ロネントの秘密4
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人形は自分達の秘密を語り始めました。
それは、自分達は人形じゃないという主張のようにも聞こえました。
始めに、彼らは言いました。
私たちは会話をしていると。
次に彼らは、言いました。
自分達は意思を持っていると。
自分達は人間とは異なる社会を作っていると。
つまり、自分達は生きているのだと言いました。
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しばらく沈黙が続いた後、
「生きている…、ロネントは、生きている…。そういう事でっすね…。
そして、身体を自由にして、一つの社会を作ろうとしていると…。」
しばらく沈黙を続けていたホスヰは、ミクヨの意識が残っている状態でそう言った。
ホスヰは彼らの作っている社会と自分達の社会の衝突が始まったのだと思った。
「もう一度、言うぜ?
あの演算装置は人の魂を引き寄せる力がある。そこに"命"が宿るんだ。」
「エメとやら、今、天使達に聞いてみましたが、大陸で亡くなった人達はほとんどが把握できていると言っています。
どこの者が宿っているというのですか?
やはりあり得ないと思い…」
サクルがそこまで居うと、エメは目を瞑りながら話し始めた。
「そりゃそうだ…。
宿っている者ども…人達は、この大陸の人達ではありませんからね…。」
エメは徐々に來帆になりつつそう言った。
「そ、それは誰であると言うのですか…?
アトランティス国など、他の大陸の者達ですか?」
サクルが言わなくても誰もがその魂達の出所を知りたかった。
「…いいえ、違うわ。」
エメは首を横に振った。
「で、では誰なのですか?」
「…その者達は…未来人です…。
池上さんとか、私がいた未来からタイムスリップしてきた魂達です…。
…未来人が、この時代のロネントに…宿っています…。」
エメが話した事実にこの場にいた者達は驚愕した。
「えっ?な、なぁに?」
「へっ?!み、未来から来た人達ですってっ?!」
「やだやだやだ~っ!そんな~…。」
「にゃっ?カミと同じ時代の…?」
アマミル、イツキナ、アルとそしてシアムはあり得ないといった顔をした。
「あ、あうんっ?あうんっ?
そ、そんな、そんな、そんな…。み、未来からでっすか…?
未来の魂達が、この時代のロネントに…?
ど、どうしてそんな事が起こるのでっすかっ?!」
ホスヰがそう言うと、エメはその理由を語り始めた。
「私達はブラックホールという宇宙にしかないような天体に吸い込まれたの。」
「ふらっくほうる?エメおにねちゃん…、それってなんでっすか?」
ホスヰは濁音の無いナーカル語で聞き慣れない言葉を繰り返した。
「あぁ、ここの言葉は濁音が無いから発音できないのね。
光さえも吸い込んでしまうような宇宙にしか存在しない天体よ。
それが私が居た時代に現れたのよ。
どうしてか私も知らないけどね…。
そいつに"私たち"が吸い込まれたってわけ。」
「カ、カミとあなたと、未来の人達…。
カミは自分だけが飛んで来たと言ってた…にゃ…。」
シアムがそう言うと、
「そうかもしれないわね…。後から私には気づいたみたいだけどね。
池上さんは、今、アトランティス国に捕まっているんだっけ…?
お話しが出来ないわね…。」
「で、ですが、その不思議な天体は本当に存在するのですか?
この場に居る天使達すら知らない天体です…。」
サクルはブラックホールなどという天体は知らないと言った。
「この時代は意図的に宇宙について調べないようにしているでしょ?
この聖域を知られないようにするためって、100年前にあなた達の将軍様に言われたわ。
だから、宇宙に関する研究が遅れているのよ。
他の科学技術は、私たちの未来よりも遙かにすぐれているのにね。」
「…で、では、そのような天体があるとして、吸い込まれるとどうして、ここに来るのですか…?」
「…私も詳しくは分からないわ。
というより、私たちの時代の科学者達も知らないと思うわ。」
「…ど、どうして…?」
いつの間にか空は落ちて、星々がきらめいていた。
エメは、宇宙のある空を向いた。
「私の時代では、ブラックホールに吸い込まれた物質は何処に行くか分からないと言われていたわ。
ホワイトホールと呼ばれる出口がどこかにあると言われていたけど、そんなの誰も知らないし、証明も出来なかった。
あんなものに吸い込まれた人なんて居ないもの。
…宇宙に存在すると言っても、光の速度で何万年も先にある天体なのよ?」
そして、みんなの方を見て大きなため息をついた。
「はぁ…、私も、よくは分からないけど、肉体は摩擦熱で燃え尽きて、"中身"だけがタイムスリップしたってわけ。
そして、魂を失った肉体に上手く宿ったのが私と池上さんということ。」
「…ほ、他の者…、他の者もその天体に吸い込まれ…、それでロネントに宿ったと…?」
サクルは確認するように聞いた。
「えっとね…、私たちが吸い込まれる前に街中の人達が吸い込まれていたの…。
それは私も見ていた…。
生きていた人だけじゃない…、地獄の悪魔達も同じようにね…。」
「な、なぁに?それなら…、大陸中にいるロネントに宿っている魂達って…。」
アマミルは言葉を失いかけた。
「…ご想像の通りよ。
行き場の無い魂達は、ロネントに吸い込まれるように宿っていったみたいね…。
私みたいに100年も前に来た者もいたかもしれないし、何処に行ったのか分からないものが居るかもしれない。
都合良く宿るための"器"があるわけじゃ無いから、どうなってしまったのか…。
…もしかしたらどこかで彷徨っているかもしれない…。可哀想な人達…。」
「そんな酷い事って…。」
「可哀想、にゃ…。」
アマミルや、シアムもだが、この場にいる者達は胸が張り裂けそうになった。
「…ど、どうやってあなたはそれを知ったのよ?」
今度はイツキナが聞いた。
「さっきも話したけど、知ったのはつい最近よ…。
この身体に宿った後、しばらくしてから、さっき話した"共有"って奴で呻き声が聞こえたから調べたの。
…そうしたら知った人が居たわ…。未来でお世話になったおばさんだったわ…。」




