ロネントの秘密3
エメの身体は、かつてイツキナが使用していたリモート操作用のロネントだった。
顔は、イツキナとそっくりだったため、ムー文明特有のホログラフィック機能を使って別の女性の顔にしていた。
それが、我々と同時代にいた石川來帆に似ているのは、偶然では無いだろう。
目が少しきつめな來帆の顔を持ったエメは、ロネントについて更に語り始めた。
「…つまり、ロネント達の中心にある演算装置は、魂を引き寄せる能力があるって事だ。
あいつは魂なんて信じないけどな。」
「そ、そんなこと…、あ、あり得ませんっ!演算装置が人の魂を呼び寄せるなんてっ!!」
サクルがそう言うと、
「…ラ・サクル…、エメの言った事は正しいですかもしれないです…。
私たちも何度かそう言ったロネントに遭遇しました…。」
アマミルは自分も含め、部員達が遭遇した魂の宿ったロネント達を思い出しながらそう言った。
「先ほど、メメルトと言いましたが彼女のことですか…?
も、もしかして、私たち女神候補生にこの前、加わって、そこに居る…。」
「…は、はい…。」
アマミルがそう返事をすると、
「…ラ・メメルト、そうなのですか?」
サクルは、この場に居るメメルトに話を聞いた。
「…そ、そんなことがあったなんて…。」
イツキナにはメメルトが頭を下げながら報告が遅れた事を謝っているのが聞こえた。
「ラ・サクル…、他にもここに居るシアムの妹、シイリという者が同じようにロネントに宿っていました…。」
アマミルは更にシイリの事を伝えた。
「えっ!他にも居たのですか…?」
「はい…、ですが、彼女はこの前天国に還り、現在は生まれ変わっています。」
エメは、メメルトの事を大陸中のロネントから密かに検索した。
(シイリ…、シイリ…、あぁ、見つかった。
一度、あいつに目を付けられてイケガミに助けてもらっているのか。
あいつ…、しばらくの間、そいつを通してイケガミ達を監視していたのか…。)
だが、エメは彼なりの気遣いで、その事実は伝えなかった。
「そんな事が…。
た、確かに、エメ、あなたもロネントに宿っていますね…。
私はラ・ムー様のご慈悲でそうなってしまったのだと思っていましたが、他にも居るとは思いませんでした…。
で、ですが、演算装置にそんな機能があるなんて…。」
サクルは理解出来ないながらも真実であると思わざるを得なかった。
「…お前たちも経験済みなら話は早いが、俺が言いたいのは、それだけじゃ無いって事だぜ?
演算装置は、全てのロネントに付いているって事を忘れるなよ。」
エメは含みを持たせながらそう言った。
「あ、あぁ…、あぁ…、まさか…、嘘でしょ…。」
アマミルは、今までのエメの話と照合してその内容を理解し、茫然自失になった。
「アマミル…?どうしたのよ…?」
「えっ!えっ!アマミル先輩、どうしたのですか?」
イツキナとアルは心配になってアマミルに声をかけた。
「察しがいいな。
そうだ。一体や二体じゃ無い。もしかしたら数千万体、数億体…。
数えた事は無いが、この大陸中のロネントのほとんどがそうだって事だ。」
「う、嘘だ~…。
い、いや…、そうか、あなたがさっき話していたロネントが考えているという話ってそう言う意味なの…?」
イツキナもアマミルと同様にその意味を理解した。
「た、大陸中のロネントに魂が宿っていると…?
い、命が宿っていると言うのですか…?
あぁ、あぁ…、ラ・ムー様…、ラ・ムー様…、こんな試練をどうしてお与えになったのですか…。」
サクルは嘆きの声を上げながらラ・ムーに祈りを捧げた。
「お前らお得意の霊感で感じなかったのか?
俺には今でも彼奴らの声が聞こえ続けている…。」
「やだやだやだ~っ!エメちゃん、怖い事言わないでよぉ~。」
アルは身体を震わせてそう言った。
「こ、声って…。どんな声、にゃ…。どんな人達がロネントに…。」
シアムは恐る恐るエメが聞こえるというその声、つまり、宿っている者達について聞いた。
「色々だよ、色々…、子どもから老人、男に女…、健康だった奴、病気だった奴、何の罪も無い奴、悪人と呼ばれる奴…。
数え切れない魂が宿っていて、そいつらの声が聞こえるんだ…。
みんな死んでも死にきれない奴らばかりだ。
特に、この世に執着のある奴らは引っ張られやすいみたいだな。
メメルトって奴も何か未練でもあって死んだのか?」
イツキナにはメメルトが青ざめている姿が見えた。
メメルトは何者かに殺されたが、それまでは未熟な自分を後悔する日々を送っていた。
「そうにゃ…、そうだにゃ…。シ、シイリも…、シイリも同じ、にゃ…。」
「この世に生まれたかったって言ってたね…。だから…?」
「う、うぅぅ…。」
アルは、そう言うと泣き出したシアムをぎゅっと抱きしめた。
「シアムゥ…。だけど、シイリは幸せだったんだってっ!最後、幸せそうだったじゃんっ!」
「そ、そうだね…、そうだったね…。だから、また今生まれる事が出来た…。
ありがとう、アルちゃん…。」
シアムはそう言うと、今度は彼女がアルに抱きついた。
「エメ…、あなた、声が聞こえて眠れないと言ってけど、もしかして、それのせい?」
アマミルはエメを哀れさも理解してそう言った。
「…地獄に行った奴は夜になるとうるさいが、一日中うるさいのはロネントに引っ張られた奴らだぜ…。
さすがに頭がおかしくなりそうになる…。
メメルトとかシイリって奴も聞こえていたと思うぜ…?」
「…メメルトが頷いている…。」
イツキナはメメルトを代弁するようにそう言った。
「…シイリ…、そんな事一言も…。う、うぅぅ…。」
シアムは、妹の隠れた苦しみを知って更に涙をこぼした。
「シアムゥ…。」
アルは更に強くシアムを抱きしめた。
「グスッ、グスッ…、エメさん…、あなたも辛い、にゃ…。」
シアムはエメの苦しみも分かったような気がした。
「はん…、これが天下の大悪党の因果応報って奴だ…。」
エメは目を瞑りながら、お手上げといったジェスチャーをしながらそう言った。
「…あ、あのぅ…、それってどの段階の演算子からそうなのぉぉ…?」
今度はマフメノが質問した。
「ふっ、さすが専門家だな。良い質問だぜ。あいつは段階3からだって言ってたな。」
マフメノはそれを聞くと全て理解出来たような顔になった。
「段階3ってほとんどのロネントだよぉぉ…。だからかぁ…。」
「それから、あいつは不自由な身体を自由に動けるようにも改造し始めている。
お前らを襲った清掃用ロネントがそうだ。
思っていた以上に動いていただろ?」
「えぇっ!た、確かにそうだったけどぉ…。
で、でも分解したけどぉ、ふ、普通の清掃用ロネントだったよぉ…。」
マフメノは関節などに特に改造された跡が無かったので理解出来ずにそう言った。
「演算装置には制限が掛かっているんだ。清掃用ロネントなら、それ用。家政婦ならそれ用ってな。」
「そ、それはそうだけどぉ…。」
その情報はロネントの教科書通りだった。
「それを外すのは意外と簡単なんだ。さっき話したゴミロネントを使ってあいつは解除しまくっている。」
奴はロネントを自由にしているってことだ。」
「そんなぁ…。神官にしか解除は出来ないはずなのにぃ…。
ロネントが自由に動き始めたらどうなってしまうんだよぉ…。」
マフメノの言葉は、この場にいる者達の不安な気持ちを代弁するようだった。




