清掃中
ムーを覆った霧の話していた部員達は、ふと気づくと部室に、いつの間にか同じような真っ白な霧が充満し始めていて、混乱状態になった。
「なんじゃ~~っ!」
「えっ!!すごい霧っ!!どうして、にゃっ?!」
「あうんっ!また真っ白で転んじゃいますっ!」
「ツ、ツクゥ、大丈夫ぅぅっ!!」
緊急事態の発生は、アマミルの表情をリーダーの顔に変えた。
「マフメノ君、ツクちゃん、アルちゃん急いで窓を開けてっ!」
「は、はいぃぃっ!」
「分かりましたっ!」
「あわわ、あわわ…。」
アルは恐ろしさの余り焦ってしまっていた。
「アルちゃん、慌てないでしっかりしなさいっ!」
「は、はいっ!」
だが、アマミルにピシッと言われると落ち着いて窓を開けた。
このお陰で、教室の窓が一斉に開いて霧は外に流れていった。
「外は問題無いみたいね。」
アマミルは窓から逃げていく霧を見ると次の行動に出た。
「私、イツキナ、シアムちゃんは廊下よっ!廊下から霧が上がってたわっ!」
冷静に霧の入り始めた場所を分析していたアマミルは、犯人を取り押さえるために動いた。
「あっ!!あっちよっ!」
アマミルとイツキナ、シアムが部室の外に出ると、普段は人気の無い廊下を何者かが急いで立ち去るのが見えた。
「二手に分かれたわっ!
シアムちゃんは右の人をっ!
イツキナは左の人よっ!」
アマミルは、二人の逃走者を鋭く指差した。
「は、はい、にゃっ!」
「元陸上部を舐めるなよ~~っ!!身体はかなり治ったんだぞ~~っ!」
二人はアマミルの指示で逃走者を追いかけていった。
「…ん?前にもこんな事あったような…。」
アマミルは指揮をしながらも以前もこんな事があった事を思い出していた。
「おりゃ~~っ!」
イツキナは数十メートルを全力疾走して、あっという間に逃走者に追いつくと、ヒュッと飛びかかった。
飛びかかられた逃走者は、たまらず倒れてしまったので、イツキナはそのままの勢いでその者をがっしりと掴んだ。
「つ、捕まえたぞぉ~~っ!」
逃走者は身動きが出来ずもがき続けた。
シアムも、もう一方の逃走者を捕まえたようだった。
「はぁ…、はぁ…、イ、イツキナ…、いつの間に身体を鍛えていたのよ…、はぁ…、はぁ…。
や、やるじゃない…。」
「まあね~っ!」
イツキナは得意満面でアマミルに手を振った。
「で、でも、あなたの捕まえているそれって…、な、なぁに…?
やっぱり…、そうなの…?あの時と同じ…?」
息を切らせたアマミルは、イツキナの方に何とか追いついたのだが、逃走者の姿を見ると動きが止まってしまった。
その姿は、想像したものと一致していたからだった。
「…清掃用のロネント…なのね…。」
「そうみたいだねぇ~…。しっかし、これってさ~、メメルトの時みたいだね~…。」
ロネントにまたがって動けないようにしたイツキナもメメルトの時を思い出していた。
あの時は、霊界お助けロネント部の初期活動の頃だった。
夜のナーカル校の七不思議を調査中、メメルトの魂が宿った清掃用ロネントをロウアが追いかけて捕まえたのだった。
「アマミル先輩っ!こっちも清掃用ロネントです、にゃ…。
ってっ!!ロ、ロネント~~~ッ?!」
もう一方で、シアムがしがみついているのも同じように清掃用ロネントだった。
シアムはちょっとしたロネント恐怖症になっていたので捕まえたものが、それと分かると急に怖くなってしまい、怯んで力を弱めてしまいそうになった。
その弱まった力を感じたロネントは逃げそうになった。
「…こ、怖い…、にゃ…。で、でもでも…っ!!」
シアムは恐怖を振り払おうと目を瞑った瞬間、ロウアの姿が目に浮かんだ。
「カミィッ!ラ・ムー様ぁっ!、お、お力を~~っ!
わ、私は、強くならなくっちゃいけないんだ~~っ!
う~~~、にゃ~~っ!!」
その姿を思い浮かべて再び力がよみがえって、またがっしりとロネントを掴んだ。
そのためなのかどうかは分からないが、やがてロネント達は動くのを止めて大人しくなった。
「にゃっ?止まった…。」
イツキナの方も同じだった。
"清掃中…。清掃中…。邪魔をしないで下さい。"
すると、そのロネント達は、掃除を邪魔されたときの定型文を話し始めた。
「せ、清掃中…、にゃ?」
"清掃中…。清掃中…。邪魔をしないで下さい。"
「い、いやいや…、あなた達、清掃どころか、変な煙を教室にまいてたでしょ?
アレって何なのよっ!」
"清掃中…。清掃中…。邪魔をしないで下さい。"
イツキナは問い質そうとしたが同じ言葉を繰り返すだけで埒が明かなかった。
すると、マフメノが重い躯体を揺らしながらやって来た。
「はぁ…、はぁ…、く、苦しいぃぃ…。
こ、これって、せ、清掃用だよぉ~…。どうしてこんなことをぉ??
はぁ…、はぁ…。ぜぇ…、ぜぇ…。」
マフメノはそう言いながらロネントのスイッチを切った。
"せい…そう…ちゅ…う…。"
ロネントは、最後の訴えのように言葉を途切れ途切れになりながらしゃべりつつ停止した。
ツクももう一方のロネントのスイッチを切った。
「この子達を部室に持って行くわよ。マフメノ君、ツクちゃん、調べてくれる?」
「は、はいぃ。ぜぇ…。ぜぇ…。」
「分かりました~。」




