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妄想はいにしえの彼方から。  作者: 大嶋コウジ
電気人形は人間の夢を見るのか?
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とらわれの魂4

翌日、エメは再度農場を訪れた。

中年女性の宿ったロネントは、完全に破壊されていて粉々に近い状態だった。


<お、おばさん…。>


だが、その魂はロネントにとらわれたままだった。

通信方法も無いはずだが、エメには声が聞こえた。


<來帆ちゃんっ!!!來帆ちゃんっ!!来てくれたのね?>


<う、うん…。>


<ね、おばさんをどうにか助けてくれない?。>


<……。>


<來帆ちゃんなら出来るでしょ?

…私の声を聞いてくれたのは來帆ちゃんだけなのよ?>


<…そ、その…。>


エメは破壊されたロネントを目の前にしてどうにも出来なかった。


<た、助けてって言ってるでしょっ?!

ねぇ、お願いだからっ!

お願いよ、助けてっ!

來帆ちゃんっ!來帆ちゃんっ!!>


それ以降、中年女性の叫び声は、エメを苦しませ続けた。


-----


「來帆ちゃん?來帆ぉぉぉぉ~~っ!!聞いているんだろっ!!!

助けてって言ってるでしょっ!!!何で無視するんだっ!!」


-----


「何て薄情な子なんだぁぁっ!!來帆ぉぉぉぉ~~っ!!どうして来ないんだぁぁぁ~~っ!!

どうにかしろよぉぉぉお~~っ!!早く助けてよぉぉぉ~~~。

來帆ぉぉぉぉっ!!!聞こえないのかぁぁぁぁぁっ!!」


-----


「來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!

來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!

來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!來帆ぉぉぉ!」


-----


エメはそんな中年女性の事を思いながら、


「あなた達にもこの声を聞かせたいわ…。

おばさんは今でも苦しんでいる…。

地獄で苦しむ人達の声にそっくり…。

そんな声が常に聞こえ続けるのよ…。」


と、アマミル達や、神官達、そして、天使長達に言った。


そして、エメは黒いビー玉のようなものをどこからか取り出すとみんなの前に突き出した。


「この黒い水晶玉が何なのか分かるか、お前たち…?」


「…そ、それはなんだよぉぉ…。何か気になるよぉ…。」


マフメノは、何故かその水晶玉に惹かれている自分に気づいた。


「太っちょ、良い事教えてやるぜ…。これがロネントで使っている演算装置ってやつだ。」


「えぇっ?違うよ。もっと大きいよぉ…。もっと大きな箱だってばぁ…。

それじゃぁ、装着できないよぉぉ…。」


マフメノだけではなく、この場に居る者達もロネントなどで使われる演算装置について教科書などで見ていたり、実物を見ていたりしたから、エメの言葉を理解出来無かった。


「…だから分かっていないって言ってるんだ。

お前らが知っている"演算装置"は、これが壊れないようにするための"ハコ"なんだよ。」


「な、なんだってぇ?そんなものが中に入っていたのぉ…?」


マフメノは、ブラックボックスになっているロネントの演算装置を壊そうとした事があったが、絶対に破壊されないような頑丈なもので包まれていたのを思い出した。


すると、ツクの顔が青ざめ始めていた。


「…そ、その黒い水晶玉…、もしかして…。」


「ツクちゃん、どうしたの…?」


アマミルは、どうしたのかと思った。


「やだやだやだ~っ!も、もしかして、あの黒いのってカミィの力を奪ったやつじゃないぃ?」


「えっ?!」

「にゃっ?!」

「あうんっ?」


アルの気づいた事実に一同は驚愕した。


ツクはすでに気づいていたようだった。

かつて、ロウアの霊力を無くすために自分が彼の胸ポケットに入れたもの、それがまさに目の前にある黒い水晶玉だった。


「こんな玉っころにどんな力があるのか知らないが、こいつが魂を呼び寄せるんだっ!

どうしてくれるんだよ…。」


「…ちょっと待ってよっ!その黒い玉に誰か宿っているって言うの…?」


イツキナの質問にエメはじっと黙った。


「ま、まさかっ!あなたがさっき話した女性じゃないわよね…?」


エメは何も答え無かったため、そうだと暗黙に認めたのだと誰もが思った。その事実を知ったこの場に居る者は全員、背筋が凍った。


「エ、エメとやら…、その水晶玉を渡してください…。私たちで調べさせて下さい…。」


「はんっ!見た事もないって顔しやがってっ!」


エメはそう言うと、また大事にその水晶玉を掴んだ。


「エ、エメさん…、どうかお貸し下さいませ…。大事にいたします…。」


いつの間にか現れた側近の一人であるセソは、厳かにエメにそう言うと、エメは、じっと黙ってその水晶玉を渡した。


「エメ…、ちょっと質問があるんだけど…。」


アマミルは更に質問を重ねた。


「…んだよ…。」


「あなたの同時代の魂達は何人ぐらいここに居るの…?」


アマミルがそう聞くと、


「さぁな?数えた事なんてないわ…。

太田町の人口が20万人だから半分の十万人ぐらいってところかしら…。」


エメは來帆の声で答えた。


「じゅ、十万人…っ!?」


イツキナは驚愕の声を上げた。


「地震で亡くなった人達は幸いだったかもしれない…。

生きていたためにあんな意味不明な…ものに…吸われて…。」


エメは苦虫を噛み潰したように不快な顔をした。


「さっき、話した"ふらっくほうる"ってものに吸われてしまった人達がそれだけいたってことね…。」


アマミルは想像も付かないほどの未来人達がロネントに宿っているのだと思った。


「…どちらにしても私が話したことだし、信じてもらえるとは思っていないわ。

さっきの水晶玉もだけど、他のロネント達も調べてみては?」


エメは少し挑発するようにそう言った。


「そ、そうさせてもらいます…。」


サクルがそう言うと、イツキナは、この場を飛び立つ天使達が多数見えた。


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