不思議な霧
霊界お助けロネント部の部室では、ムーの人達がロウア達の事を忘れてしまった原因を調べていたのだが、結局、根本的な原因は分からずにいた。
ただ、アマミル達の学習旅行中にムー国全体が濃い霧に包まれるという事件があった事を知るだけだった。
「う~ん、私思ったんですけど…。」
アルが何か言いたそうにした。
「どうしたの?」
アマミルが問うと、
「私が言うのも変ですけど、みんなの状態って私が記憶を無くしてた頃と似ている気がするんですよね…。」
「う~ん?そうなのかなぁ…。」
イツキナは首をかしげながら確認するように聞いた。
アマミルはまた腕を組んで考え込んでいた。
「た、多分…、多分です…。」
「アルちゃんの時は放課後の記憶が消えてしまったんだよね?」
確信の持てないアルを気遣いつつ、今は小さな情報でも何かにつながると思ってイツキナは質問を続けた。
「…確かに、あの時、アルちゃんもカミ君の事をロウアって呼んでいたわよね。」
腕をほどいたアマミルは、イツキナと同じ気持ちだったのか、あの時のアルの症状を思い出すようにそう言った。
「そうなんです。
あの時は、カミィが未来からやって来たって話がすっかり飛んでしまっていました。
それに…。」
「それに…?」
口ごもったアルにイツキナは確認するように聞いた。
「…カミィは海で溺れたのに何で生きているんだろうって、ず~っと不思議に思ってました…。」
部員達は、あの時、アルがそんな事を考えていたのかと思って深刻に受け止めながら聞いていた。
「アルちゃん、きっと不安だった、にゃ…。ごめんね、気づかなくって…。」
「アル様…。ごめんなさい…。私も分かりませんでした…。」
シアムもツクもアルへの思いが足りなかったと反省しながらそう言った。
真剣な表情だったアルは、急に笑顔になると、
「シアム、ツクちゃんありがと…。
でもね…。
元気そうだからいっか~ってなったから大丈夫だよっ!」
と、あっけらかんと言って、手を振って問題無かったよとジェスチャーした。
部員達は、そのお気楽な性格と受け入れの早さに一斉にずっこけてしまった。
「あ、あれ、みんなどうしたの…?」
「さ、さすがね…。」
「その考え、良いな~、好きだな~。」
「ア、アルちゃんらしい、にゃ…。」
「アル様っ!さすがですっ!素敵ですっ!」
「みんながカミィの事をイケガミ~って呼ぶから変だと思っていたんですよねぇ~。」
アルの脳天気話で本題を忘れそうになってしまったが、アマミルは頭を回し続けた。
「う~ん、アルちゃんの話からすると、今のムーの人達みたいに記憶が上書きされていたってことよね。」
「そうみたいだよね~。」
アマミルの理解にイツキナも頷いた。
「そ、そうだっ!自分の部屋が真っ白になるぐらい霧が籠もったことがあったんですっ!」
アルはもう一つ大事な事を思い出した。
「なぁに?そうなの?」
「なんとっ!」
「そうだったのか、にゃっ?!」
その話は更に一同を驚かせた。
「私は自分の涙で曇ったのかと思ったんですけど…。」
「…な、涙…か、にゃ?あぁ…、あのとき…。」
「そうそう、みんなからのけ者にされたかと思った日…。」
シアムはロウアの部屋に集まった部員達からのけ者にされたと勘違いして、涙ながら自分の部屋に戻った日の事を言った。
アルは、ベッドに潜って泣きながら眠ったのだが、夜中にふと目が覚めると、部屋中が真っ白になっていることに気づいた。
だが、眠気には勝てずそのまま眠ってしまったのだった。
「次の日からおかしくなった気がするんだよなぁ…。」
「アルちゃんの部屋でも霧がね…。
それって…、ツクちゃんが話してくれた霧と一致するのかしら…。」
アマミルは、アルとツクの話した不思議な霧の話が一致してしまったので、やはり霧が何かを起こしたのだと理解した。
「アマミル…、師匠とメメルトもその霧が原因じゃないかって言ってるよ。
天国でも話題になったらしい。
その時は、地上の人にインスピレーションなんかが送れなくなったんだって。」
イツキナが髪の短い女神とメメルトの意見を付け足した。
「えぇ…。天国ともつながらなくなってしまうなんて…。
だけど、国中を覆うぐらいの霧って…。どんな霧なのかしら。」
「あっ、丁度、こんな煙みたいなやつですぅ…。」
ツクがぼそっと言った。
「そうそう、こんな霧だったような…、って、やだやだやだ~っ!何だこの霧はっ!!」
話に集中していた部員達は、ふと気づくと部室に、いつの間にか真っ白な霧が充満し始めていた。




