大悪党の黄昏1
女子部員達は、夜も何が起こるか分からないため、交代で寝ずの番をする事にした。
「…今度は、猫ちゃんか。」
エメは、ロネントに宿っていたため眠気も起こらなかった。
そのため、順番に起きてくる部員達を待ち受けている状態だった。
「もうっ!私はシアムですっ!昼もそう言ったのにっ!!」
「あぁ、そうだった。すまんな。年を取ると物覚えが悪くなるんだ。
ん?歳って俺はいくつだ?あははっ!」
「夜中だから静かにして、にゃっ!
しかも、男声はダメって言ったでしょっ!」
「あ~ぁ、面倒ね…。
…私が起きているから、順番に起きてこなくても良いのに…。」
エメは面倒くさそうに、女性声(來帆の声)になってそう言った。
「…あ、あなたが信用できないからじゃないっ!」
シアムは、いつもより勇気を出しながらそう言った。
「…まぁ、そうよね…。
あんまり心配しなくても良いのよ。ロネントは襲ってこないから。」
「それにゃっ!どうして、そう思うの?変よっ!
大体、どうして私たちのところに来たのよっ!」
「シアムさん…、声が大きいわね…。」
「にゃっ!」
シアムは慌てて口を押さえた。
「昼間に説明したでしょ?偶然、部室を見つけたからだって。」
「そ、それに、私たちをどうして助けようと思ったのよっ!」
「…質問ばかりね。
あなた達がロネントを追いかけていたからよ。
ロネントに襲われるなんて、普通じゃ無いでしょ?」
「…そ、そうだけど…。」
「その後、教室での会話を聞かせてもらったわ。
あなた達が洗脳されていないと知って、助けてあげようと思ったのよ。
副部長さんに悪い事をしてしまったしね。」
「…そ、それでも信じられない、にゃっ!。」
「そんなにむっつりしているとロ・ウ・アさんに嫌われちゃうわよ?」
エメは目を細め、シアムをバカにしたような顔をした。
「みゅっ?!(ボボボ…。)」
シアムは急にロウアの名前を出されて顔を真っ赤にした。
「あら、顔を真っ赤にして可愛いわね~。
当てずっぽうに言ったけど、池上さんと良い関係なのかしら?」
天性のいじめっ子であったエメはシアムのそれを見逃さなかった。
「(ボボボボボボ…。シャ~~ッ!)」
全て図星なシアムは怒りが収まらず、髪の毛が逆立っていた。
「あ、あなたこそ、カミと何があったんだ、にゃっ!!!」
それと同時に、シアムは、以前からロウアが未来でこのエメと知り合いだった事に悔しい思いがあった。
自分の知らないロウアを知っている思うとどうにも落ち着かないのだった。
「ふふっ!内緒って言おうと思ったけど、少しなら良いかしら。」
エメはとぼけたようにそう言った。
「むぅっ!!」
シアムは怒り気味だったが、興味津々だった。
「そうね…。
私はあの人に助けられた事があったのよ…。
今からはるか未来の時間でね。
それも私たちにとっては過去の事なんだから、タイムスリップって不思議ね…。」
「た、たいむすりっふ…?」
「意味は、時間旅行ってところかな。」
「カミと同じ…。」
「そう。池上さんと同じ。
そうだなぁ、池上さんに対しては…。」
エメは、自分の気持ちを確認するようにため息をした。
「…ゴクリ。」
シアムは固唾を飲んでエメの次の言葉を待った。
「…あの時の気持ちは、ほんの一時だったけど、ちょっとした憧れだったのかもね…。」
「あ、憧れ…?」
恋愛感情では無いと言われて、シアムは意外な思いがした。
「そうよ。だから心配しないで良いわよ。その後の悪魔生活の方が大変だったしね。」
「あ、悪魔生活、にゃ?それってどんな…?」
シアムは、エメのロウアに対する感情を知って安心したのか、徐々にエメの話に引き込まれていった。
「女悪魔になって大暴れしたってところかしら。
でも、あの姿は思い出したくも無い…。気味の悪い姿…。」
エメはシアムから目を背けながらそう言った。
「…そんな姿にどうしてなったの…?」
「心って思ったままなのよ。
この時代の人なら勉強しているかなぁ、宗教が一般的だものね。
この世に生きていたら肉体があるけど、死んでしまったら魂になってしまうでしょ?
「が、学校で勉強した、にゃ。」
「ふふっ、それって本当よ。
魂になったら生前に思っていた姿になるの。」
「う、うん…。で、でも、死んでしまったって…、どういう…。」
「私たちのいた未来でね、大きな地震があってね。その時、池上さんに助けてもらったの。」
「そんな事が…。」
「少し池上さんに興味がわいていたから、彼を追いかけたこともあってね。
そうしていたら、知らない人に殺されてしまったわ。」
「…こ、殺されちゃったのっ?!」
「私は、何か秘密を見てしまったみたい…。
あの人誰だったのかしら…?
…ま、もうどうでも良いわ…。」
「……。」
「殺されてしまった後、私は悪魔に操られていた事が分かったの。」
「…操られていた?」
「愛那…、あぁ、イツキナって子の未来世ね…、その子を悪魔の操り人形になって虐めていたんだって。
自分の意思だと思っていたけど、違ったのよ。」
「…そんな…。」
「そして、私はその子を自殺まで追い込んでしまったわ…。」
「じ、自殺…?」
シアムは、学校などで自殺の恐ろしさを聞いていた。
エメが言ったように、命を落として魂となったその人は、思っていたままの姿となる。
苦しみながら自殺した者がどうなるのか知っていった。
苦しみを何度も繰り返す者、その苦しみから逃げるため他人を巻き込む者、誰もが悲しみの未来へと落ちていく。
ただ、この時代が幸いなのは宗教が一般的な事だった。
不幸にも自殺した者も天からの導きで比較的早めに自分が死んだ事を知る事が出来るからだった。
シアムは、そのような知識の無い、未開の地では何十年と苦しみが続く事があると聞いていた。




