。」


アマミルは、やはり行くべきではないと思っていて、最後の引き留めに来たのだった。


「…うん、そうだよ。

シアムちゃんの気持ちは分かるけどさ~、カミ君は私たちを守る為にムーへ帰したんだよ?

あんな大蜘蛛の居る国に行くのは、やばいって~。」


イツキナもアマミルと同様に最後の引き留めに来たのだった。


「カミ君は、まだ、あの戦艦の中なのでしょ?

軍人の居るところに潜入するわけだし、何が起こるか分からないわ…。」


事前に神殿の霊体達の調査で、ロウアの居場所は、すでに把握されていた。

学習旅行で見学し、ロウアと別れたあの戦艦に、彼はまだ捕まったままだった。

戦闘員の居る戦艦に、今度は危険な潜入をせざるを得ず、命がけの旅になるのは目に見えていた。


するとシアムは真剣な、どちらかというとムッとした顔になり、アマミルとイツキナをじっと見つめた。


「いいえっ!私はカミを助けに行きますっ!そう決めたんですっ!

危険なのは分かっていますっ!

カミを見殺しには出来ませんっ!

それにアルちゃんもエメさんも居ますからっ!」


シアムの決意は堅く、アマミル達の声は届かないように思われた。


「そ、そうか~…。決意は固いか~…。」


イツキナは、シアムの決意の固さを再確認しただけだとあきらめ顔になって、アマミルの方を向いて何か言えと合図を送った。

それに気づいたアマミルは、もう一つの心配事を言う事にした。


「だけど、エメから情報が漏れたりしないの?国中のロネントと連絡し合えるのでしょ?」


アマミルとイツキナは、ロネントが持つ通信機能でエメの行動がケセロというロネントのボスに筒抜けにならないか心配していた。

その情報をケセロがアトランティス国に流した場合、アルとシアムに危険がおよぶ可能性があった。


「あぁ、その可能性は否定できないぜ?こればっかりは自分で止めようもないしな。

俺から情報が漏れて、あいつが何かしでかすかもしれない。

池上さんの事は、"嫌い"みたいだしな。」


エメは、二人の心配をよそに、さくっとそう答えた。


「あっさりと認めたわね…。」


「危ないじゃ~ん…。そんなら止めた方が良いよ~…。」


アマミルとイツキナは、そう言うと、


「二人とも大丈夫ですよぉ。僕が通信を遮断する装置を作りましたからぁ。」


マフメノは、そう言いながら小さなヘアピンを取り出したので、シアム達を引き留めようと思っていたアマミル達は驚いてしまった。


「えっ?!そうなのっ?!」


「えぇ、そんなの作っちゃったの?

マフメノ君…。君は二人を引き留める気は無いのかい…。」


思わぬところで、二人に責められてマフメノは焦った。


「えっ、えっ…、だ、だって、情報漏れはマズイかと思いましてぇ…。」


アマミル達はため息をして頭を抱えた。


「はぁ~…。」


「そ~いう問題じゃないんだけどなぁ~…。」


逆にマフメノの言葉に、エメの方が強く反応した。


「はんっ?!太っちょ、今なんて言った?」


「だからぁ、通信を遮断する装置を作ったんだってぇ…。」


マフメノは再度説明しつつ、太っちょと言われてムッとした。


「は?まじで?太っちょは、んなもんも作れるわけ?」


「そ、そうだよぉ…。」


エメが繰り返すのでマフメノは、更にふて腐れた。


「この短期間で通信遮断装置を作ったのっ?!

この前まで原理も分からなかったのにっ?!

おまえ、太っちょなのに頭良いのな。見かけによらないわ~。」


「むぐぅ~~…。」


「しかも、お前、その太い指で作ったわけだろ?

どうやったら、そんな精密機械を作れるのさ。

その指だと、細かい作業が出来ないと思うんだけどな。」


マフメノは、自分を馬鹿にするエメに嫌気が指してきた。


「あぁ、もう渡すの嫌になったぁ…。せっかく作ったのにぃ…。」


マフメノがふて腐れて自室に戻ろうとしたので、エメは慌てた。


「ま、待て、マ、マフメノさん…っ!」


エメは來帆の声になって、そう言うと、身体をマフメノに密着させた。


「ぬ、ぬぉぉぉぉぉ~~っ?!」


「わ、私が悪かったわっ!

それを使うと、静かになるのでしょ?

是非、使わせて欲しいのっ!!ねっ?

マフメノさ~んっ!」


エメに言い寄られると、マフメノは欲望むき出しで鼻の下を伸ばし始めた。


「さ、さすが最新ロネント、は、肌の感じがぁぁ…、に、に、に、人間そっくりだねぇぇ、げへへぇぇ~…。

に、匂いも、い、良い良いよ~…。うへへ、えへへ、げへへ…。」


だが、デレ顔になったマフメノが、ふと後ろを振り向くと、憤慨したツクが腕を組んで仁王立ちしていので背筋が凍った。


「せ・ん・ぱ・いっ!!!!一体、何をしているんですか~~~っ!!!」


マフメノは、エメから離れると腰を抜かして、ツクに怯えた。


「ツ、ツク、ち、違うんだぁぁぁ。これは間違いなんだぁぁぁ。

というか、いつ居たの?」


「さっきから居ましたよっ!!!」


「あわわ、あわわ…。」


マフメノが油汗を流していると、エメは通信遮断装置のヘアピンを奪うように取り去った。


「あっ!」


「これねっ!!ありがとう~~っ!」


そして、早速ヘアピンを髪に挿した。


「おぉ?おぉぉっ?!し、静かだ~~~っ!!すげ~~~っ!すげ~~ぞぉ~~っ!」


エメは、騒音に近いロネントの情報の嵐が止んだので感動の声を上げた。


「太っちょ…、じゃない…、マフメノ様~~っ!ありがとうっ!!

チュッ!」


感動したエメは、その勢いでマフメノの頬にキスをした。


「が~~~~、な、何が起こったぁぁ~~~っ!

あり得ない、あ、あり得ないぃぃっ!!!

あり得ない奇跡が、今、僕に起こったぁぁ~~~っ!」


マフメノは顔を真っ赤にして、倒れそうになった。


「な、ななな~~~、な~~~に~~~を~~~しているんですか~~~っ!!!」


これを見たツクは、メチャクチャに怒って、ロネントの部品やら工具やらをマフメノに投げつけた。


「マフメノ先輩なんて嫌いっ!!!嫌いっ!!!大嫌~~~いっ!!!」


「ち、ち、違うよぉ~~、ツクゥ~~。ごめんよぉぉ~~っ!

エ、エメが勝手にやったんだよぉ~~…。」


ツクに怒られて、マフメノは両膝をついて謝るしかなかったのだが、それを見ても涙目なツクは更に道具を投げ続けた。


「何でエメさんにはヘアピンをあげて、私にはくれないんですか~~~っ!!!

何で、何で~~っ!!」


「そ、そこぉぉぉ~~???

あ、アレは静音装置であって…。

…あ、危ないって…、そんなもの投げないでぇ…。

わ、分かったよぉぉ…。同じものを、あげげるよぉ…。」


マフメノがそう言ってヘアピンを差し出すと、ツクは物を投げるのを止めた。


「…ふ、ふ~んだ!

…で、でも、えへへ。

も、もらいますからね。えへへ、えへへへ…。」


ツクは、180度表情が変わって、今度はデレデレの笑顔になった。


ヘアピンをもらって機嫌を直したツクを見て、部員達は苦笑いをした。

そして、いつもの日常が戻ったような気がして、緊張していた空気は和んだ。


「エ、エメさん、言い忘れていたけどぉ。

それは、太陽エネルギーじゃなくて、バッテリーで動くから1週間ぐらいしか持たないんだぁ。」


「大丈夫、大丈夫っ!それぐらいで何とか池上さんを救ってくるからっ!!

ありがとう~~っ!」


マフメノの忠告を聞きつつ、エメは騒音が無くなって静かになった感動を噛みしめていた。


アマミルも苦笑いしていたが、アルとシアム、そして、エメを心配する気持ちは晴れなかった。


------


シアム達の出発の時になると、神官達、そして、女王の姿になったホスヰ達が送り出すために集まってくれた。


「シアムお姉ちゃん、アルお姉ちゃん、エメおにねちゃん、気をつけるでっすっ!

三人には、私達とラ・ムー様がついている事を忘れないで欲しいでっすっ!」


ホスヰは、この一週間で女王としての自覚にある程度、目覚めていた。


「ホスヰちゃん…っ!ありがとう、応援してくれてっ!」


シアムはそう言うと、ホスヰをぎゅっと抱きしめた。


「イケガミお兄ちゃんを連れて帰って来て下さいでっすっ!!」


「うんっ!絶対に連れて帰ってくるからねっ!」


シアムはそう言うと、お腹にぎゅっと力を入れて気合いを入れると、トロアが準備した車に乗った。

アルも集まってくれた神官達に手を振った。


「行ってきま~すっ!!」


エメは奥の椅子に座って、窓の外を眺めているだけだった。


「アルしゃまぁぁ~~~っ!!ぜっだいに、がえってぎてぐださいねぇぇ~~~っ!ぐえぇぇぇ~~…。

りゃむぅぅさまぁぁぁ、みんなぁおぉぉ、おまみょりくだしゃいぃぃぃ。」


ツクは涙顔でぐちゃぐちゃになって、ぐちゃぐちゃな声を出しながら祈りを捧げていた。

ホスヰ達神官も同様に両手を合わせて三人の旅の無事を祈っていた。


アマミルは、遠くまで飛んで行く車を見つめ、これが最後の挨拶だったのではないかと思っている自分を否定するのに精一杯だった。


「行ってしまったわね…。」


「心配するなって~。エメも居るんだしさ~。」


「そうね…。」


そんなアマミルを見かねて、イツキナは励まそうとしたのだが、彼女はそんな素っ気ない返事しか出来なかった。

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