アトランティス国へ
聖域の王室部の長、サクルの協力を得て、シアムは、アルとエメを引き連れてアトランティス国の首都アトラに到着した。
ここまでは、キケロント(空中を飛ぶ列車)を使ったのだが、念のため十二使徒警備部のトロアが同行した。
首都にあるアトランティス駅に到着し、キケロントから降りたアルとシアムは、学習旅行でやって来たときは異なり、ホームを行き来する人達も、空中を飛び回るカメラも、自分達を監視しているのでは無いかと思えて気味悪がった。
「シアムゥ、ここって、こんな怖いところだったっけ…?」
「そ、そうだね…。ど、どうしてだろう…、にゃ…。」
「ほ、ほら、あのカメラとか、こっち撮ってない?」」
「にゅ~…、た、確かに…。」
「あの人とか、こっちをジロジロ見てるよぉぉ…。」
「にゃ、にゃ、にゃ…。見てるにゃ~っ!!」
二人の不安な気持ちを尻目に、エメは、久しぶりに訪れたアトランティス国に興味津々といった様相だった。
「うおっ!あれから100年ぐらい経ったアトランティス駅か。すげー発達ぶりだな。
俺が来たときは、な~んも無かったのにな~。」
「エメ…、君は昔、ここに来た事があったのか?」
トロアは、荷物を降ろしながらエメに話しかけた。
「ストウフを売りまくっていたから、何回も来たぜ?
もう、あの時の商売相手や、政府要人達は、死んでしまっているだろうな~。」
「…そうか、それを聞くと、君は本当にあの"エメ"なのだな…。」
「んだよ、まだ信じていなかったのか?」
「あの歴史に残っている人物とは、とてもじゃないが思えない。」
トロアは、ナーカル校の制服を着ている目の前の少女が天下の大悪党であるとは思えなかった。
「それに、今の君は女性の姿でもあるだろう?
何とも信じがたいのだよ。
声は男性の声だが、女性声になる事もあるし…。
…しかし、その顔は…一体誰の顔なのだい?」
エメは、イツキナが以前使っていたロネントに宿っていたが、その顔は、イツキナとは異なった顔になっていた。
「この時代に来る前の顔と同じにしたのよ。石川來帆という女性の顔。どう?綺麗かしら?」
髪の毛をポニーテールにまとめたエメは、來帆の声でそう言うと、両端が少しつり上がった二重の目でトロアにウインクした。
「私に色目を使うその姿は可愛い少女にしか見えないのに、魂は、あのエメだというのか…。
何とも神の作られた世界は複雑怪奇だな。」
トロアは、あきれ顔でエメを見つめた。
「ほ~んと、そうね~。中身も男と女が同居しているしね。
自分でも呆れちゃうわ~。」
エメは肩をすくめながら、もう一度ウインクした。
そして、身体を震わせて怖がっているアルとシアムの方を向くと、
「二人ともあんまり怖がっても仕方ないわよ。このカメラは、私たちじゃ無くて国民を監視しているだけみたいだし。」
と言って安心させようとした。
「う~…。エメ君は通信機能が無いのだろう?どうして分かるのだよ~。」
アルは、エメの髪飾りを見ながらそう言った。
「そんなの見ていれば分かるわよ。」
「本当?」
「ほら、カメラさんは、あっちの方に行っちゃったわよ?」
「あ、ホントだ~。」
アルは、遠くに行ってしまった管理カメラを見て一安心した。
「エメさんは、すごい、にゃ。」
「やだな~っ!あははっ!」
急にシアムが褒めたので、エメは吹いてしまった。
「すごくなんてないわよ。
あなた達は、気にしすぎよ。
私たちは来たばかりだし、こちらを監視しているわけはないわ。」
「そ、そうですね…。」
シアムが感心すると、
「んで、どうなのさ。通信遮断装置っていうのは~。」
とアルがエメに聞いた。
「いや、ホントに静かになって感動しているわよ。
あの太っちょ…、そう言うと怒るわね…、えっと…、マフメノに感謝しないとね。」
エメは前髪を押さえるために付けている飾り気のないヘアピンを触りながらそう言った。




