聖域での挨拶
部員達は、警備部の二人に案内されながら中に入って行き、マフメノも肩を落としながらついて入った。
エメは張り切っているのか周りを見渡しては、大喜びしていた。
(こ、ここが…聖域?会社みたいじゃない…。そう言えば、トウミのいた神殿もそうだったか…。)
エメがそう思っていたように、ここは落ち着きのあるような宗教的な部屋とはかけ離れたオフィスの廊下ような場所が続いた。
ガラス張りの壁から見える人達も椅子に座って仕事をしているようなホワイトカラーの人達しか見えなかった。
やがて、廊下の奥にある一室に案内された。
「ラ・サクル、お連れしました。」
トロフはそう言うと、部員達と一緒に今までオフィス風の部屋とは異なる宗教的な部屋に入った。
目の前にはラ・ムーの肖像画が掛けられていて、その前に初老の女性がにこやかに、しかしどこか落ち着いた雰囲気で立っていた。
その横には、二人の女性神官らしく青い色の長いスカートを履いた二人の女性が立っていてこちらを笑顔で迎えていた。
「ご苦労様でした。」
初老の女性は、トロフにそう言うと合掌をして一礼した。
「はっ!ありがとうございますっ!」
「下がってよろしいですよ。また、お願いしますね。」
「はっ!それでは失礼いたしますっ!」
そう言うと、警備部の二人は合掌して部屋を後にした。
部員達は、神官達の威厳のある行動に少し緊張した面持ちになった。
「あなた方が私たちに懇願書を送ってくださったナーカル校の生徒さん達ですね。
私は、サクルと言います。ここで女王様のお世話を任されています。
この二人は、モヱとセソと言います。」
サクルに紹介されると二人の女性は、やはり合掌して部員達に一礼した。
部員達もそれに合わせるように合掌して礼をした。
エメはそっぽを向いていたが、イツキナにせっつかれると適当に合掌して礼をした。
「…あなたがアマミルさんかしら?」
サクルはアマミルの方を見るとそう言った。
「は、はいっ!
アマミルと申します。
お忙しいところ、私どもの声をお聞き頂きありがとうございました。
それどころか、聖域にもお招き頂き、感謝に堪えません。
導いて頂いたラ・ムー様に感謝いたします。」
そう言うと、サクルの後ろのラ・ムーに合掌をして一礼した。
部員達もそれに合わせて合掌して頭を垂れた。
エメもそれっぽく礼をした。
「驚きました。とても丁寧なご挨拶ですね。」
「はいっ!父親にそう仕込まれた…ではなくて、教育されましたので。」
「ふふっ!そうでしたか。
皆さんもとても不安でしたでしょうね。
でも、もう安心して下さい。ここには危険な人は居ませんからね。」
サクルは一同を見ながらそう言ったのだが、緊張しているのが分かると、
「そんなに緊張しなくても良いんですよ。」
と言った。
サクルの言葉は、静かだったが尊厳の籠もった優しい声で、それを聞いたアマミル達を安心させるのに十分だった。
「はい。ありがとうございます。」
アマミルが代表するようにそう言った。
「それにしても、皆さん、優秀な人達ばかり…。」
サクルは再度一同を見た後、感心したような顔をしたが、部員達は褒められた事に驚いて互いを顔を見合わせた。
「アルさんと、シアムさんは…、あぁ、あなた達ね。」
サクルはアルとシアムを見るとニコリとした。
「は、は、はいっ!わ、私が、アルですっ!
え、えぇとあ、あの…、お、お招き、あ、あ、あ、ありがとうございますっ!!」
「にゃ、にゃっ!!アルちゃん、慌てすぎ、にゃっ!
わ、私がシアム…と申します…です…。
そ、その、わ、私たちは、その、ち、地上で、
あの、ア、アイドル的な活動をしておりまして…。
ア、アイドルというのは、え~っと…」
「シアムだってどもりすぎだってぇ~。」
「にゃっ!そ、そんなことないにゃっ!」
そこまで聞くとサクル達は苦笑していたのでアルとシアムは、何も言えなくなってしまった。
「ふふふっ!賑やかなことっ!
お二人は周りを明るくする力がおありのようですね。とても心地よい光です。」
最後にはサクルは、微笑んでそう言った。
「はは~、はは~~っ!」
「あ、あ、ありがとうございます…、にゃぁ…。」
アルは意味不明に両手を上げるとそのまま下げて懺悔して、シアムは恐縮して小さくなっていった。
「あなたが、イツキナさんね?」
次に、サクルは横で笑っていたイツキナに声をかけた。
「えっ!!は、はいっ!イ、イツキナと申します。ほ、ほ、本日はありがとうございました。」
イツキナは自分に声が掛かるとは思わなかったので驚いてしまった。
「…今世は苦労されていますね。でも、よくここまで…。」
「ま、まぁ、そうなんですよね…。
あはは…。みんなのお陰です…って、あ、あれ…?よ、よくご存じで…?」
「ふふっ!また、後でお話ししましょう。」
サクルは優しい目になるとそう言った。
「えっ!えぇ、わ、分かりました…。」
イツキナも恐縮しつつ、このサクルという人にはどこかであったような気もすると思った。
「他の方も、よくいらっしゃいました。
随分疲れたでしょう。まずは、あちらの部屋で一旦、お休み下さいな。
ラ・モエ、ご案内して下さい。」
「はい、分かりました。」
サクルはそう言うと、モヱに案内を指示した。




